■2-7 一日の終わりは
帰りは東門から出ていくことにした。
正門へ至る並木道は普段ならば、生徒もまばら、俺も下校に使う。
だが今は新歓期。まだ部活の決まってない一年生を引き込もうと、各部活が両端にズラリと並んで勧誘活動をしているだろう。
案の定、裏道ともいえる東門を出てからの小道を歩いていると、柵の向こうから勧誘の声が大きく聞こえる。
「小早川さんはどっか部活に入る予定はないんですか」
正門の横断歩道を渡りきったところで北条が聞いてきた。
「ま、ナイかな。少しは考えもしたけどね」
正門の奥に見えるアメフト部の勧誘を振り返って答えた。
「やっぱり、年齢を考えてですか?」
「そそ。三年生がトップで引っ張っていくのに19歳の俺がいたら面倒でしょ。OBがずっといる状態だよ、嫌だろ。向こうも、こっちも」
「たしかにOBさんって、ウザがられますもんね。悪気はないのでしょうけど」
「だからさ、俺たちは黙って帰ることが仕事なの。さて15:19に間に合うかな」
15:19 ――帰宅部のひとつの基準となる時間である、この時間に西武新宿行の急行列車がやってくる。これより前の急行は15:04である。学院から駅まで徒歩10分の通学路を考えれば現実的でない。故にこの15:19の急行が西武新宿方面への帰宅組の一番乗りの時間となる。
カンカンカンと靴音をたてて北条がホームに降りた。
「ちょっと焦りましたけど、ヨユーですよ。余裕。後四分もあります」
「だから言ったじゃん。しかもアウトでも次ので構わないしさ」
まだ階段をゆっくり降りている俺。
「確かに構いません。そのまた次だっていいんですよ」
北条がクルっと回ってみせた。スカートヒラヒラ、金髪キラキラ。
「いいのかよ」
「いいんです。私としては小早川さんが同じ方向ってだけで満足ですから」
「え。どういうこと?」
「・・・」
「・・・」
「・・・」(何か言って下さい)
「・・・」(何か言えよ)
「って、やめやめ!これは違うから!そういう沈黙じゃないから!」
北条がわめきたてる。
「はい、小早川さん、見てください」
線路を越えた向かい側のホームを指す。
「見たよ。逆方向だとあっちのホームってことだろ」
「そーです。ホームからして分断されるのです。電車を待つ時間も手持ちぶさたになってしまうんですよ!」
「なるほど・・・」
「・・・」
「・・・」(えっ!またやるのコレ!?)
「やりません!」
北条がガーっと両の拳を天に突き上げる。
「小早川さんと同じ帰り道でハッピー!ラッキー!超ウレシー!!どーですかこれで!満足ですか?ええ!?」
北条は天高く吠えた。
「何でキレるんだよ」
理不尽な怒りは、電車到着のアナウンスさえもかき消した。
二人はわりとすいている車両に乗り合わせたが、ドアの前で並んで立つことを選んだ。今日の朝見た景色が逆走していく。
「なー」
「はい?」
「北条ってJR?」
「はい。小早川さんもですか?」
――ガタンゴトン。
「いや、俺は地下鉄」
「そうですか。じゃあ乗り換えでバイバイですね」
「バイバイだなー。しかし光るね」
「え?」
――ガタンゴトン。
「髪の毛。電車だと色んな角度から光が差すからさ」
「キラッキラ?」
「そういうこと。いいな、俺も染めようかな」
「んー。止めた方が良いと思いますよ」
――ガタンゴトン。
「似合わない?」
「似合いませんねー。あと」
「あと?」
「校則違反ですよ」
――ガタンゴトンガタンゴトン。
他愛のない会話をしているうちに、電車は高田馬場へと到着した。
二人は降車して改札口を通過する。
まず改札を抜けたところで地下鉄に降りる階段が出現する。
JRの入り口はもう少し先だ。
地下鉄への階段はそこにもある。あるのだが、そこから降りると俺が使う車両と真逆に出てしまう。遠回りだ。
「ってわけで、一緒の帰り道はココまで」
改札を抜けて、すぐに俺は宣言した。
「はい。それでは、また明日!」
北条が元気に手を振る。
「じゃーな」
俺は手を挙げて応じ、クルリと背を向け階下へ進んだ。
以来、ここまでの流れは小早川・北条の帰宅部基本ルートとなった。




