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■2-5 俺が先輩で、後輩がクラスメイトで

「ふう、ひと悶着、ふた悶着あったようだが、そこそこ議題は絞れたみたいだな。次は四人組で軽くその議題について論じてみてくれ。ディベートなんて大層なものではないから気楽に語っていこう」

伯爵はクラスを見渡す。

「ふむ、我がクラスは40人で現在20ペア。次はペア同士で組んで4人グループを作ってくれ。組んだら軽く自己紹介でもしてからまた議論だ。では移動開始」


再びクラスに喧騒が戻る。

「あらら。四人組だなんて打ち合わせでは聞いてないぜ。うーん・・・これは待つしかないね。好きこのんでこの留年チームには入らないだろう。余った最後のペアを引き入れるしかない」

長々と今後の戦略を話したのだが、北条は話を聞かない。

「はぁい!そこの二人!私たちと組まない?」

元気溌剌に勧誘をしていた。


「スゲーな、キラキラしてるよ、北条飛鳥。これが新人類ってやつか・・・」

感嘆の声を漏らす俺。

「金髪ロングだかんね!キラッキラよ」

犬が水を払うように首を振って、金髪を強調する。

結局、北条が最初に声をかけたペアと組むこととなり、俺たちは滞ることなく四人グループを完成させた。


「――というわけで、漱石先生のことをあーでもない、こーでもないと考える前に自己紹介しておこうか、俺は小早川。以上」

「短いですって!しかも知ってます。30点!」

隣の北条からツッコミが入る。

「ああ?ずいぶん低い点数じゃん。それでは北条センパイの自己紹介に期待しようか」

「あら、そうきますか。いいでしょう、やりましょう」

北条が姿勢を正し、正面の二人を見据える。

「ごきげんよう、北条飛鳥と申します。年は一つ上だけど普通に接してね!趣味は乗馬とピアノ。特技は、そうね外国語かしら。今はヨーロッパ中心に五ヶ国程度だけれど、今後はもっとアジアにも目を向けていきたいと思うわ。あっ、そうそう。この髪の毛はイギリス人の祖父譲りでナチュラルだから変に気にしないでね」

ぺこりと礼をした北条はどうだとばかりの表情を俺に向けた。


「素晴らしいよ。90点はあるよ。てかそれって本当?」

俺は素直に感心してしまった。

「名前と年以外は捏造だよ。髪も百パーセント人工でーす」

北条はサイドの髪の毛を掴み引っ張ってみせた。

「駄目だろ。自己紹介の趣旨分かってないじゃん。逆によくそこまで捏造できたな。そこがすごいよ」


パチパチパチパチ。新メンバの二人が惜しみなく拍手を送った。

「いやいや二人ともパチパチはおかしいから。結局今の『私はダブリです』って言ってるだけだからね」

文句をつけると、新メンバーとなった女の子が妙な返答をしてきた。

「違いますよ、小早川さん!私たちは二人の息の合いっぷりに感銘を受けたんですよ」

男の方も頷く。

「台本なしなわけでしょう!?昨日のHRの時にも感じたんですけど、やっぱりお二人は何か違いますよ」

それは歳が違うのだよ。人生のキャリアが――

と言いかけたが、とりあえず二人の自己紹介を促した。

組んだ時には気付かなかったが、この二人、共に俺と北条の前の席の生徒であった。


男の方は新田薫。

ごくごく黒に近い茶髪は凡百の男子高校生で、校内に同じタイプが何人いるか分からないほどである。

そんな新田の特筆すべき点は、周りの空気を読んでの、場持ちの良さだろうか。

心底どうでもいい、新田の軟式テニス部を一年で辞めた話だが、上手いこと流れを掴み続けて最後まで話し終えるに至った。もちろん、得るものは何一つなかったのだが。


女の方は多田美波。愛称はタダミナとのこと。

新田とは一年のクラスが一緒だったらしい。二人の仲の良さは見てとれるものだ。

身長は女子にしてはやや高め、短めのポニーテールとパッチリとした二重の瞳からは活力を感じ取れる。

バスケ部二年生のホープだというのは新田の弁。

だから、良くも悪くも体育会系で、年上の北条や俺と話すときは、ノリがよくイキイキしているのだが、同い年の新田へは、ひどい扱いをみせたりする。


「それじゃあ、ぼちぼち課題を進めていきましょうか」

全員が自己紹介を終えたので、新田が促す。

「うん。ここで俺や北条の意見を持ってきたいのは山々なのだが、先ほど伯爵から泥を塗られてしまったため不可能だ。人に見せる気になれん。だから君らの議題を聞かせてもらえないかな」

「なるほど・・・了解しました。えー、我がペアが着目した点は――」

話をしようとする新田をタダミナが牽制する。

「チームの意見とかいって、私のボツネタ晒したらブッ叩くかんね」


わちゃわちゃ言い争いだした二人。それを尻目に北条が俺に語りかけてきた。

「なんだかいっぱい意見が出てるみたいですよ。やっぱり若い子は違いますね、小早川さん」

「いやいや、そんなに歳を感じるものでもないだろコレ。まぁ、新田、使える奴を頼むよ」

「使えるヤツ、ありません!」

キッパリと言い切るタダミナ。

「全ボツなんだ!」

素直に驚く北条。

「いやー、私ってイマイチ現国苦手でして。しかも新田は文句ばかり言って自分の意見出さないから」


「まてまて。タダミナの意見に全部突っ込む身にもなれよ!自分の考えなんて出してる時間ないって」

二人がグダグダとプロレス的口げんかをみせる。

「よし、それじゃあ私がタダミナのボツネタをチェックしよう」

北条が事態を展開しようとする。


「えぇー。でも、やっぱり、ボツはボツだから恥ずかしいなー、って」

急に弱腰になるタダミナ。

「じゃあ一つだけ。コレはイケるだろう、ってのを一つ選んでよ」

ここは北条が強引に押し切った。

そうしてタダミナは選び抜いた一議題を別ページに書き写す。

「年上のゴリ押しだったんじゃねーの?北条センパイ」

「まあまあまあ、たまにはイイじゃないですか、そういうのも」

俺の軽口など全く気にしないといった感じだ。


「期待しない方がいいですよ、お二人とも」

ボソボソとした声で新田が警告する。

「うっさい、新田!はい。写し終わりました、どうぞ」

四人が起こす喧騒の中心に、一冊のノートが開いて差し出された。


  ―KのKってなんのK?

  ―KoKoroのK?(二つある)


北条はそっとノートを閉じた。

「ちょっと待って下さいよ!何で閉じちゃうんですか!」

「いやー。過去は振り返るべきじゃないわね」

うっかり自分の黒歴史を開いてしまった様子だ。

「意味分かんないですって!何で遠い目なんですかー!」

タダミナがわめきたてる横で、俺と新田が淡々と語る。

「たしかにアレはボツだな。二つあるっていわれてもな」

「ですよねー。でも一番まともという点では間違ってないんですよ」

「わーお・・・むしろ他のも見たくなったよ」


それを聞いたタダミナは北条に向けていた矛先を俺へと向ける

「いや駄目です!こういうリアクションを貰った以上、他のは見せられません!」

タダミナはノートを取り上げようとしたが、先に持っていかれてしまう。

「いやいや、そう悲観することもないぞ」

ノートを奪ったのは、いつからそこに居たのか、伯爵だった。


「このたわいのない一文を・・・」

そして例のごとく書き込みを始める。

「先ほどの公式を当てはめれば、このように化けるものさ」

  ―漱石=K=DT

  ―KoKoro=2K=2DT

「あとは分かるな。つまり“先生”と“K”は――」

「分かるかぁーー!!」

タダミナの垂直式シャーペン突きが伯爵の胸板にグサリと刺さった。


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