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■1-3 自己紹介とかいうイベント

窓の外から生徒のざわめきが近づいてきた。


「おいおい、やったよ! 姫と同じクラス!」

「F組遠っ!」

「伯爵また担任なの?」


声が一気に増え、階段を駆け上がる足音が響く。


彼女は、さっきまでの席論争を完全に忘れたように窓の外をぼんやり眺めている。


風に金髪が揺れて、やけに絵になる。


……が、その視線は、俺の胸元へ滑ってきた。

青い校章。二年生の色ではない。


そう、俺だけ“二年ぶりの二年生”──留年生だ。


眉が小さく動く。

彼女が何かを言いかけた、その時。


ガラッ。


教壇側の扉が開き、スーツ姿の男が入ってきた。


「よー、おはよう、お二人さん!」


伯爵だ。

本名はあいまいだが、タキシードで入学式に出たせいで“伯爵”と呼ばれている教師。


「なんだお前ら、もう席決めたのか。人気の席を取りおって」


飛鳥は即座に食い気味に抗議した。


「伯爵!ここ私の席なんです!あ、あとおはようございます!」


挨拶はできる子らしい。


伯爵はひと目見て、何かを察したようだった。


「まあ……隣でいいだろ。うむ、決まりだ」


「えぇぇぇぇぇぇ!?」


金髪娘の叫びは、生徒たちがドドドッと入室してくる音にかき消された。


「オース伯爵!一年よろしく!」

「伯爵でも担任できるんだなぁ」


あっという間に教壇周りに人だかりができる。


それがひと段落すると生徒たちは次々に席を確保していく。


が、妙なことに──


俺の周りだけ空白地帯。


隣に金髪の美少女がいるのに、である。

なぜか“俺の近くは避ける”謎の流れが生まれていた。


金髪娘がちらりとこちらを見る。


「……あなた、なんか怖がられてます?」


「確かに、俺の周りだけ魔のゾーンできてるな」


「席番、呪われてます?」


「それは君が隣にいるせいじゃないのか?」


「はぁ!?なんで私のせいなんですか!」


言い返しつつも、金髪娘はすぐ自分の席にちょこんと座る。

なんだかんだ従順だ。


伯爵が手を叩いた。


「はい落ち着けー! 席は決まったな。では窓際後ろから順に──自己紹介、いってみようか」


教室から「えぇ〜〜……」という声。

新学期恒例、地獄のイベントである。


伯爵と目が合った。


やめろ。やめ……。


「じゃあ、一番後ろの窓際、小早川! お前からだ!」


逃げられなかった。


俺は立ち上がり、軽く咳払いして言った。


「小早川涼です。二年ぶりに復帰しました。よろしくお願いします」


ざわ……

軽いどよめきが起きる。そりゃそうだ。


留年生という生き物を見るのは初めてだろう。


その空気に押されるように、右隣の子がすっと立ち上がる。


伯爵も「え?」と目を丸くした。指名してはいないのだ。


金髪娘は、堂々と前を見て言った。


「北条飛鳥です。二年連続、二回目の二年生になります」


……え?


一瞬で教室が静まり返った。


北条は気まずそうに笑って、ペコリと頭を下げる。


俺と北条。

二年ぶりの復帰と、二年連続の二年生。


二度目の青春は、どうやら騒がしくなりそうだ。

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