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名前を呼ばれなかった私が、異世界でただ一度「君」と呼ばれるまで  作者: Futahiro Tada


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再会は、選択の前に訪れた

再会は、選択の前に訪れた


 封鎖地帯は、思っていたよりも静かだった。

 木々は枯れ、風は弱く、

 鳥の声すら聞こえない。

 ――静かすぎる。

 私は、足を止めた。

 地図の上では、ここが合流点だった。

 歪みが、線となって集まり、

 必ず辿り着く場所。

「……間違いない」

 胸の奥が、重く脈打つ。

 ここには、

 人の感情が、何層にも折り重なって沈んでいる。

 怒り。

 後悔。

 忘れられた願い。

 それらが、混ざり合い、

 もはや個人のものではなくなっていた。

「……来てる」

 私は、息を整えながら歩を進めた。

 封鎖地帯の中央には、

 崩れかけた石造りの建物がある。

 かつての関所。

 交易路が交わり、人が行き交っていた場所。

 今は、誰もいない。

 ――いいえ。

 誰も生きてはいない。

 その感覚に、背筋が冷える。

 建物の影に足を踏み入れた瞬間、

 空気が、はっきりと歪んだ。

「……やっぱり」

 ここが、中心だ。

 逃げ場はない。

 そのとき。

「――動くな」

 低く、よく知っている声が、背後から響いた。

 反射的に、息が止まる。

 振り返る前から、分かっていた。

「……久しぶりですね」

 私は、ゆっくりと振り返った。

 そこにいたのは、

 騎士団の小隊を率いた男。

 剣を帯び、

 鎧を着けていないその姿は、

 王都で見た最後の彼とは違う。

 けれど。

 視線の強さだけは、変わっていなかった。

「……無事か」

 レオンの声は、感情を抑えている。

「はい」

 短く答える。

 それ以上の言葉は、要らなかった。

 ここは、再会を喜ぶ場所じゃない。

 互いに、状況を確認するだけで十分だ。

「管理局の随行は?」

 彼が尋ねる。

「少し離れた位置に」

「……単独行動か」

「あなたも、似たようなものでは」

 私が言うと、彼は小さく息を吐いた。

「……否定はしない」

 そのやり取りだけで、

 これまでの時間が、すべて繋がった気がした。

 離れていた。

 引き裂かれていた。

 それでも、

 同じ結論に辿り着いた。

「……ここは危険だ」

 レオンが、周囲を見渡す。

「歪みが、個人の処理能力を超えている」

「分かっています」

 私は、頷いた。

「一人では、無理です」

 それは、敗北宣言ではない。

 事実だった。

 レオンは、私を見る。

 その視線には、

 迷いと、決意が同時に宿っていた。

「……共闘になる」

 彼が言う。

「規則違反だ」

「はい」

「処分は、さらに重くなる」

「それでも」

 私は、はっきりと言った。

「ここで引いたら、

 もっと多くの人が死にます」

 沈黙。

 風が、建物の隙間を抜ける。

 その音が、

 かつての人々の声のように聞こえた。

「……お前は」

 レオンが、低く言う。

「それでも、俺を選ぶのか」

 その問いは、

 恋人としてのものじゃない。

 世界を前にした、選択の問いだった。

 私は、少しだけ目を伏せる。

 答えは、もう決まっている。

「……選びません」

 レオンの眉が、わずかに動く。

「一緒に、選びます」

 その言葉に、

 彼は、ほんの一瞬だけ目を閉じた。

「……厄介だな」

 苦笑に近い。

「だろうな」

 でも、背を向けなかった。

 剣に手をかけ、

 私の横に立つ。

 それだけで、十分だった。

 歪みが、動く。

 建物の奥から、

 圧倒的な何かが、目を覚ました。

 空気が、悲鳴を上げる。

「……来るぞ」

 レオンの声が、鋭くなる。

 私は、深く息を吸った。

 恐怖は、ある。

 でも、孤独ではない。

 この場所で、

 この現実を前にして、

 再び並び立った。

 それは、恋の結果ではない。

 恋が、

 世界をどう選ぶかを、

 問い続けた末の、必然だった。

 私は、彼の隣で、前を見据える。

 ――ここからが、本当の共闘。

 世界が、二人に選択を迫っている。

 逃げ場は、もうない。

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