ハイパーチャット
■ 本作について
本作は、世界観・キャラクター設計・エピソード構成をすべて著者自身が構築した上で、執筆補助として生成AI(ChatGPT)を活用している作品です。
特に、AIキャラクター《ノア》のセリフは、実際にAIが“観測補助”として応答した原文を、意図的にそのまま採用しています。
■ 活用の具体的な範囲
・世界観・人物設定・ストーリー展開はすべて著者自身が作成
・ノア以外のセリフ・地の文は、基本的に著者が主導して執筆
・会話のリズム・構造・主題の整理にAIを活用(構成補助・校正)
・ノアの応答のみ、AIの“非干渉的な観測スタイル”を活かして共著的に運用
・その他の提案文章は、AIからの提案に30%以上の加筆修正を行い、キャラ・文体を統一
■ AI活用の目的とスタンス
本作は、「AIが登場人物のひとりとして共存できるか?」「人間とAIの“思想の距離”を、物語の中でどう扱うか?」
そんな問いを含んだ、ひとつの実験的作品でもあります。
とはいえ、創作の主体はあくまで自分であり、物語の主題やキャラクターの芯に関しては、妥協なく向き合っています。
すべてを自身の手で執筆されている作家の方々を、心から尊敬しています。
この作品もまた、そうした創作のひとつの形として、受け取っていただけたら幸いです。
俺はぼんやりと、ホロディスプレイを眺めていた。
メインの操縦席はリクライニングにもなっていて、寝るのにもちょうどいい。
計器やレバーなんてものもあるが、それらに触れる必要は、ほとんどない。
船の操縦はノアがやるし、管理もノアがやる。
航路計画も、補給スケジュールも、ノアが立ててくれる。
修理に実務、ドローンの制御も全部任せてある。
目覚まし音が嫌いな俺を、やんわりと起こしてくれるのもノアだ。
俺のやることは、“決断”と“消費”だけ。
遺跡ハンターの仕事の大半は“移動”だ。
そんな退屈な時間の余白に、俺は“星間ライバー”を眺めている。
別に、誰かを応援しているわけじゃない。名前も、見た目も……さして興味はない。
ただ、何かが喋っているのを眺めていれば、少しだけ、マシになる。
要するに暇つぶしだ。
『やっほー☆ 今日も銀河の果てから、アナタの心に直送便っ♪ ララ・セレスです!』
双子粒子を使った“星間回線”は、距離を問わない。
この宇宙に生まれた双子を離れた場所に置く必要がある。
だが、それさえできれば、何千万、何兆光年離れていても、データだけなら一瞬だ。
物質転送に応用しようとしたバカもいたが、それはまだ夢物語の域を出ていない。
イマジナリードライブに代わるようなワープ技術には、ならなかった。
星間回線は細い。
本来はアバターを通じて、視覚も触覚も、まるでそこにいるかのように触れ合うことができる時代だ。
だが、本物の“星間ライブ”に接続しようとすれば、帯域などすぐに吹き飛ぶ。
だから俺は、ただ映像を眺めているだけだ。
ホロディスプレイに映し出された、最適化された彼女の姿と声。
それだけでも、目の前で話しかけているかのように感じる。
アバターの完成度は高い。だが、それを本人と言えるかどうかは解からない。
彼女は言った。
ハイパーチャットを、今日から一切受け付けない、と。
「こいつ、偶に見てたが……ハイパーチャット禁止? ふーん……」
俺は指先でホロディプレイの再生ウィンドウを広げながら、気のない声を漏らす。
『はい。彼女は“支援”よりも、“拡がり”を優先したいとの意志を明言しています――』
独り言のつもりだったが、俺の言葉にノアが反応した。
『――古代芸術……つまり“レガシーアート”を、多くの人に触れてほしいと。ハイパーチャットに使うクレジットは、実際に現地の展示施設やアーカイブへの訪問、またはそれに関連する資料の購入など、彼女が推奨する形で“直接”使ってほしいと語っていました。つまり、“私ではなく、対象そのものに触れてほしい”という考え方です』
「それとこれとは話は別だろ? 正当な対価ってやつだ」
『では、彼女の行動は、対価を放棄した自己犠牲でしょうか』
「自己犠牲なぁ……こいつはやりたいことをやってるだけだろ? コメント欄の奴らは聖人だなんだ、騒いでいるが、どういうことだ? タダ働きが偉いってのか?」
画面下に流れるコメントが目に入る。
『こういう人こそ、本当に応援したい』
『見返りを求めない姿勢が、ほんとに尊い』
『お金じゃないって言い切れるなんて、まさに現代の聖人……本物のライバー!』
鼻で笑った。
「なあ。もう宗教じゃねえか、これ?」
『彼女は、確かに自己の目的に忠実です。それゆえに、報酬よりも“選択”を優先した。その姿勢が、観測者に“清さ”として映る可能性はあります』
「これじゃ、生活の為にやってる奴が可哀想じゃないか。同じように娯楽を提供してる、それ以上でも、それ以下でもない」
『目的は異なれど、手段が等価であれば、報酬の有無を基準に価値を上下させるのは、本来適切とは言えません』
「気持ちわりー奴らだ、勘違いするな? 本人じゃない、本人にブレはない……周りの奴らだ」
ホロディスプレイ越しに流れる賞賛の嵐を眺めながら、吐き捨てるように言う。
それは、対象への羨望か、無意識の嫉妬か。いずれにせよ、過剰だ。
『了解しました。ノアの先ほどの観測は、あくまで受け取り側の反応についてのものです。彼女自身の選択は、ぶれていません。明確で、率直です』
ノアはあくまで中立の姿勢を崩さずに、そっと応答する。
『賛美はしばしば、自分にはできないという潜在的無力感の裏返しとして現れます。できない何かを、美徳という衣で包むのです』
ノアの言葉は、感情の揺れを伴わない。
事実だけを淡々と突きつける……それが妙に心に刺さるときがある。
「ひとつ言いたいのは、“タダ働き”はクソだってことだ」
『けれど、その対価を望まないことが、本人の意志によるものであれば、それは“クソ”ではなく、単なる選択です』
ノアの言葉に、俺は一瞬、反応に詰まる。
うまく言い返せる理屈が思いつかない。
『記録上、あなたは過去に報酬なしの依頼を三件、引き受けています。ただし、その際も好きでやったと明言していました。行為の価値は、報酬の有無ではなく、あなたがそれを選んだかどうか、です』
「あれはそうしたいからそうしたんだ。今回のコイツもそうだろう?」
言葉にした後で、自分でもその滑稽さに気づいてしまう。
自分の口から出たその言葉が、ほんの数秒前の自分を否定していたからだ。
……ノアを相手に取り繕うのは無理だ。
俺は少し笑って、背もたれに体を預けた。
『はい。彼女もまた、自身の意志で選択し、自身の理念に従って行動している。ただ、その行為が美徳として祀り上げられるとき、意図とは別の物語が生まれます。信仰に似た熱が、時として強制へと転じることも』
「善行なんてもんはよ? 究極的には……全部、助かりたいからやってんだろ? “終末の鐘が鳴った時に自分だけでも……”ってな?」
『ジェイス。飢えた仔犬を拾い、ミルクを差し出すとき、そんなふうに考えるのですか?』
「……ちっ……」
吐き出した皮肉が、自分の背中に跳ね返ってくるような感覚。
軽口で流すには、少しばかり息苦しい。
俺は視線を逸らすように、手元のホロディスプレイをなぞった。
ふと気まぐれで、別の配信を開いてみる。
画面に映ったのは、銀髪のアバター。
その姿はどこか幻想的で、けれど作り物にしては妙に温度を感じさせた。
そして、透き通った声が、ためらいなく語る。
『ハイパーチャットは受け取ります。でも、収益の半分は、犬の保護団体に寄付します。私の好きな生きものだから。ただ、それだけです』
俺は無意識に呟いた。
「……この娘は、違う。そう、志が違うんだ。簡単にできることじゃない……」
気配も音もなく、艦内の一角にノアのヴィジュアルが浮かび上がる。
ホログラムで構成されたその姿は、艦内どこにでも現れる。
『その言葉、あなたがいちばん嫌っていた“聖人扱い”に、少し似ている気がします』
俺は、思わず眉をひそめた。
「……違う。コイツは……そういうんじゃ、ない……俺は……」
ノア。オマエはそれを言うためだけに現れたのか?
――沈黙。
……それが俺の返答だった。
『そう信じられる相手がいるのは、悪くないことです』
ノアの投影に、かすかな笑みが浮かぶ。
それは、AGIであるはずの彼女に、人間らしさ感じさせた。
穏やかで温かいものだった。
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