表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/12

10 洞窟の底の死闘

 グラウンド側の半分が崩壊した廃校の隣に建つ空っぽの物置の中で、ジルがプンプン怒って不満を述べていた。

「ジルちゃん、ここは汚いから嫌い〜っ! もっとキレーな場所に行きたぁ〜いっ! それに、またお腹が空いたぁ〜っ! 早く生き血をゴクゴク飲みたぁ〜いっ!」

 ルージも嫌悪感を露わにして、吐き捨てるように言った。

「オレも、もうここは勘弁だな。こんな汚らしい場所は、オレには不似合いだぜ」

 スノンは、ジルとルージに言った。

「さっき眷属にした人間は、私たちを捜していた。他にもまだ眷属になっていない人間がいるかもしれぬ。さっき私は、眷属にした人間どもに、目覚めて行動を始めるようにテレパシーで命令を下した。

 一晩中眷属をつくり続けて霊力も魔力も使い果たし、用心のために、長い間人間が出入りした形跡がないこの場所に身を潜めて回復のための睡眠をとっていたが、目覚めた眷属どもが人間を捜し続け、見つけ次第生き血を吸い尽くすあの町は、今や我らの安息の地となった。もう、ここにいる意味はあるまい。ここを離れ、我らの町に行くことにするか?」

「ジルちゃん、大賛せ〜いっ!」

「オレも乗ったぜ! そうだ、あいつはどうする?」

 ルージは、物置の外に立つヴァンパイアの眷属になったもみじを壁越しに指差し、スノンが冷たい表情のまま答えた。

「ここに置いておいても意味はあるまい。我らの町へ向かわせよう」

「じゃ〜あ〜っ、ジルちゃんが命令するぅ〜!」

 ジルは、壁の向こうのもみじに向かって声をかけた。

「ねぇ〜っ、さっきジルちゃんの中で生まれた君の名前は、エリオスちゃんに決めたよぉ〜っ」

 壁を隔てて、邪悪な表情になったもみじが答えた。

「素敵な名前をつけていただき感謝します。ジル様」

「君は弱っちい人間を体にしちゃったからぁ〜、最下級の眷属になったんだからねぇ〜っ! 恨むんなら、運命を恨んでねぇ〜っ!」

「心得ております。ジル様」

 エリオスと名づけられたもみじの体を支配する者が、恭しく答えた。

「じゃあ〜ね〜っ、ジルちゃんたちはあたしたちの町まで瞬間移動で行くからぁ〜っ、エリオスちゃんは自分の力で町まで来てねぇ〜っ!」

「了解しました。ジル様」

「じゃあ、後でねぇ〜っ!」

 ジルとスノンとルージは一斉に姿を消し、エリオスはもみじの顔に邪悪な笑みを浮かべて呟いた。

「私も空腹だ。早く生き血を飲みたい」


 洞窟の中では、鏡太朗が龍雷で大ムカデの攻撃を払いながら、隙を突いて何度となく大ムカデに龍雷を叩きつけていたが、大ムカデには全くダメージがなかった。鏡太朗は、大ムカデの口の左右に一本ずつある前足のような牙をかろうじて防いでいたが、防ぎ切れなかったしっぽの打撃を何十回となく受けて血を吐き、体中が傷だらけになり、傷からは血が流れ続けていた。

『いくら龍雷で打っても効かない! どうすればいい? どうすればいいんだ?』


 クロリリィは、体中がボロボロになっても闘い続ける鏡太朗の姿を食い入るように見つめ続けた。

『本当におバカ! 鏡太朗って、本当におバカよ! 人間なんて、苦しくなったら他の人間を犠牲にしてでも自分だけが助かろうとするものよ。それが人間の本性なのよ。それなのに、どうして自分のことよりも他人のことを大切にできるのよ!』

 クロリリィは、ボロボロになっても必死に闘い続ける鏡太朗を見つめながら、いつの間にか両手を強く握り締めていた。


 鏡太朗は大ムカデのしっぽの強烈な一撃で吹き飛ばされて壁に激突し、そこに大ムカデの口が襲いかかったが、龍雷で大ムカデの頭部を打ち、大ムカデの頭が横に振られた。

『そ、そうか!』

 鏡太朗は何かを思いつくと、柄の先の龍雷の長さを二十センチまで短く縮めた。

 大ムカデは鏡太朗に向かって再び口から突進したが、鏡太朗は大ムカデの突撃を避けなかった。大ムカデのグロテスクな口が鏡太朗に迫った。


「きょ、鏡太朗ーっ、避けなさいよーっ!」

 クロリリィは鏡太朗に向かって思わず叫んでいた。


 鏡太朗は龍雷に向かって叫んだ。

「龍雷よ、大ムカデの体の中に伸びろおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 鏡太朗は龍雷の柄を大ムカデの口の手前で手放すと、大ムカデの口の横にある前足のような二本の牙を紙一重でかわし、地面を転がった。長く伸び始めた龍雷の先端は大ムカデの口の中に突き刺さり、そのまま大ムカデの体の奥まで見る見る伸びていくと、大ムカデの体内で雷を放った。

 大ムカデは全身を激しくくねらせて苦しんだ。

「龍雷よ、もっと雷を放てえええええええええええええええええええええっ!」

 大ムカデの体内で龍雷が激しく雷を放射し続け、やがて大ムカデは動かなくなった。


「や、やったのか……?」

 立ち上がった鏡太朗は、信じられないという表情を浮かべて大ムカデを見つめ、龍雷は大ムカデの口から抜けて縮んでいき、六メートルの長さに戻った。


「やった! 彩奏(あやか)ねーちゃん、あの人、あいつをやっつけたよ!」

 洞窟の天井の下で浮遊していた芽衣里(めいり)の魂が、白い光の粒の姿で喜びの声を上げ、隣で浮遊している白い光の粒の姿の彩奏(あやか)も嬉しそうに言った。

「これで、芽衣里(めいり)とあたしは助かるよ! あの人……、あんなにボロボロになってまで、あたしたちを守ってくれた」

 芽衣里(めいり)彩奏(あやか)の魂は、白い光の粒の姿のまま地上に向かって降りていった。


「あ、あんた、な、なかなかやるじゃない」

 クロリリィが鏡太朗の背後に立ち、視線を横に向けて言いづらそうに言った。

「ありがとう、クロリリィちゃん! みんなを守れて本当に嬉しいよ!」

 鏡太朗は幸せいっぱいの輝く笑顔をクロリリィに向け、クロリリィは鏡太朗に視線を向けた瞬間、その笑顔に目が釘づけになった。

『な、何なの? この感じ……? 鏡太朗の笑顔に視線を奪われて、身動きができない。胸の鼓動が高まっていく。頬が熱い……』


「おにーちゃん、ありがとう!」

 クロリリィの後ろには、人間の姿に戻った芽衣里(めいり)彩奏(あやか)の魂が笑顔で立っていた。鏡太朗は満面の笑みで二人を見つめた。

「二人とも無事で本当に嬉しいよ!」

 その時、地面が突然揺れ始めた。

「きゃあああああああああああああああああああああああっ!」

 彩奏(あやか)の足の下から、もう一体の大ムカデが赤黒い柱のように飛び出し、彩奏(あやか)の下半身を先端の口で呑み込んだ。


 その場にいる誰もが、予想していなかった事態に愕然とした。

芽衣里(めいり)ーっ! 逃げるんだあああああああああああああああっ!」

 そう叫んだ彩奏(あやか)の全身が、大ムカデに呑み込まれて消えていった。

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 芽衣里(めいり)はパニックを起こして悲鳴を上げた。

 地上三十メートルまで露出した大ムカデの体が空中で急角度のカーブを描くと、芽衣里(めいり)に上から襲いかかったが、芽衣里(めいり)は悲鳴を上げ続けたまま凍りついたように動けずにいた。

芽衣里(めいり)ちゃあああああああああああああああん!」

 鏡太朗は龍雷を操って大ムカデの頭部を打ち払い、大ムカデの軌道を逸らした。しかし、鏡太朗の背後の地面から大ムカデのしっぽが飛び出すと、鏡太朗を横殴りにして、鏡太朗を五十メートル先の壁に叩きつけた。

 鏡太朗の視線の先では、大ムカデの口が再び芽衣里(めいり)に向かって上から迫っていた。 

芽衣里(めいり)ちゃあああああああああああああああん!」

 涙を浮かべて絶叫した鏡太朗の目の前で、大ムカデが芽衣里(めいり)を上から一口で呑み込んだ。

「そ、そんな……、そんな……。芽衣里(めいり)ちゃん……、芽衣里(めいり)ちゃああああああああああああああああああん!」

 鏡太朗は大粒の涙を溢れさせながら、声を限りに絶叫した。


「あーっ、本当にあんたを見てるとモヤモヤするわーっ! 何で他人のことでそんなに本気で泣けるのよ?」

 鏡太朗の右斜め上からクロリリィの声が聞こえ、鏡太朗が見上げると、クロリリィが地上十メートルの高さで滞空していた。

「え?」

 鏡太朗の目が大きく見開いた。クロリリィは両腕の中に芽衣里(めいり)を抱きかかえていた。

芽衣里(めいり)ちゃん!」

 鏡太朗は喜びながら芽衣里(めいり)の名前を叫んだが、芽衣里(めいり)は一切の感情を失ったかのように何も反応しなかった。

「悪魔はね、人間の心でできているから、魂にだって触れられるのよ。でも、この子、さっきのショックで心が壊れちゃったみたいね」

 クロリリィは鏡太朗の横に着地すると、芽衣里(めいり)の体を離したが、芽衣里(めいり)は人形のように感情のない表情のまま、身動き一つしなかった。

芽衣里(めいり)ちゃん!」

 鏡太朗は龍雷を手放して芽衣里(めいり)の左手を握ろうとしたが、鏡太朗の両手は芽衣里(めいり)の左手を通り抜けた。

 鏡太朗は芽衣里(めいり)の前に力なく両膝をついて、一切の感情を失った芽衣里(めいり)の顔を見つめた。鏡太朗の体が小刻みに震え、その両目から大粒の涙が流れた。

「クロリリィちゃん……、俺……悔しいよ……。自分があまりにも無力で……悔しい……。彩奏(あやか)さんを守ることも、芽衣里(めいり)ちゃんの心を癒やすことも、手を握って温もりを伝えることも……、たったそれだけのことでさえ、俺にはできないんだ」

 鏡太朗は体を震わせながら、涙を流し続けた。


 クロリリィは少し悲しそうな目で鏡太朗を見つめていたが、大ムカデに顔を向けて睨みつけた。大ムカデは地表の土をめくり上げて、地面の上に長さ百メートルの全身を露出させていた。

「人間のことなんて、どーでもいいけど……、何だか、あいつムカつくわね!」

 大ムカデが無数の足を動かして、もの凄いスピードでクロリリィたちに迫った。

「クロリリィちゃん! 逃げるんだーっ!」

 芽衣里(めいり)の前で両膝をついていた鏡太朗が、クロリリィに叫んだ。

「あたしはねーっ、悪魔史上最速と言われる動きの速さと、どんなものでも切断できるこの翼を持っているのよ! だから、こんな虫けらなんて敵じゃないのよ!」

 クロリリィは、十メートル前方まで迫っていた大ムカデの頭の上方まで一瞬で移動した。

「そ、そんな……」

 クロリリィは信じられないものを目にしたかのように、大ムカデの頭部を愕然として見つめた。

「あたしの翼で頭を真っ二つにしたはずなのに……、こいつ、傷一つない……」

 激しく動揺しているクロリリィの背後から、大ムカデのしっぽが迫った。

「クロリリィちゃん!」

 鏡太朗は大ムカデの体を駆け上がって跳び、クロリリィの体を抱きかかえると、大ムカデのしっぽの一撃を背中で受けた。

「ぐわあああああああああああああああっ!」

 鏡太朗はクロリリィを抱きかかえたまま壁まで吹き飛び、クロリリィが壁に激突する直前、裂帛の気合を込めて壁を両足で蹴った。

「だああああああああああああああああああああっ!」

 クロリリィの壁への激突を回避した鏡太朗は、クロリリィを抱えたまま背中から地面に叩きつけられて悲鳴を上げた。

「がああああああっ!」

 クロリリィは立ち上がると、仰向けで倒れたままの鏡太朗の顔を覗き込んだ。

「ちょっと、あんた、大丈夫なの?」

 クロリリィの背後から、大ムカデの口が迫っていた。

「クロリリィちゃん!」

 鏡太朗は一瞬で起き上がると、クロリリィの背後で大ムカデに向かって両腕を広げた。クロリリィは鏡太朗の動きを目で追って背後を振り返った瞬間に、目を見張った。鏡太朗は両腕を広げてクロリリィをかばい、その両脇腹には大ムカデの口の左右に一本ずつある前足のような牙が突き刺さっていた。

「ぐああああああああああああっ!」

「鏡太朗ーっ!」

 クロリリィが鏡太朗の名前を叫び、その目には涙が滲んでいた。


「きゃああああああああああああああああああああああっ!」

 鏡太朗の様子を目にした芽衣里(めいり)が、突然悲鳴を上げた。その脳裏には、自分の両親と自分自身、その他の人々が大ムカデに牙を刺されて毒を注入され、動けなくなった後に、少しずつ体を食われていった光景がフラッシュバックした。

「み、みんな殺された……、あの牙の毒で動けなくなって、殺された……。いやああああああああああああああああああああっ!」

 芽衣里(めいり)がパニックを起こして泣き叫んだ。


 クロリリィは目にも止まらぬスピードで、右腕に鏡太朗、左腕にパニック状態の芽衣里(めいり)を抱えて宙に浮かび、大ムカデから距離を取った。

 クロリリィは、芽衣里(めいり)の目をじっと見つめて呟いた。

「あんたは少し眠って落ち着きなさい」

 その瞬間、芽衣里(めいり)は気を失ったように眠りにつき、クロリリィが鏡太朗に目をやると、激痛に耐えている様子が見て取れた。

「鏡太朗、今この子が毒って言ったけど、大丈夫なの?」

「か、体中に激痛が走って、体が上手く動かない……。ぜ、全身の神経に異常をもたらす……ど、毒みたい……」

「鏡太朗、悪魔の体はね、元々物質じゃないから、ダメージを負うことも、死ぬこともないのよ。そりゃあ、痛みは感じるし、あたしは痛いことが世の中で一番大嫌いだけど……、あたしは死なないし、怪我もしないんだから、かばう必要なんてないのよ」

「だ、だけど……、俺、クロリリィちゃんに痛い思いはして欲しくない……。クロリリィちゃんを痛みから守れるのなら……、俺は何度でも体を張るよ……」

 クロリリィは、激痛に耐えながら優しい笑顔を見せる鏡太朗に視線を奪われていた。


 やがて、クロリリィは無言で着地すると、鏡太朗と芽衣里(めいり)を地面に横たえた。クロリリィは再び迫ってくる大ムカデを睨みながら、背後の鏡太朗に向かって言った。

「あんたって本当におバカね。その内に、誰かを守るために命を落とすことになるわよ」

 鏡太朗は激痛に耐えながら笑顔で答えた。

「お、俺の命で誰かを救えるのなら……、自分の命なんて惜しくはないよ……」

 クロリリィは鏡太朗を振り返って叫んだ。

「あたしは鏡太朗に死んで欲しくないのよ! そんなこともわからないの? 本当にあなたってバカ! バカよ! バカーッ!」

 クロリリィの目からは、涙が溢れていた。


 クロリリィの目前に大ムカデが迫っていた。

『こんな奴に鏡太朗は殺させない! あたしが絶対に……』

 クロリリィの体が動いた。

『守ってみせるんだからああああああああああああああああああっ!』

 クロリリィは一瞬で移動して大ムカデの頭上に滞空しており、その時には大ムカデの頭部が真っ二つに切り裂かれていた。


 悪魔の帝国では、少女の姿の皇帝ザギャリーザが、大悪魔ルシファーと並んでバラ園を歩いていた。

「ねぇ、ルシファー。あたしがクロリリィに一番興味を持ってることって、なーんだ?」

「さ、さあ、見当もつきませんが」

「クロリリィはね、人間と同じように感情や想いで力を増していくの。強い感情や想いで、霊力がとんでもなくいっぱい集まって、もの凄い力を発揮するのよ。あんな面白い悪魔は見たことがないわ」

「は、はぁ……。悪魔はどんな時でも同じ力を発揮できるものですが、それは確かに変わっていますね」

「でしょーっ? だから、強い想いがクロリリィを動かす時、どこまで強くなるのか興味あるの。まさか、あたしを脅かすような存在になるなんて思わないけど、念のためにクロリリィの力は確認しておく必要があるんだよ。今まで秘密にしてたけど、実はね、あたしには、悪魔の帝国にいながら人間界の悪魔の様子を視る能力があるの。だから、時々、人間界でのクロリリィの様子を監視してるんだよ。このまま監視を続けて、もしも危険だって思えば、すぐに消滅してもらうけどね」

 皇帝ザギャリーザは無邪気に笑った。


 町では、数千人のヴァンパイアになった町の住民たちが、さくらと來華、まふゆ、ナツ、戦闘モードのコアちゃんを幾重にもなって取り囲んでいた。さらに、もっと大勢のヴァンパイアになった邪悪な顔つきの住民たちが、あらゆる道路からさくらたちの方に向かって歩いていた。ヴァンパイアになった住民たちの多くは、ルームウェアやパジャマなどのラフな服装をしていた。

 來華が緊張した表情で住民たちを見つめながら、さくらに言った。

「さくら、みんなを見るんじゃ。みんなの服装、あれはわしらが朝死川村を探しに出発した後、夜遅くに家でくつろいでいる時に魔物に変えられたってことじゃ」

 さくらたちを囲む先頭の住民たちは、さくらたちから三十メートルの距離を置いて立っており、その中にはヴァンパイアに変貌した河童(かわわらわ)とそのじーさんがおり、その隣にはさくらと來華の同級生の来美と美来も邪悪な笑みを浮かべて立っていた。

「来美! 美来!」

 愕然とした來華が二人に呼びかけても、二人には何の反応もなかった。

「来美! 美来! 目を覚ますんじゃ! 来美! 美来! 」

 全く反応がない来美と美来に涙を滲ませて呼びかける來華に、さくらが冷や汗を流しながら言った。

「ライちゃん、来美と美来だけじゃないよ。学校のみんながあちこちにいる!」

 さくらたちを囲むヴァンパイアたちの中には、さくらたちと同じ学校の生徒や教員も大勢混じっていた。

『何でじゃ! 学校も、学校のみんなも、この町も、学校やこの町で過ごす日常も、だんだん好きになっていたのに、何でこんなことになるんじゃ! 何で、わしの大切な人たちや、ささやかな幸せを感じる日常は、いつも誰かに奪われていくんじゃーっ!』

 來華の脳裏に、幼い自分の目の前で魔物狩りに連れ去られた母の記憶が蘇り、その両目から大粒の涙が零れた。

「わしは、みんなを元に戻したいんじゃ……。この町の人たちも、この町も、この町で過ごす日常も、何もかも……、一昨日までの平和で幸せだった状態に戻したいんじゃああああああああああああああああっ!」

 來華が声の限り泣き叫ぶと、さくらはその姿を悲しそうな目で見つめた。來華のスカートのポケットの中に入った携帯用薬ケースの中では、しろっぴーが激しく揺れ動いていた。 


 さくらたちは大きな緊張と不安に襲われながら、周囲の住民たちの動きに注意を払っていたが、まふゆがヴァンパイアに変貌した河童(かわわらわ)に向かって声をかけた。

「お前たちの目的は何だーっ? あたしたちをどうするつもりだーっ?」

 河童(かわわらわ)は邪悪な表情で答えた。

「俺たちは偉大なるご主人様の中の一体スノン様から、テレパシーでご命令を受けた。『目覚めよ。そして、全ての人間の生き血を最後の一滴まで飲み尽くせ』と。もうすぐこの世界は、ヴァンパイアの眷属となる人間と、我らの糧となる人間しかいなくなるのだ。お前たちは、目覚めたばかりの我らの最初の糧になるのだ」

 邪悪な笑みを浮かべる河童(かわわらわ)の口の二本の牙が、鋭い輝きを放った。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ