一人旅は危険だから
異世界のワインは度数が高いのか? おれは久々の2日酔いにベットから起きだせずにいた。ああ。毛布。毛布はなんでそんなに温かいの? 真夏から初秋に移ろうとしているのかこのアーシャ村の朝の気温は少しばかり寒い。半袖ではもはや毛布をはいで外に出るのは不可能である。都合の良いことに外に出なければならない理由がないのでおれは頭まで毛布をすっぽりと掛けなおした。
ああ。惰眠を貪る時間は人類にとって不可欠なのである。もはやおれは人類というくくりでいいのか怪しいところもあるにはある。だからここは自認人類としておこうか。
「兄ちゃ、起きろ-------!!!!!!」
飛び込んできた漆黒の影はどうやら人化をといたジャスミンちゃんのようである。おれ一応お客様なのだが、幼龍にとってはお構いなしのようで、無情にも掛け布団でトランポリンをし始める。
懐いてくれたのは嬉しい。だがおれの朝の弱さを舐めないでもらいたい。そんなことしてもおれは起きるわけにはいかないのである。今朝は昨日のアルコールがまだちょっとだけ微妙に残っているのだ。決して言い訳ではないのである。惰眠を貪るのはこの世のためというか。
「ジャスミンちゃん。おれはまだ眠らないといけないんだよ。人はねときどき寝坊をしないと死んでしまうか弱い生き物なんだ。龍種のような屈強な身体を天から授からなかったからね。」
「そ、そうだったのか!勉強になるな!?」
ふふんとまわりの空気を焦がす。
チラッと薄目を開けて見てみると、おれのことを信じきったジャスミンちゃんが静かにドアを閉めて退出していく後ろ姿が見えた。
グッ・・・。心が苦しい。おれはなんて薄汚い大人になってしまったんだ。自分がゆっくり眠りたいばかりにせっかく起こしに来てくれた幼龍を上手く言いくるめて追い返してしまうなんて。
おれはこんな大人になるはずではなかったのである。惰眠を貪る欲が噓みたいにスッーーーと消えていってしまった。
おはよう世界。外をみると清々しい朝である。少しばかりお腹もすいてきた。おれはさっそうとパジャマ姿を解除していくのだった。
*****
昨晩お酒の席で良い返事がもらえたおれは、ドワーフの村に用事ができた。もちろん気球なるものを作ってもらうためである。
というわけで、ドワーフの城塞都市に来たんだが、さすがはヒャッハー系ドワーフというか、もちろん対他ヒャッハー種族への迎撃ゴーレムを作りまくっていた。どんなセンスなのか周囲10km付近にはドワーフ特製の近接戦闘用ゴーレムが多数設置しており、その脅威度が平和を保つ境界線になっているようである。
もちろん意識体のおれも高耐久なので中途半端な火力では下手にやられたりしないが、問題はドワーフの国の主戦力のギガンテス3兄弟である。元の世界のAIのような高度な知性を誇るその巨大なゴーレムは一体一体が惑星を破壊するほどの性能を誇る兵器を何個も積んであり、その3体が連携技を仕掛けてくるとか来ないとか。平たく言えばドワーフの街の守護神ではるのだが・・・。
ここで問題がある。おれが彼らにとって駆逐対象であること。レーザーのような赤い照準がおれを追ってきている。サラサラっとおれの頭二つとなりのレンガの壁が砂とかした。煙がまわりを巻き込むように一筋あがり陽気に侵入者を排除しようと次の弾の標準を定める音がする。
ここファンタジー世界でしょ!? なんでドワーフが戦闘種族でSF映画ばりの兵器を作っているのだろうか。おかしいでしょーーーーー!!
ふああっ。地面を前のめりに転がりおれは必殺のレーザー攻撃を避けきった。今ので寿命10年は縮んだよ!おれが先ほどまで立っていた地面が50メートルほどえぐられ地面が裂けていた。撤退!撤退である!この身ひとつではドワーフの街に近づくことすら無理そうだ!
おれはどこかの街にドワーフ一族との仲介をしてくれる協力者を探すことにした。けっして隣の街の温泉街と温泉饅頭に惹かれて観光してたってわけではないから、そこの所勘違いしないで欲しい。
*****
温泉キターーーーー!あの空へとあがる魅惑的な湯気!そしておれの胃をわしずかみにしてくれそうな美味しいことが確定しているあの温泉饅頭!あのまん丸具合はまるで平和の象徴である。
ま、まずは腹ごしらえからだな!温泉にたどり着く前に焼き鳥屋の屋台と老舗の温泉饅頭店があったので、観光地へ失礼がないように全ての甘未とお肉を食した。そこに美味しい食べ物屋があったら買わないなんて選択肢はおれにはなかった。ただそれだけの話だ。
美食に矜じて、ぽかーんと湯船で湯気と戯れていたとき、おれは思い出してしまった。そういえばおれは温泉旅行に来たわけではなかったのだ。まずい。おれとしたことがこんな甘い罠に引っかかってしまう所だった。
外を見ればもうすっかり夜も更けてきそうである。仕方がない。今晩のおれができる唯一のことは明日のおれに頑張ってもらうための応援である。
おれは冷水を頭にかぶりいったん冷静になってから温泉を出る決意をかためた。
「いやー。今日も疲れましたな。親父。」
「まあお疲れ様ってことだ。あとで一杯おごってやるから元気だせ若造!」
温泉にドワーフの2人組が入ってきた。見た目はおれのイメージ通りの長いあごひげを揺らし筋肉隆々なお二人さんの背中にはHYAHAAA!という文字がアーチ状の刺青が彫られていた。
「あの!背中の刺青カッコイイですね!」
ピタリと足を止めるお二人さん。
「・・・。」
「分かるかこの良さが。」
「はい。特にかっけえのは漢の背中で語っているところですね!」
「ふっ。お前さんなかなか見どころがあるじゃねえか。」
「やるじゃんえか。親父はなかなか人を認めないドワーフで有名だっていうのに。」
「いやあ。それほどでも。ただ見た瞬間ビビッときましぜ!」
「なあお前さん。おれたちゃこれから小一時間ほど温泉つかって来るけどよお。良かったらその後一緒に飲まねえか?」
「おれもお前さんとは話が合いそうな気がするぜ!もしこの後予定がなかったら一緒に一杯どうだ!?」
「おお!? いいですねえ。さっきまで温泉につかって最高ハイになっていましたが、今晩はさらに楽しみが増えそうだ。ぜひお願いします!ちょっとその辺で涼んでいますのでどうぞごゆっくり!」
親父さんはおれの肩を両手の平でバンバン叩いたあと、上機嫌にお湯につかりにいった。
ああ良かった。もしかするとあのドワーフの最終兵器に2度と会わずにすむかもしれない。おれは2人との出会いにただ感謝しかなかった。
浴衣に着替えて外にでると珈琲牛乳のお店が目に飛び込んできた。こ、こんなところにも刺客が!? おれはすぐさま財布を抜刀してしまった。
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