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■4-3 荒ぶるサムライ・キッド

帰り道、二人はよく喋った。

話の内容は主に俺の海外経験についてだった。

食事のこと、合宿のこと、試合のこと、チームメイトのこと。

俺は基本的には質問に答えを返すだけで、北条が会話を元気よく引っ張っていた。

「で、小早川さんってヨーロッパでは有名だったんですか?」

「何で日本では無名が前提なんだよ」

「だってクラスの誰も知らないっぽくないですか?出待ちなんかもありませんし」

「出待ちねぇ・・・確かにないけど、今日は木場が来たじゃん」

「あー。三年生の・・・ってあれは有名とかとは違うでしょ!先輩に挨拶しにきただけじゃないですか!」

北条が今朝の記憶を掘り起こした。

「たしかに。そういやあの時だって怪我とかの俺の格闘技遍歴を話してたんだけどね」

「ええー。そうだったんですか。なんだかマニアックな話ばかりでつまんないなーとは思ってましたけど」

「ま。確かにマニアックな存在ではあったけどね。俺が試合をしていたChallenge roadは日本では放送されてないし。向こうでも決勝しか注目されてなかったからね」

そう言ってから、俺は胸を張ってみる。

「でも。予選から見てるマニアな方々には人気があったぞ、俺。ニックネームもついたし」

「へぇ。そうなんですか」

「いや、聞けよ!」

自然とかわした北条に、間を置かずにつっこんだ。

「あはは。いやスミマセン。小早川さんから聞いてほしそうなオーラが溢れ出ていたもんで、つい」

「あー。分かった。素直に言う。言います・・・聞いてください、俺のニックネーム」

「はい。どんなニックネームだったんですか?」

「サムライ・キッド」

「クスッ」

思わず笑った北条は俯いて誤魔化そうとした。

「いやいや笑うところじゃないだろ。侍だよ。武士道だよ。カッコイイじゃねーかよ」

「いや、度々スイマセン。なんか可愛くてツボに入ってしましました。てっきり“反逆のカリスマ”とか“神の子”みたいのがくると想像していたので」

「うるせー」

俺はぶっきらぼうに応じた。

「あと、小早川さんが超ドヤ顔だったので・・・」

「うるさいっての」

路面の小石を蹴りつけて不機嫌アピール。 

そんな北条だったが、駅の改札を抜けてホームに着くと黙りこくってしまった。どこかぼうっとしている。


館内放送が西武新宿行き急行が近づくことを告げる。

「あそこにコンビニがあるじゃないですか」

突然、北条が指をさして言った。

確かにある。

駅と学院の間にある唯一のコンビニだ。

通学路に面しているからさっきも横を通ってきた。

「ああ、あるね」

話の核心が掴めない。

「私。あそこに居たんです」

「うん?いつ?」

「始業式の次の日です。授業初日の朝です」

「その日ってたしか・・・」

記憶を巡らせる。

「二人揃って遅刻した日?」

「はい。でも実は私、駅には定刻についていたんです」

俺は黙って北条を見る。

北条はホームの向こうのコンビニを見たままだ。

「でも、なんだか、その、登校する意志が急になくなって、あそこのコンビニで時間つぶしていたんです」

「・・・」

「何だか妙に不安になって・・・一日目は上手くやれたのに」

俺は始業式の日に東門に放ったバックキックを思い出していた。

北条の気持ちが分からないでもなかった。

「それで気付いたら一限始まってて。帰ろうと思ったわけですよ。またヒッキーになっちゃうのかなーって思ってました」

「・・・」

電車が近づいてくる音が聞こえる。

「そう思ってたら、目の前の通学路を小早川さんが歩いていたんです」

急行の電車が停車した。

「もう三十分も遅れてるのに、悠々と登校してましたから、笑っちゃいましたよ」

“笑っちゃう”という言葉とは裏腹に北条は悲しそうな顔をしていた。

俺は何か言おうとしたが、すぐには考えがまとまらなかった。

ドアが開き、二人は乗車した。

車内はいつもの下校時間とは違い、混んでいた。軽いラッシュアワー。

乗客に埋もれた二人は高田馬場で降りるまで、一言も口をきかなかった。


二人は押し出されるようにホームへ出て、流されるように改札口へ向かった。

先に口を開いたのは北条だった。

「今日、実はショックだったんです」

「学食であった子のコト?」

ホームの階段はこれまた軽くラッシュしており、すぐに乗り換えられそうにない。

「はい。キョーコに会った瞬間、それまで覆っていた色々なメッキが剥がれていって、前の自分に戻ったような気がしたんです。それまでは自由人ぶっていたんですよ、コレでも」

「いいじゃねぇか、昔の北条飛鳥で」

軽く流す俺の言葉に、不満そうな視線を返された。

「あと、小早川さんの話にもショック受けました」

「俺の?」

「小早川さんは本物の自由人だったからです」

「・・・それって、褒めてんの?」

「当然です」

北条は語気を強めて言った。

「でも私はエセだった。それがショックでした」

そう言ったところで二人は改札を抜ける。地下鉄とJRの分かれ道に出た。

「それじゃあ、また明日」

「いや」

俺は北条の肩を掴んで引きとめた。

「今日は向こうの入り口から降りる。すこし遠回りになるけど、もう少し話そう」

「えー」

北条は困った顔をして笑った。

「お前の話は急にピークを迎えすぎた。考える時間をくれ。」

そう言って追いすがる。

「駄目です。ここまでです」

きっぱりと断られた。

「じゃあね、小早川さん!」

北条は俺の手をすり抜けJRの改札へと駆け出していった。


1秒後。 ゴォン という金属の響く音が構内に大きく鳴り響いた。

俺のバックキックが駅の鉄柱に打ちつけた音。

その場にいる学生やサラリーマンの視線を一気に集めた。

その視線の中には北条にものもあった。

「俺はさぁ!この蹴りをアルバレスに叩き込むはずだった!」

俺は遠くに目視できる北条に最大限の声量で語りだした。

「だが、駄目だった!」

蹴り足をようやくひっこめる。

「スウェーでかわされ、軸足にローキックを叩きこまれた!想定外にバランスを崩した瞬間、左ヒザに全体重が乗っかってダウン!そのまま立つことが出来ずKO負けになった・・・!」

十数メートル先の北条の驚いた表情が見える。

「無念も無念!これほど悔しいことはねぇ!この世でショックを受けていいのは俺くらいだ!分かったか!?」

静寂が訪れる。

サラリーマンが見ている。

OLが見ている。学生が見ている。

そして北条が俺を見ていた。

そこへ駅員が駆け寄ってきた。

「何をやっている」などと言い、人込みをかき分けてやってくる。

俺は立ちつくす北条をしり目に地下鉄へと逃げていった。

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