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2話 拘束

 長く拠点としていたシャルベスリア王国の首都であるアワーバを出て、中央街道を南へ進む。そして途中で乗り合い馬車を使い、西南西へと進路を変える。セルマが大きな船着き場のある交易中継地点の街、キンシャードへ到着したのは、優に五日が経過した頃だった。

 そこでも、瘴気が払われたことへの歓喜がいたるところで見られた。セルマが最後にこの街を訪れたのは十年ほど前だったが、ここ数年ほどではないにせよ、当時でも瘴気は生活を脅かし、船の発着にも影響を与えていた。

 暗がりに潜みやすい性質の瘴気は、影があるところにならどこにでもやって来る。そして人体に取り込まれることによって、呼吸不全などの重篤な症状を生んだ。それによって人々はことさら闇を恐れるようになったし、実際にそれは脅威だった。

 昼間でもランプを灯し、影が生じないようにするには限界がある。夜となればなおのことだ。瘴気が深まるにつれ、狂気に陥る人々が増えた。もしかしたらそれすらも、瘴気が直接影響していたのかもしれない。

 原因、いや、根源はどこかわかっていた。世界中の瘴気は、公には場所を明らかにされていない、とある深い渓谷から生じている。多くの年月においては、危険視せねばならぬほどではなかった。その地域には人里があり、時折身近なところまで瘴気がやって来ても、箒で掃いてしまえばかき消せる。その程度だったと聞いている。


(――結局、なにが原因だったんだ? 瘴気の量が増えたのは)


 ランプがなくとも明るい表情の人々を眺めながら街並みを歩き、セルマは考えた。しかし、よくわからない。そういう小難しいことは、すべてターヴィへ任せていたからだ。理解できるように教えてもらっておけばよかったな、とセルマは思った。

 数日この街でゆっくりと過ごしてもいい気にはなっていたが、それよりもセルマの気持ちは海の向こうへと急いていた。もう薄い記憶の中にしかない、幼少期を過ごした大地。船の行き来ができなくなってしまってから、その様子はまるで知れなかった。

 家族や身寄りがあるわけではない。むしろ、忌まわしい記憶の方が多い。それでも、セルマは見てみたいのだ。記憶の底にある土地が、人災によって荒れ果ててしまっていたあの地が、今はどうなっているのかを。

 海へ近づくにつれ、街の活気と人の声が大きくなっていく。交易の船と漁業のための船の見分けがつかず、通りがかった者へ尋ねた。無愛想なセルマへも、親切に短い解説を加えて教えてくれた上に、乗船証の発行場所と手続きの仕方まで示してくれた。よほど、船が動く事実を嬉しく思っているのだろう。

 セルマは教えられた通りに海岸沿いを歩き、乗船手続きの事務所を見つけた。大盛況で列が外にまで伸びている。通常ならば並ぶことに辟易するが、なにせ、セルマの心は海の向こうへ飛んでいたため、なんの苦も無く待っていられた。


「セルマ・コティペルトさん?」


 ようやっと事務所内に入れたのは二時間を経過した頃だろうか。カウンターでセルマが記入した用紙を見ながら、受付の男性がメガネを上げ下げした。


「よろしければこちらでお待ちください」


 なぜか、別室へと通される。これまで何年も交易がなかった土地へ向かう船に乗るためには、乗船のためになにか特別な契約が必要なのだろうか。そう思ってセルマは特別疑問にも感じず、その部屋へ入った。思えば、浮足立っていたのだろう。


「――セルマ・コティペルト殿。身柄を拘束させていただきます」


 駆けつけた警ら隊数名に取り囲まれ、なにゆえかセルマは獄中の人となった。

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