表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名前を呼ばれなかった私が、異世界でただ一度「君」と呼ばれるまで  作者: Futahiro Tada


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/41

同じ場所を、選ばされた

同じ場所を、選ばされた


 その兆しは、音もなく始まった。

 交易集落での対応から三日目の朝。

 私は、地図を広げたまま、動けずにいた。

 紙の上に記された印。

 私が感知した歪みの地点。

 騎士団が介入した衝突の記録。

 それらが、一本の線で繋がり始めている。

「……おかしい」

 呟くと、セシリアが顔を上げた。

「何が?」

「歪みが……移動してる」

 点ではない。

 拡散でもない。

 ――流れている。

 まるで、意志を持つかのように。

「……そんなはずは」

 セシリアが、地図を覗き込む。

「歪みは、感情の滞留で発生する。

 自律的に移動するなんて……」

「でも」

 私は、指で線をなぞった。

「ここ、ここ、そして……ここ」

 線の先にある地点。

 古い地名が、かすれて読める。

「……封鎖地帯?」

 セシリアの声が、低くなる。

「ええ」

 私は、頷いた。

「王都建設以前から存在していた、

 旧交易路の分岐点」

 今は使われていない。

 人が住むことも、ほとんどない。

 だからこそ。

「……感情が、溜まりやすい」

 誰にも見られず、

 誰にも処理されない場所。

 セシリアは、ゆっくりと息を吐いた。

「……管理局の記録にも、ほとんど残っていない」

「意図的に?」

「可能性は高い」

 私は、背筋が冷たくなるのを感じた。

 これは、偶然の連鎖じゃない。

 王都。

 交易路。

 集落。

 すべてが、この一点へ向かっている。

「……行きます」

 私が言うと、セシリアは即座に首を振った。

「だめよ」

「セシリア」

「そこは、管理局の管轄外に近い」

 声が、少し強くなる。

「騎士団の配置も薄い。

 何が起きているか、正確な情報もない」

「だからこそ、です」

 私は、地図から目を離さない。

「誰も行かない場所だから、

 歪みが集まっている」

 セシリアは、黙り込んだ。

 その沈黙は、反論ではなかった。

「……あなた一人では行かせない」

 やがて、彼女は言った。

「でも、今は人を動かせない」

 管理局も、騎士団も、

 すでに各地で手一杯だ。

 ――そして、その状況を作っているのは。

「……彼も、気づいていますね」

 私が言うと、セシリアは、苦く笑った。

「ええ」

 否定しなかった。

「騎士団側から、同じ地点に関する問い合わせが来ている」

 胸が、強く鳴る。

 名前を出さなくても、分かる。

 彼だ。

 私と同じ結論に、辿り着いている。

「……再会は禁止されていますよね」

 確認すると、セシリアは静かに答えた。

「ええ。形式上は」

 形式上。

「でも」

 彼女は、視線を落とす。

「この件は、王都だけでは収まらない」

 歪みが集中すれば、

 被害は、これまでとは比較にならない。

「……選択肢は?」

 私が聞く。

 セシリアは、はっきりと言った。

「ないわ」

 それが、答えだった。

 その日の夜、私は一人で外に出た。

 宿の裏。

 風が強く、星がよく見える。

 胸の奥が、静かに熱を帯びていた。

 怖さはある。

 でも、迷いはない。

 ――また、同じ場所を選ぶ。

 遠くで、馬の蹄の音が聞こえた。

 近づいてくる。

 警戒して身構えた、そのとき。

 小隊規模の騎士たちが、道を進んでいくのが見えた。

 その先頭。

 フードを深く被った人物。

 顔は見えない。

 でも、歩き方で分かる。

 ――彼だ。

 直接、目は合わない。

 声も、交わさない。

 それでも。

 同じ方向へ向かっている。

 私は、思わず一歩踏み出した。

 彼も、わずかに足を止めたように見えた。

 ほんの一瞬。

 それだけで、十分だった。

 再会は、まだだ。

 でも、もう避けられない。

 歪みは、

 人を、場所を、立場を越えて、

 同じ一点へ引き寄せている。

 それは、恋の力ではない。

 使命でも、義務でもない。

 ――世界そのものが、二人を呼んでいる。

 私は、深く息を吸った。

 次に会うとき、

 それは偶然ではない。

 選ばされた合流点で、

 同じ現実を前に立つとき。

 そのとき初めて、

 私たちは、

 「一緒にいる」ことを選ぶ資格を持つ。

 夜風が、強く吹いた。

 星が、流れる。

 合流点は、もう遠くない。

 それを、

 私は確かに、感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ