■1-2 金髪娘との遭遇
教室の奥。
窓から差し込む光の中で、金色が揺れた。
腰まで届くロングの金髪。
根元までしっかり染まっていて、教室の白い壁に反射するほど明るい。
校則違反とか、そんな話じゃない。
存在そのものが「分かりやすく目立つ」。
彼女は掃除ロッカーの前で、
背伸びしたり、小さく跳ねたりしながら
上に置かれたダンボールを取ろうとしていた。
指先がちょん、と触れるたびに、金髪がふわっと揺れる。
……危なっかしいな、あれ。
近づくと、外国人かと思うような彫りの深さではない。
大きな瞳にハッキリした眉。
健康的な頬の色。
でも髪だけが異常に主張している。
妙にアンバランスで、妙に可愛い。
俺が声をかけようとしたその瞬間──
ダンボールが、ぐらり。
「あのさ、それ──」
「え?」
彼女が振り向く。
バランスが崩れる。
落ちる。
とっさに身体が動いた。
ダンボールは左手で受け止め、
彼女の後頭部は右手で支え、
勢いのまま、二人して床へ。
『ベタン』
痛くはない。
むしろ、綺麗に着地した。
問題は──
互いに胸を重ねる形で、俺が覆いかぶさっているという事実。
「……あー、ごめん。頭、打ってないよな?」
右手をそっと離す。
彼女は目を丸くして、そのまま仰向けになり、天井を見た。
「だ、大丈夫です……びっくりした……」
頬が赤い。
俺も軽く咳払いする。
「始業式、終わったんですか?」
「いや、まだ。サボりだな」
「……私もです」
そこで彼女がぽふっと笑った。
つられて俺も笑う。なんだこの空気。
とにかくダンボールをロッカーに戻して席につくと──
「あ、あの!」
「礼ならいいよ。重くなかったし」
「ちがいます!」
彼女は頬をむくっと膨らませ、自分のバッグを指さした。
「そこ、私の席なんですけど!」
「え、もう決まってるの?五十音順?」
「決まってません!早い者勝ちです!」
はい出た。変わってる。
「なるほど。窓際最後列が、ベストポジションってわけか」
「そうです! ここ、一番いい席なんです!」
俺は椅子に深く座り、手を組み、宣言した。
「……悪いけど。今日はもう、俺が取ったから」
「反則です!先住民アピールは反則です!」
「でもセーフだろ。君を助けたポイントがあるから」
「なっ──!」
「顔面でダンボール受けてたら鼻血じゃ済まなかったぞ?」
「ぐぬぬ……」
悔しそうに机に突っ伏す。
そして、ころん、と俺の方を向く。
「異・議・あ・り・ま・す!」
「はいはい、どうぞ」
「私が文集を落としたのって……あなたが急に近くにいたからじゃないですか!」
「……」
「つまり!あなたのポイントは自作自演なので無効です!」
めちゃくちゃな論理だが、勢いがすごい。
その時、窓の外からざわめきが聞こえてきた。
始業式が終わったのだろう。生徒たちの足音が近づいてくる。
彼女は窓の外を一瞬見てから、また俺を見る。
その金髪が光の中でゆらゆら揺れる。
なんか──やばい。
変人なのに、可愛い。
そこで、決定的な一言を吐かれるとは、この時の俺は知らなかった。




