■3-2 過去からの訪問者(北条飛鳥の場合)
4限目のチャイムが鳴り、教師は授業を切り上げ、級長が号令をとった。
普段ならば、この後は登校時に買ってきたパンを自分の机で食すのだが、たまたま今日は買い忘れた。そのことに今気がついたのである
。
隣の北条の様子をうかがう。
北条は基本弁当派である。
だから普段は二人並んでパンと弁当を食べている。
タイミングの良いことに今日は北条も弁当を持ってきていないようだった。
「なー、北条。今日、学食?」
「はい、今日は学食です。あれあれ、小早川さんもですか。ってか小早川さん今年度初学食ですか?いいですよぉ。あったかいゴハン、おいしいですよ!」
北条は瞬時に事態を把握して、嬉々として学食へ誘ってくる。
「あ!はーい!いくいく、私も行きまーす!さっきから、チョーはらぺこですし!もうすでに混み始めてるでしょうから早く行きましょう!」
タダミナが参加表明。
追い立てるようにして学食へと促す。本当に腹が減っているようだった。
「まったく、この俺を一人差し置いて出かけるとは、三人ともずいぶいんと出世したもんじゃないですか・・・」
一人輪に入れなかった新田が何やらブツブツつぶやいている。
「ほらほら、新田君!早くしないと置いてくよー!」
廊下に出かけていた北条が、半身を教室へ戻し声をかけた。
「あぁっ!今いきますぅー!」
非情に情けない声を出して、新田はダッシュで俺たちを追ってきた。
食堂は三年校舎と裏グラウンドの間に位置する。
なかなか大きな施設なのだか生徒数もかなりなものなので、昼食時はどうしても混雑してしまう。
入って今日のランチを確認してから、すぐに戦略を練った。
「それじゃ俺はBランチ。新田はが丼物に並ぶから、俺は定食列」
「おっけーです。私Aランチだから小早川さんに。タダミナは鉄火丼だから新田君だね」
あまりに混んでいるため、分業して動く。
券売機に並んで、配膳列に並んで、空きテーブルを探しているのでは昼休みがカツカツになってしまう。
「はい。Aランチ、Bランチお願いします」
長蛇の列に横から、割り込みだと思われないように距離を保って北条が近づいてきた。
「お、間に合った。タダミナは?」
食券を受け取りながら尋ねる。
「うん。4人席をしっかり確保」
北条は券売機の後方にあるテーブルエリアを指すが、混んでいていよく分からなかった。
とりあえず万事が無事に進んでいるようだ。
「おーけー。それじゃあ後は俺と新田が受け取るだけだな」
「うん、よろしくねー」
北条が去った後しばらくして、自分のBランチと北条のAランチをそれぞれの食券と引き換えて、列を抜けた。
ちょうどよく新田がタダミナに誘導されているのが見えたので後に続く。
運が良かったのか、入口付近のテーブルの端がとれていた。
北条の金髪が良い目印となっている。
慣れてしまったから忘れていたが、彼女の見てくれは学院一、目を惹くものだろう。
今も食堂にいる生徒から無数の視線を浴びている。
しかもあまり好意的にはとられてないだろう。
勝手に「金髪娘」などと命名されてそうだ。
「では、姿勢を正して・・・!」
俺は四人が席に落ち着くと同時に言った。
不意を突かれた三人であったがとりあえず背筋を伸ばしてみていた。
「いただきます!」
「「「いただきます!」」」
きれいに揃った。
「なんですか今の。号令?」
北条は割り箸を二つにしながら尋ねてくる。
「キックボクシン同好会で定着していた作法。たぶん空手部の合宿かなんかでもやるよ」
「マジっすか。よかった事前に知っておいて。また部長にドヤされるところだった・・・」
はっとした新田は、慌てて周囲を見渡したが、幸いなことに木場の姿は確認できなかった。
「それにしても赤い校章ばっかだな」
久々の学食に対しての感想がもれた。
「そりゃ三年校舎は食堂にダントツで近いからね。あたしも去年はあんまり来た記憶はないなー。一年校舎からなんてちょっと遠すぎるんだよね」
今年に入って半分は学食に行っているタダミナがグチる。
「だねー。さっきみたいな分業殺法も知らないから、とにかく時間が無くってね。私、一年の時に人気の学院ランチに挑んで失敗したの。一応はゲットしたものの一口だけ食べて5現に戻ったことあるもの」
非常に懐かしい内容で話が進んでいった。
「学食は何も変わらないもんだな、俺のいた頃と」
Bランチの和風ハンバーグを箸でさきながら誰へともなくつぶやいた。
「そうでもないですよ。今年から土曜も使えるようになったり、結構便利になっていますよ」
新田が親子丼をかきこむ手を休めて答える。
「そうそう、そうだった。土曜は閉めてたよ、たしか」
「部活組の強い要請で開けることになったようですよ、実際助かってます」
タダミナが代わって返事をする。
「やるじゃん、学食。殺風景なトコは変わらないけど。ああ、そう言えば天半ってまだあるの?」
「てんはん・・・ですか?聞いたことないですけど」
「メニューの愛称かなんかですか?」
新田とタダミナが疑問の表情を浮かべてくる。
「はいはーい。天半は天かす半ライスのことです!」
北条が解説役として手をあげた。
彼女は一度フォークを置き、口の周りを拭いた。
「なんなんですか、北条さん。天かす半ライスって」
「うーん、気持ちいいくらい正統派な質問ありがとう、新田君!」
北条のテンションが上がった模様。
「天半は文字通り、半ライスに天かすをまぶして、さらに天つゆをかけた料理?なんだよ!」
「へぇ、でもメニューや券売機には載ってないですね」
「はい、タダミナちゃんツッコミありがとう!」
ノリノリの北条。ちょっと横槍を入れてみよう。
「昼休みが終わると、動かせる調理器具が一気に少なくなるんだよ。その少ない調理器具の中で出せるメニューのひとつだ。表だって売ってないのは、料理として雑すぎるから。って俺は聞いたが諸説ありだ」
二年前のことを思い出しながら解説をする。
「ちょっ、小早川さんナニ答えちゃってるんですか!」
俺は慌てる北条を無視して続ける。
「因みに値段は150円だったはず。小腹がすいたり、何か胃に入れておきたいときは重宝するよ」
「何で最後まで横取りしちゃうかなー。私の年の功が発揮される場面だったのにぃ」
玩具を取り上げられた子供だ。
「自分で年の功って言うなよ・・・」
俺の良心が痛む。
北条は本気でしょんぼりしている様子だ。
「じゃあ。北条の飛鳥ちゃん、もうひとつの学食トリビアいこうか」
「・・・?」
北条にはピンと来ていない模様。
「ほら、あれだよアレ。肉うどんのアレ!」
「・・・分かりません」
本当に知らないようだったので、俺が全てを解説することとなった。
俺は肉うどんトリビアを披露して新田とタダミナから賞賛を受ける。
一方でジト目で見ていた北条は、
「ベテランの称号なんか羨ましくないもん」
拗ねていた。
四人の中で最後、北条がAランチを食べ終えたのは、5限開始の十分前ほどで、まだだいぶ余裕があった。ただ、未だに席を探している生徒もチラホラいるので、俺たちは手早く食器を重ねて返却口へと向かった。
俺たちが座っていた席は、立ち去った瞬間に埋まっていった。
俺と新田が「ごちそうさまでーす」と返却口へトレイを押し込む。
少し先に待っている二人に小走りに追いつき、並んだところで、北条に質問をする。
「次、五限目ってなんだっけ?」
「体育ですよ、体育。だからこの時間でもそうダラダラできませんよ」
その時、横を抜けた女子グループのうち一人がこちらを振り返った。
「えっ?ちょっと飛鳥?」
自信の無さの表れか、非情にか細い声だったが、北条には届いた。
「えええ!キョーコ!」
北条も振り返った。
「やっぱり!」
確信したためか声は大きくなっている。
「どしたの、どしたの、飛鳥!?この髪!真っキンキンじゃん!超声かけずらかったよ!ていうか、なに留年してんのコノヤロー!」
一気にまくしたてる。
キョーコなる子のリボンは赤い。三年生だ。彼女は言葉を出し切って、勢いそのままに北条にハグをした。
「うおう!」
受け止める北条。
「いやいや、そんな一気に言われてもね。うそ、コレ怖い?かなりカワイイと思うんだけどなー」
キョーコちゃんは北条から身体をバッと離してハグを解除した。
「そりゃ街で見たらね。カワイーよ。読モにしちゃいたいよ。でもさ」
キョーコちゃんは今度は北条の両肩に手を置き前後に揺さぶった。
「ここ学校じゃん!着てるの制服じゃん!ヤンキーじゃん、レディースじゃん!」
「まー、たしかにジャンジャン言われちゃうかも。先生たちにもチクチク言われてるしね」
「チクチクかよ――」
続けて何かを言おうとしたキョーコちゃんだったが、北条の肩越しに俺たちを見た。
見られた三人はバラバラのタイミングで軽く礼をした。
「ってかゴメン。飛鳥のツレ、放ったらかしにしちゃってるけど、いいの?」
パチン。
と音を立てて北条が手の平を合わせ、ゴメンナサイのポーズをとっていた。
「ごめんね、キョーコ。私たちこれから体育なのよ」
本当に申し訳なさそうに北条は言う。
「そりゃ仕方ない。もっとゆっくり話していたいけど・・・。後でLine送るよ。スマホ変わってないんでしょ?」
「うん変わってない」
その返事を聞いてキョーコちゃんは少し声を低めて問う。
「だったらさ、去年の二学期以降もLine届いてた、よね?」
北条はただ黙っている
「まっ、次は返してよ!」
そう明るく言うとキョーコちゃんは放置していた自分のグループに「ごめんごめん」と戻っていった。




