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祓魔寿司 めふぃすと  作者: 岡村なぎぼ
一貫目 エレナと逆さま博士
7/32

エレナと逆さま博士 ◆ 6 ◆

  ◇  ◇  ◇



 ドカーン!!


 土煙とともに轟音が響いた瞬間、エレナはかすかに刃音を聞いた。そして予期していた衝撃は訪れず、かわりにぽよん、とやわらかいクッションを尻の下に感じた。そっと目を開ける。



「……?」



 辺りは相変わらずの地獄絵図だったが、エレナのそばにはブツ切れになったタコの足が散乱していた。うち、ひと塊は吹き飛ばされたエレナの下敷きになっていた。


 運よく助かったんだ、と思いかけてハッとひらめくエレナ。もしかして、あたしが無意識のうちにタコを切り刻んだんじゃ? さっすがエレナちゃん!



「ごきげんよう、お嬢さん」



 エレナの妄想を遮るように声がした。やけにはっきりと聞こえたその挨拶の主を探して、エレナはきょろきょろと周りを見回す。



「こっち、こっち」



 声の方向からして、上……? と視線を動かすエレナの顔に影がかぶさる。


 ぶらん。


 その男は天からぶら下がっていた。逆さ吊りで。



「私、ドクター・ファウストと申します」



 目の前の異様な光景にエレナは目を見開いた。男が身に着けている白衣の裾がはためいて、チラチラとエレナの視界を邪魔する。逆さまの男――ファウストはこう続けた。



「以後お見知りおきを、ミス・エレナ・メフィストフェレス」



 彼のひと言に加え、モノクルの奥の怪しげな瞳がエレナを一層動揺させた。せっつかれたような気になって、エレナは何か言わなくては、と慌てて口を開いた。



「な、なんであたしの名前……い、いや人違いでしょ? あたしエレナ・メランヒトンです」


「ごまかさなくていいんですよ、私はお父上の命で参りましたから」


「ダディの……?」



 エレナの頬を汗が伝う。



「そうですとも……」



 ファウストは仰々しく間をたっぷりと空けて、その名を口にした。



「大悪魔メフィストフェレスの命でね」



 ピシャーン、とタイミングよく雷が鳴る。できすぎでしょ、とツッコむ余裕もないほどエレナの心臓は早鐘を打った。



「人間界に留学している娘の貴女の護衛をおおせつかったのです」


「……」



 知らぬフリをしようかと一瞬考えたエレナだったが、それは無駄だろうとファウストの姿を頭のてっぺんから爪先まで見上げて改めた。彼の脚には黒い糸が巻き付き、その一方の先はどんよりと暗い空に伸びていて、どこまでも続いているように見えた。


 どうやって何もないところから人間を宙吊りにできるのかエレナには説明ができない。あるひとつの力をもってする以外では。



「……あなたも悪魔なのね」



 諦めたようにエレナは低く呟いた。ファウストの言う通り、彼女はメフィストフェレスの姓を隠し、人間界に下った悪魔なのだ。そして、ファウストも――



「いいえ? 私は人間です」



 拍子抜けするエレナ。てっきりファウストの宙吊りは悪魔の力を使ったものだと思っていたから。エレナのリアクションを気にも留めずファウストはつらつらと続ける。



「昔、お父上と交わした契約のツケで、今はこの通り彼の眷属ですが」


「あ、そーゆー」


「不審者じゃないとわかりましたね? 貴女も自身がエレナ・メフィストフェレスだと認めますね?」


「まぁ、そうね、はい……でも……ダディがあたしのこと心配するとは思えない。だって……」



 かぶせるように聞き覚えのある地鳴りがして、ファウストは緩慢な動きで後ろを振り返る。足を数本失ったタコは、ふたりから少し離れた場所で沈んでいたのだが、意識を取り戻したのか動き始めてしまった。エレナが「タ、タコが生きて……」と呟くのに合わせ、ファウストはすっとエレナの手を逆さまにとる。



「お手を拝借」



 ぐいっとそのまま彼に引っ張られ、エレナの足が浮いた。サーカスの空中ブランコよろしく、ファウストはエレナを宙吊りの道ずれにして、瓦礫の山の中を自在に縫っていく。ファウストの足は虚空を走っていた(・・・・・)



「ええええええ!!」



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