4.
眩しい程に明るい太陽の光は、緑に反射してより一層眩しい。
遂に林間合宿当日である。
苗木達を含む生徒会一同は、人が通らないためか、少し荒れてしまっているウルシの山道を歩いていた。
あちらこちらに雑草の生えた山道は、以前こそ綺麗だったのだろうが、もうその面影しかない。
緩やかな山道を、各々、自由にのびのびと林間合宿への期待を膨らませながら進んでいた。
「 意外としっかりやまなんだなー 」
狭間は伸びをしながら言う。
狭間の言うように、山道以外は草木に囲まれており、とてもこの先に、自分たちの合宿出来るような建物があるとは想像できない。
「 あっまって、 」
苗木が携帯を開く。
画面の左上の圏外の文字に眉をひそめた。
あまりにも草木が混み入ってるからなのか、電波が通っていないようなのだ。
事前にこんな事もあるのかなあ、と予想はしていたが、実際に使えないとなると中々来るものがある。
少しでも使えるかもしれないなあ、と膨らませていた心がしぼんでしまうのが苗木自身にも感じられた。
そんな苗木の落胆ぶりをみて、まてまて、と安室が口を開く。
「 携帯なんてなくても僕達楽しめるから! 」
どこからか拾ってきた木の棒を振りながら、自信気にそう言う安室に、苗木は不服そうな視線を送った。
しばらく山道を進むと、なんだか雰囲気が変わる。
先程まで緑が濃かったが、この辺りから葉が少なく、細い木が増えている。
倒れてる木もしばしばあり、下垂した赤い花がチラチラ咲いている。
「 この花あれに似てね? 」
安室が後方でゆっくり歩いてくる他の生徒と気にしながら、花を見る。
あれというのも、山に入る前に通った村での話。
山に入る前に立ち寄った村で、この花が至る所に咲いていた。ここら辺の地方では珍しくない花なのであろう。
倒れた木々の中に目をこらすと、かなり古く、朽ちかけた家々があるが、どうやらもう人の気配は無いらしい。
そんな景色を抜けると、また緑に囲まれた元の山道へと戻る。またしばらく和気あいあいと進んで行くと景色が急に開けた。
開けた先には、砂利と、あまりにもささやかな川瀬と、そしてかなり古びたログハウスがあった。
確かにログハウスとは聞いていたが、ここまで古びていると今後の林間合宿が不安で目を伏せたくなる。
期待を胸に走り出そうとした安室は、ズコーとアニメのように砂利に転んでしまった。
なんとも不憫である。
中はきっと綺麗なんだよ、と苦し紛れな笑顔で苗木がログハウスの木の扉に手をかける。
苗木が開けると、ボロ、と木の粉が落ちるとともに、ホコリや蜘蛛の巣の張られた絶望的な室内にヘナヘナと3人は崩れ落ちるのだ。
✲
後方を続いていた生徒会一同が苗木達に追い付いたのだが、やはり彼らも同様の反応をみせた。
どうしたものか、と悩んだ末に、掃除を一から始めてみることにした。
幸い、ホウキやチリトリ、雑巾バケツなどの簡易的な掃除用具は置かれていたので、役割分担をすることとした。
掃除はというと、チャンバラが始まったり、丸まった紙でホッケーをしたり、遊びながら少しづつ進んでいた。
夕方、薄暗くなってくる頃には、苦なく過ごせる程に整えられた室内を見回し、一同は安堵のため息をつく。
池上が事前に手配してくれていた生活用品や寝床も無事、ログハウスに入れることが出来た。
結構な骨の折れる作業をこなし、1日目の達成感はMAXとなっていた。
「 梶寝てるやん 」
梶が誘ったであろう男子生徒がいう。
1日目のご飯を作るメンバーは先にお風呂へと入ってきた為、調理の準備に取り掛かる。
梶もその中の1人だったのだが、整えられたログハウスの中に顔を出したのかと思えば疲労で寝てしまっていた。
そんな梶が1番、遊んでいたのだが。
調理担当以外は各々雑談やらトランプゲームなどを始めていた。
苗木や狭間等も一息ついて大富豪を始めた。
苗木は得意の大富豪となり、自信気にカードをシャッフルし始めた。
そんな様子を安室は見て、やれやれ、と余裕そうにしているのだが、それはいつもの事である。
安室はいつも余裕そうに全てを構えるのだが、結局負けてしまったり、ボコボコにされてしまう。
何とも不憫である。
各々が、わちゃわちゃ、と楽しそうにしている中、梶は気持ちよさそうに寝ている。
調理担当のメンバーもその様子を仕方ないなあ、と許していた。
そんな様子を横目に、半田は大きく伸びをすると口を開く。
「 疲れたな、風呂入りに行くか 」
半田がそう言うと、池上も、サッパリしたいな、と一緒に行くことにしたらしい。
風呂施設はここのログハウスから約15分程である。
とても新しいとはいえず、かなり古びているが幸い事前に整備はしてくれていたみたいで使えるようだ。
せっかくならログハウスまで整備していて欲しかったが、これはこれで、中々協力が出来て良い機会だったと思う。
行き道には自動販売機もあり、丁寧に看板で道を教えてくれている。
2人はタオルなどを手に取り、和気あいあいとしたログハウスを離れていった。
✲
池上が風呂施設から出ると、沈みかけていた日は、すっかり落ちていた。
池上と半田はタイミングこそ一緒に入ったのだが、半田は結構、長風呂である。
半田と同じタイミングでお風呂を上がるとなると、普段からシャワーで済ませている池上はのぼせてしまうだろう。
池上は先にお風呂を上がって、ログハウスへと戻る旨を半田に伝え、風呂施設を後にした。
お風呂施設までの道のりはというと、暗くてあまり分からないが、落葉植物が多いのか、枯れた葉が地面を覆っていた。
所々葉のない樹木や、倒れた木々もあるようだ。
行き道の自販機で池上は立ち止まると、コーヒー牛乳を買うことにした。
ガコン、と缶が落ちる音がすると同時に、池上の背後でガサ、と音がする。
暗くなってきた馴染みのない土地で感じた背後の気配に、池上は訝しげに後ろを振り向く。
振り返ると、自分達とはまた違う、1人の人間が自販機に照らされていた。
じりじり、こちらに歩んでくるその人物はゆっくりと口を開く。
「 ここら辺の人じゃあないね、 」
ガラ、とした声が静かなその空間に低く響く。
池上が次に言葉を紡ぐと共に、鳥の羽ばたく音がしたのであった。
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