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■3-3 十字靭帯損傷のため見学

俺はヒザに怪我を負っているので、体育は見学である。

点呼を取り終えるとグラウンドの隅へ行き、それから授業が終わるまで、ずーっと見ているだけである。

5限目は裏グラウンドの東側を2―Cと2―Dの男子がサッカーで、西側を2―Cと2―Dの女子がソフトバレーで使っている。

俺は男子ゾーンと女子ゾーンの境界線となるラインの端に座っていた。最初はパス練をしている男子サッカーを見ていたが、単調で飽きてしまったので女子のバレーを見ることにした。

すでに試合方式で授業が進んでいるらしく、それぞれのコートが不格好にラリーをつないでいる。

そんな景色の中に金髪の子を探そうとしたが見当たらない。

ジャージに入るラインも一人だけ赤いので目立つはずなのだが・・・。


「小早川さん、ガン見しすぎぃー」

ふと声があった先を見上げると、タダミナが隣に立っていた。

「おわ!びっくりさせんなよ・・・集中し過ぎて全く気付かなかった」

あたふたする俺。

「いやいや、集中力を発揮してまで女子バレー見ちゃだめですって」

「うっさいなー。だいたいタダミナは何やってんの、ノコノコこっち側に来てさ」

「小早川さんに会いに」

ニヤニヤとタダミナが表情を崩す。

「やめろって、気持ち悪い。バレーやれバレー」

「残念でした。ウチのチームは今審判中なの」

「じゃあ、審判やれって」

「ちょっと数が余ってね。今フリーってわけ。もうすぐ交替しにいかないと、だけれども」

「そうか。・・・・なあ。じゃ、戻る前にさー」

「何です!?北条さんのコトですか?そーでしょ?ていうか、ずっと北条さん探してましたよね!?」

図星を突かれた俺は反抗を試みる。

「違うっての。あれだよ、アレ。女子高生を見てたの!」

「は!?」

「だ・か・ら。体育着で躍動する生女子高生をしっかりと眼に焼きつけようと思っていたの。そういえばタダミナも女子高生だったな」

俺はタダミナを多少オーバーに上から下まで見回してみせた。

「はい、ダウト」

タダミナはピシャリとはねのけた。

「人の体育着姿を恥ずかしさの誤魔化しに使わないでください」

「む、すまん。その通りだ。タダミナの体育着には全く興味がないんだ」

「そこまで否定されてもショックなんですけれど。まっ、いいでしょう。北条さんのコトを探していたことを認めますね?」

「・・・はい。認めます。いないようなんだけれども」

素直に折れて、しおらしく聞いた。

「はい。了解いたしました」

対してタダミナは満足気だった。だが次の一声は少しトーンを落とした。

「北条さんは点呼の時からいなかったです。この授業は欠課扱いになります」

「なるほど」

俺はぼんやりとバレーエリアを眺めた。

「小早川さん。あの、私グラウンドをウロチョロしながら考えたんですけど・・・」

タダミナが言うべきコトを頭でまとめている。

「考えなくていいから。バレーに戻りなって」

そう言ってからグラウンドの端の段差にかけていた腰を上げる。

「次は俺がウロチョロしてくる番だね」

立ちあがった俺に対して、タダミナは姿勢を正す。

「お願いします!」

きれいな礼だ。やはり体育会系は違う。


結果として俺のウロチョロは無駄に終わった。

「「どうでした」」

6限終了直後、タダミナに加えて新田も進捗状況を聞いてきた。

「収穫は無しだ」

「どうしよう」

「どうしましょう」

北条は5限に続き6限も授業に戻らなかった。

そして俺は6限をサボって北条を探しに、学校中をウロチョロ歩き回っていた。


机を見ると北条のバッグはまだ残っている。学食へ行く前に出したと思われるジャージも、机の上に置かれたままだ。

「どうしたもんかねぇ」

俺は北条の赤いラインのジャージをバフバフと叩いてみる。

「やっぱりアレですかね。学食であった三年生が絡んでるんでしょうか」

「かもね」

タダミナは心寂しいトーンだ。俺はごく短い返事をした。

「でも、別に変な雰囲気はなかったじゃん?その・・・パシられてた、みたいなのは無い感じで」

「だね」

新田の問いにも曖昧に答えて俺は自分の席に座る。

机の上には6限目に使ったと思われるプリントが置かれていた。

「お前たち、部活だろ。早く行けって。また木場に蹴られたいのかよ」

「でもぉ・・・小早川さんはどうするんですか?」

新田がすがるような声を出す。

「俺はもう少し待つ、ここでね。もう帰宅しちまったかもしれない。待って成果を得られる可能性は低いだろうけど」

「そんな」

タダミナが困惑の色を浮かべる。

「ていうかね、君たち。いくらなんでも悲観的になりすぎだから。涙流して飛び出したんじゃないから。知らないうちにいなくなってただけだから。2コマ欠課を出しただけ」

「でもぉ」

とすがる新田のスネに一発カーフキックを入れてやる。「スワセン」と弱々しく吐いた新田に俺は言ってやった。

「大丈夫。大したことじゃあない」


強引に二人を部活へ追いやったのは一時間ほど前だ。

教室には今、自分の席に座っている俺しかいない。

帰宅部は帰り終え、部活組は練習に励んでいる今、この時間――午後四時過ぎ。

教室から人がいなくなる、隙間のような時間帯。

窓からはハンドボール部の練習風景を見える。

随分と至近距離でシュートを打つもんだなと感心する。


ふと俺は教室の戸のカギが開いていることに気づく。

結局、教室のカギはどういう扱いなのか、分からないまま現在に至っている。

北条は知っているのだろうか。

この時間、教室が開いていることを。

知らないで帰ってしまったのだろうか。俺は北条の思考へと考えを巡らし――

カラ・・・。

小さな、最小限の音を立てて後ろの戸が開いた。

夕焼けの日を受けた金髪はきれいなオレンジ色に見えた。


そこには北条が立っていた。

「小早川さん・・・どうしたんですか、こんな時間に」

質問には答えなかった。

「まぁ・・・座れよ。とりあえず」

「はい」

北条が黙って隣に座る。

夕日が気まずく並んだ二人の留年生を照らす。

ハンドボール部の掛け声が聞こえてくる。長めのホイッスルと共に、それが止んだ

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