第4話
白のお母さんから聞いた話は現実とは思えない、幻想のような話だった。
私と夜明はその話を聞いた後、射した希望に微笑みを浮かべて夢の世界に落ちた。
白のお母さんからリビングに案内された。
リビングに置かれているテーブルを見て、小さい時から変わらない景色に懐かしんでいた。
案内されて、私達は着席した。
白のお母さんは慣れた手つきでお茶を入れて、私達の前に置いた。
そして、私達と反対側の椅子に座って、話し始めた。
「実はね、私と白は血が繋がっていないの。私は幽玄家家臣団の家系のひとつ、観皇家の1人、夫も観皇家の子孫の1人、とは言ってもそれは偶然だけどね。白はいや白夜様は幽玄家の現当主。幽玄家っていうのは、観皇家を含む十二の家臣団を束ねる一家で、『世界を統べる血』とか『時代のうねりを正す一族』とか仰々しい呼び方をされてるけど、実際は世界の平和を第一に願う平和を象徴する一族なの。私達はそんな白夜様を守るために両親を演じてきた。とは言っても畏れ多かったけどね」
少し話を聞いただけなのに現実のものとは思えなくて少し目眩がする。
少し間を開けて、続きを話し始めた。
「今白夜様が幽玄家に戻ったのは、時代のうねりが発生したから。今日本は、世界は時代を壊す者によって支配されようとしている。だから白は幽玄白夜へと戻るために、白という人物を消した。少し手荒な手段だったけどね。でも、勘違いして欲しくないのは、白夜様は二人を本当に大切に思っていたこと。でも白夜様は二人を守るためにこのような行動を起こしたということは理解していて欲しい」
その言葉に夜明は笑い始めた。
「何を当たり前のことを言ってるんですかおばさん、白が俺はともかく彩を大切に思っていないわけが無い。本当に変わっていなかったことが知れて安心しました。白にはもう会う手段はないんですか?」
明るく、冷静に聞く夜明を見て、私も少しづつ元気を取り戻してきた。
もしかしたら白にまた会えるかもしれない。
その希望だけでも、笑顔になるには十分だった。
「白夜様からはあなたたちが尋ねてきた時にと言伝を預かっています。ただ一言、待ってて欲しいとだけ」
すぐに会えることはない、私も夜明もそれを察して少し残念がっていた。
「そして、これは白の母親から二人へのお願い。白を忘れないで」
私達にとって当たり前のことを言われて、少し戸惑って顔を見合せた。
私達は勿論と返して、その日は帰ることになった。
また白に会えるかもしれない、それだけでも私達の心に光が差した。
それがどれだけ長くても私は白に会えることを、白と隣にいたいことをいつか伝えられる。
家に帰って、お母さんとお父さんにそのことを嬉々として報告。
そして、お風呂に入って、布団に潜って、枕元に置いた携帯にアラームをセットして電気を消した。
寝ようとして目をつぶった時
「彩、ありがとう」
そう白の声が聞こえた気がした。
その日私は、昔の白と夜明と駆け回っている夢を見た。
「白兄、これからだね」
漆黒の鬼の面を持つ白夜。
滅紫の外套を羽織り、腰元には紅緋の刀と紺碧の刀を帯刀していた。
東の空が少しずつ夜明けを知らせていた。
スマホからアラームが鳴って、手の感覚だけでスマホを操作する。
スマホに表示されている時間は朝の八時。
ゆっくり起き上がって、洗面台へ向かい、寝ぼけている顔に冷水を浴びせて目を覚ます。
お母さんが作ってくれた朝ごはんを食べて、家を出た。
夜明もちょうど出勤する時間で、駅の前でばったり遭遇した。
「あのさ」「ねぇ」
と、話し出すタイミングが被った。
「先話しな」
夜明の言葉に甘えて、私は夢の話をした。
「え?俺も全く同じ夢を見た。もしかしたら白も同じ夢を見たかもな」
そう二人で笑い合いながら駅に入ろうとした時、珍しい服装をした人がいた。
紫色のコートと腰には模造刀?そして、顔には真っ黒な鬼の面をしていた。
コスプレイヤーかな?と思っていた時、その人は刀を抜いて、近くにいた男性を切りつけた。
男性は身体から血を流して倒れ痛みにもがき、少しずつ動きは弱くなって、ついには動かなくなった。
その光景はそれほど長くなかった、けどその瞬間は時間が進むのが遅く感じた。
血がその人の周りに流れて、駅の前に沈黙が流れる。
出勤や登校しようとしていた人達が足を止める。
そして、その沈黙を破るように悲鳴が響く。
その悲鳴は周りに広がっていく。
目の前の光景にある人は叫び、ある人は泣き、ある人は震え、ある人は逃げ出した。
その光景に私は動くことが出来ずただ震えるだけだった。
夜明が手を掴んで引っ張る
走り出した時やっと私は正気を取り戻した。
少し後ろを見た時、鬼の面をした人は、逃げ惑う人たちを追い始めた。
その速さは人間のようなものではなく、瞬く間に一人、二人、三人と地面に倒れていく。
血飛沫が舞うのを見て恐怖で目を背けた。
私たちはただひたすらに走って逃げることしか出来なかった。
その後無我夢中で走り、私の家の前に着いた。
夜明は私の家に逃げようと提案したけど、私は何故か白の家に行きたいと言った。
普段しまっているはずの白の家の玄関は何故か開いていた。
普段の空気とは違う、何か重い空気。
そして、何故か香る鉄の匂い。
ゆっくりリビングに進んで、リビングの部屋に繋がる扉を開ける。
そこには、いまさっき駅にいたはずの鬼の仮面をつけた人と血まみれの白のお母さん。
夜明はすぐに激昂して、その人物に掴みかかろうとする。
だけど私はその人物に最愛の人の名前を呼びかけていた。
「白!!!」
その声に夜明は止まった。
そして、目の前の人物は面を外す。
その目は、その顔は最愛の人だった。
「すぐにバレてしまいましたね、白夜様」
そう言って、倒れていた白のお母さんは起き上がった。
その血にまみれる姿が嘘かのように埃を払う。
「そうだね、彩、夜明久しぶり。びっくりさせてごめんね」
私は涙を流しながら抱きついた。
頭を撫でるずっと変わらない優しい手。
「説明してくれよ、白。駅での惨劇もお前なのか」
夜明は駅での惨劇を起こした人物なのかを聞いた。
白は頷いて話し始めた。
「うん、俺がやった。だけど、今全部を説明できる時間はない。本当のことは全て日記に書いてるから。今は白という人物を忘れてくれ。夜明、彩を頼んだよ」
その言葉は私達にとっては希望を閉ざすような言葉だった。
夜明はこれまでの思いを白にぶつけようとした。
「ふざけんな、俺達はずっとお前を!!」
夜明の顔はこれまで見た事ないような表情だった。
「夜明!」
それをかき消す声。
「頼んだよ」
その優しい声は忘れることの無い大切な人の声だった。
夜明は怒りの表情を滲ませながら、頷いた。
白の声はずっと変わっていない。
夜明もそれを理解しているからこそ、ただ頷くだけだった。
「きっとまた会えるからね」
そう言って白は私を突き放した。
よろける私を夜明は受け止め、もう一度顔を上げた瞬間、白は居なくなっていた。
白のお母さんが、私たちの手を握った。
「彩ちゃん、夜明くん。日記の場所はわかるわね?私はずっと2人を見守ってる。白のことを忘れないでね。さぁ、早く彩ちゃんの家に行って」
そして、私たちが白の家を出て、私の家に入った
数時間がたった頃、警察が白の家に来た。
運ばれる白の母親。
その顔には白い布がかけられていた。
白の言った日記。
私たちはそれを読みに行くことにした。