お酒の席はいつも波乱万丈
異世界にも居酒屋みたいな店があるらしい。だがどうしたわけだろうか。ドワーフ親分御用達のおすすめの店によったと思ったら、気づけばおれは景色の良い高台へと連れて行かれていた。
「若造。分かるか。一日の終わりの酒がなぜうまいのか。」
この世界にきてから、若造だの小童だの、お兄ちゃだのみんな呼びたいようによんでくるのでおれはもう何とも思わない。
「一日の渇きが潤う瞬間だから、ですかね。」
「良い線いっているが、そりゃあただの生理現象だ。忘れろ。」
「はい・・・。」
「いいかお酒ってのには不思議な力があるもんだ。背中の刺青にかけて本当だと誓う。つまりだ、なにが言いたいかって言うとだな。一日を楽しく振りかえることができるってもんだ。若造。世の中生きているだけで大変なことって一日に何度も経験するだろう?失敗してしまったこと。やり切れず後悔したこと。そういったことも笑い話に、いや気を楽に思えるように酒をたしなむんだ。ただ忘れるためにじゃない。人間はどうやったってすぐには忘れない生き物だからな。そういう時間が大切なんだ。逆に楽しかったことが起こったあとに飲む酒はただ飲むだけで美味しいがな!ガハハハッ。」
「そうっすか。いやそうっすよね。」
どうしよう。ただの酔っ払いのひと言に人生の極意をみた気がした。つい取り繕っていた口調が素に戻ってしまう。
「なんかおれたちに話したいことがあったんだろう?居酒屋だとどうしても落ち着かないからな。おれたちドワーフ一族はお酒を飲むシュチュエーションにもっとも気を遣う種族なんだぜ!?心に刻むがいい。」
「どうして、そこまでしてくれるんですか。おれなんてさっき知り合った仲じゃないですか。」
「細けえこたあいいのよ。ほら見ろよ夜景。この街一番、ひょっとしたらこの世界一番かもしれねえ。そしてそれが真実かをおれたちは知りようがねえ。ただ目の前には一緒に盃を傾けあうダチがいる。」
そういってニヤリとほほえんだ。
「ダチって。ハハッ。最高だなあ。そのドワーフの生き様おれには眩しすぎるぜ。」
「おっ!?若造。やはりお前は分かるヤツのようだな。改めておれはイワンコフ。後ろのゴツいやつがメッシュザードだ。」
「よう兄弟。」
「おれは・・・。ギブ・アース。よろしく。兄弟たち。」
差し出された手は鍛え抜かれた職人の手のようで皮が厚くゴツゴツしていた。その力強さに一瞬ひるんだものの、おれも力強く握りかえす。ちょっといきなりダチなんてよばれて名前を紹介しあうのに照れてしまっていたりなんかしてないから手をとるスピードは早かった。そう思ってくれて間違いない。
実は・・・と行きがかり上ドワーフの村に出かけることになった経緯を簡単に説明した。2人はなにか思うことがあったのか目を合わしていた。
「あの暗黒龍一族との共同計画だと!?」
「やれやれ。見損なったぜ兄弟。」
そうか。もしかしてドワーフ的には暗黒龍一族はNGだったりするわけか。ガシっと肩を捕まれた。ミシミシッときしんだ音が聞こえた気がする。
「なんでもっと早くその話を持って来なかった!」
「善は急げだ!今夜のうちに出かけるぞ!荷物まとめてこい!」
あの。さっきの前振りいりましたか。落としてあげるつもりだったかもしらないけど要らなかったよね!?
「わ、分かった!では頼りにしてまっせ!!お二人さん!」
思っていることは全ては言わないのが世の中の常ってもんだ。
ドワーフ族特製の前世でいるところのハー〇ーのサイドカー付きの魔道の二輪車の荷台に腰掛けるおれ。そりゃあ俺だって運転席か後部座席に乗りたかったもののここは種族特性というかシートと地面との高さが低いので断念。ドワーフ一族はおれよりも一回り小さいのだ。どうやらこの乗り物【風切り号】という名前らしい。
夜間どんなに見えにくい道も、ドワーフの兄弟2人がいれば不安なんて微塵もなかった。だがおれは気づいてしまったのだ。このまま真っ直ぐに進むと隕石湖のドライアド群生地に突っ込むと。
あれ!? この2人に運転させてて良かったのか?信じてて良かったんだよね?
「あ、あの。大丈夫なんだよね? ね?」
「ああ。任せろ兄弟。このまま湖に突っ込むぞ!」
「楽しみにしているが良い!」
サムズアップをキメやがった。ちょっと一瞬だけイラッとしたけど、白い歯をニカッと輝かせる2人の笑顔はああ任せるしかないなって思わせられてしまったもんだ。
草原をかき分けドライアドの群生地が不気味に見えてきた。どうするのこれ。このままつっこんで行くんだろうなあ。事故らないと良いなあって100回くらい思った。
「この辺だっけ?」
「ああ。間違いない。」
おうと頷きあう彼らの背中はなぜかたくましく見えた。ハラハラさせてくれたもののやっぱり信じることしかできなくて。
ドワーフの風切り2輪車を路肩によせ林内に入る前に横付けした。
「偉大なるドライアド一族よ。このおれ様特製のアクセサリと斧をお受けとり下さい。」
ささっと近くの木の下に捧げたものを小綺麗にならべた。
「ええっと。今のは?」
「何って。通行料だよ兄弟。ドライアドは木の妖精だって言い伝えられているだろう?彼らは彼らの気の向くままに人化したりしてそれなりにオシャレも嗜むんだよ。おれも人化したドライアドの話はひいおじいちゃんから聞いたんだ。会いたくって会えやしねえんだよ。残念だけどな。」
ふむふむと興味深げにお話に聞きいってしまった。
「さあ出発するぞ。ここからスピードのギア上げていくからな。振り落とされんなよ。」
「分かった!」
木々の葉の先端が淡く黄色の光に包まれている。その光は連鎖しており一本の道を差ししめており、耳を優しいサワサワと木の葉がゆれる音がずっと背中において行っているようだ。不思議な感覚だ。こんなにも夜空はくらいのに、このホッと息をつけるような暖かさは春先の太陽である。
「すごい。夜なのに昼に感じる。」
「実はな、前相乗りした旅人もそんなこと行っていたなあ。」
「そうそう。3年前くらいだっけ?」
ああと頷き、こうも言っていたなと運転しながら思い出を語りだした。
「こんなに淡い光の道が春先の太陽ってな。まったく、人間族にはお前らみたいな詩人ばっかりなのか。」
「おれにはきれいだなってことしか感じねえけどよ。きれいな物をよりきれいに感じられるその感性は大事にしなってなあ。」
親分はおれより歳をくっていて、その言葉にはおれを安心させてくれる何かがあった。
「ああ。その言葉忘れないぜ親分。」
「ハハっ。言いやがったな。若造!ドワーフ一族にはその言葉は禁句だぜ!酒を浴びるように飲まされるからなあ。飲んで飲まれて潰されて、それでも翌朝覚えていたら本物ってやつよ。」
「その勝負受けてたつ!」
「やめるんだ。腎臓が破壊されるぞ。ドワーフの特注酒なんて他種族が口にするもんだじゃない。」
「あい分かった!やっぱやめとく!」
「いいねえ。長生きするぜ素直なやつはよ!」
くだらない話をかわしていたらいつの間にか林をぬけていた。
「行くぞ!おらあああ!」
ザバーンと水しぶきをあげ3人が乗った”風切り号”は夜の水面を前へ前へと進んでいった。
今話を最後に毎週月曜朝更新に変更いたします




