■4-1 小早川涼、灼熱の季節
「あ、あの・・・」
北条が恐る恐る口火を切ろうとする。
「だめ。質問は俺から。ここまで待ったんだから、当然だろう」
「あっ!ずるい!勝手に待っていたのに!」
北条は子供のように足をパタパタさせてみせた。
「ずるくない。あと、年功序列な」
強引に押し切って、最初の質問権を得た。
いくつかの選択肢があったが、ひとまず無難なところから聞いて、それから話を広げる方向でいくことにした。
「とりあえず、そうだな。今までどこ行ってたの?結構探したんだよ。保健室とか屋上とかさ、あと体育館の裏とかよ」
多少ながら疲労感をみせた俺の問いに、北条は驚きで応えた。
「えっ!屋上って入れたんですか!?」
うーむ、そこに乗ってくるか。
「知らなかった?3Fから屋上に出る分厚いドアがあるだろ?あれってカギかかってないんだよ。重いけどさ。なるほど、見た目で諦める奴は多そうだ」
「へー。今度はそっちに逃げるのもアリですね」
随分感心したように北条は頷く。
「それは勘弁してくれ。全学年の校舎調べるのは相当骨折れるんだから」
「さすがに他学年の校舎にはいきませんよ?あれ、もしかして小早川さん、今日は一年校舎にも、三年校舎にも行きました?」
北条は他人事のように心配する。
「行った、行った。さすがに生徒がいるとウザいからさ、授業中にササっとね。そしたら途中で先生に見つかって――」
話が脱線気味だ。強引に戻さないと。
「で、今日はどこに居たの?」
グラウンドの方で再びホイッスルが鳴り、教室から静けさが消えていった。
北条はハンドボール部の掛け声をしばらく聞いてから、ゆっくりと口を開いた。
「図書室です。昼休みの終わりから。ずーっと」
北条は俺の方へ向き直りきっぱりと言った。
「本当?図書室も見て回ったけどな、見落としたか。信じらんねーな、その髪を見落とすなんて」
北条は首を振って、さらにその金髪を強調してみせた。
「ま、良しとしよう。しかし長々とよく居れるもんだな」
「本読んでないですからね。PC借りてネットサーフィンです」
北条はキーボードをタッチする動作をしてみせる。
「む。そういえばPCエリアは寄ってなかった気がする」
なるほど、と納得した俺の顔を覗き込んで北条が言う。
「Q・どこに居た A・図書室 でOKでしょうか?」
「・・・OKだ」
納得するほかない。
「次は私の質問、で良いですよね?」
「・・・どーぞ」
攻守交代。
「えーと、さっきまでいた図書館で、わたし暇で暇でしょうがなかったんですよー」
「じゃ、早く帰ってこいよ。授業を受けなさい。」
へへへ、と照れ笑いをして北条は続ける。
「で、暇だとよくやるじゃないですか、自分の名前を検索して時間を潰すのって・・・」
話の先が見えた。見えたが、黙って聞き続けた。
「で、始めは自分の北条飛鳥を検索していたんですよ。あっそうそう、私の同姓同名で東大の西洋史の教授がいたんですよ・・・」
「・・・」
黙ったまま続きを待つ。
「・・・その、なんというか、出来心というか、なんとなく、小早川さんの名前検索したんですよ。小早川涼って」
やはりそうきたか。
北条はおずおずと話を続ける。
「何とかっていう格闘技の団体・・・?の関連サイトがたくさんヒットしたんですよ。その中の、何とかチャレンジロード・・・?の何とかクラスのRyoって・・・あれって小早川さんですよね?」
これが北条からの質問。今度は俺がグラウンドの声に耳を傾ける番だった。
どうやらミニゲームでシュートがきまったらしい。
再びボールを中央に入れるよう指示が飛ぶ。
「Word Fighting Championship のアマチュア部門だな。 Challenge road ライト級。確かに俺だよ」
抑揚のない声で答えた。
「・・・・・・」
「・・・何で黙っちゃうの?」
北条を先へと急かしてみる。
「えっと。そのあとYouTubeで試合も拝見しました・・・」
「へぇ!どうよ!?面白かったでしょう!?」
俺は思わず机に身を乗り出して、北条の顔をのぞきこんだ。
「いえ・・・その・・・」
急にテンションが上がった俺とは対照的に北条の返事は重かった。
「すっごい殴られてて、血もいっぱい出てて。死んじゃうんじゃないかって・・・」
先ほど見た映像を、頭でリプレイしているようだ。言葉を一度止めて、そしてぽつりと言った。
「怖かったです」
俺は乗り出した体を戻した。
「そうか、それはたぶんアルバレスとの試合だな。確かに死にそうだったねー。おまけに負けて、更には大きな怪我をした。信じらんねー強さだったな、アイツ。結局あの試合で俺は引退したからねぇ」
Challenge roadを制したアルバレスは、ものすごい速度でトッププロになっていった。だからアイツとの試合が検索候補で上位にくるのは悲しいかな仕方のないことだ。
もう少し、YouTubeを漁れば俺が派手に右アッパーでKOするカッコイイ試合なんかもあるのだが・・・残念。
「でも!」
と、北条は急に大きな声を出した。
「凄かったです、小早川さん。いくら殴られても、向かっていきましたし。もうちょっとで勝てそうでしたし・・・その、カッコ良かったです!」
北条の顔はすごく赤い。
目は潤んでいる。今にも泣いてしまそうだった。




