1.
喜怒哀楽が渦巻く今世では様々な事象が起こる。
誰もが気にしないような不可解な現象をミステリーだと仮定しよう。そんなミステリーを解決すべく立ち上がったのが
『 ミステリー研究会 』
牌乙高校の生徒たちで設立されたミステリー研究会、もとい、ミス研。偶然とはとても言えない、必然なミステリーに生徒たちは巻き込まれていくのだった。
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_______ミ______ン____。
蝉の鳴き声が儚くも響いているむさ苦しいほど熱のこもった体育館に牌乙高校の生徒一同は集められていた。
しかし、生徒たちの面持ちはとても明るいものではなく、疎ましく重たい空気であった。
「 これより、生徒会選挙を始めます 」
一同の拍手が鳴り、1人の男子生徒が壇上へと上がる。
生徒会長だ。
先程の拍手とは打って変わって、一際大きな歓声が上がる。というのも、学年関係なしの女子生徒からであるが。
壇上に上がった男子生徒というのは、3年の池上という生徒である。噂によると博識で寛容で容姿が端麗。いわゆる眉目秀麗。もっと分かりやすくいうと女子生徒からモテモテというお話だ。
…あくまで噂が本当なのだとしたら。
ただしかし、人気があるのは高校全体を担う生徒会長としては100点満点なのではないか。
「 皆様、暑い中お集まり頂きありがとうございます。
今回の生徒会で取り決めますのは、次期副会長、
また、次期書記になります。
募集箱への熱烈な生徒会へのメッセージも励みに
なっております 」
苦笑いをしながら。いや苦笑いなのか誇らしさをクールに隠した上の苦笑いなのかさなかではないが、募集箱への愛のこもっているであろうハートのシールで丁寧に止められた便箋を何枚かちらつかせていた。
そんなことは関係の無い話。
バクバクと心臓が駆ける中、いつの間にか司会進行は進んでいく。
ついに名前が呼ばれると立ち上がる1人の女子生徒。
「 私、苗木は副会長に立候補致します! 」
元気よく返事をした後に彼女の熱烈な生徒会への想いが語られるのであった。
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数日後、廊下を駆ける音が聞こえたと思ったら勢いよく開いた2年B組の教室の扉。
ざわざわとしていた生徒たちも一瞬静かになったが、それもつかの間であった。
「 なったよ!なった副生徒会長!!! 」
若干、涙しながらも、嬉しそうに生徒会バッジを掲げるのは苗木だ。
教室の1番後ろ、カーテンの揺れを下から眺められるような席にいるのは、今まさに閉じかけた目を擦りながら欠伸をする男子生徒である。
狭間、彼は苗木と高校入学から一緒のクラスだったにも関わらず、1学年の夏休みから2学年の春休みまで学校に姿を現さなかった生徒。
2学年に上がって苗木と席が前後になったのがきっかけで苗木との接点が増え、見事にお互い意気投合し、仲良くなった。
「 お前なかなかやるやん〜 」
苗木の後ろからバッジをひょい、と取り上げ、光に当てながらまじまじとそれを見ているのは、安室という男子生徒。
苗木とはゲームの趣味趣向で気が合い、狭間を快く友人として受け入れた2年B組の不憫担当である。
返せ、という苗木の抵抗も虚しく、安室は狭間に歩みより、あの苗木がなあ、なんてほざいていたので下腹部に拳をお見舞いしてあげた。
「 にしても、苗木に副生徒会長なんて務められるの? 」
なんて、鼻をほじりながら狭間は言う。
苗木は不服そうな顔をしながらもバッジをつけ直し、出来るもん、と腰に手を当てる。
「 よーし、HRするぞー、 」
担任の松浦先生が、だらだらと教室に入ってきて生徒に声をかける。
松浦先生は持ち前のフレンドリーさで男女ともに慕われている。フレンドリーながらに距離感も絶妙で踏み込みすぎないため、生徒たちも噛み付いている場面は見たことがない。
さっきまでわちゃわちゃしていた3人も自分の席についた。
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一通りHRが終わり、それぞれが帰りの支度をする。
安室が、あーそうだ、とそそくさと帰りの支度をする苗木とまだ席を立たない狭間の方を向く。
「 今日もカラオケ行かねー? 」
うわあ、と表情を変える苗木と狭間。
しかし、その感情にも少しズレがあったようだ。
「 やだよ俺行っても飯食うだけじゃぁん!! 」
狭間はカラオケこそ好きだが、人前で歌いたくはないタイプでカラオケに行ったとしてもひたすらに食にがっついているだけである。そんなこともあり、カラオケに2人なんてごめんなのだ。
「 私は今日、林間合宿について生徒会で収集かかってる 」
行きたかったぁぁ、と悔しそうにしている苗木。
初めての生徒会での収集に心弾ませてるため、いつもよりかはどこかウキウキが瞳の奥には確かにあるのだが。
なんだよぉと目を細める安室はスクールバッグを肩にかける。
「 しけてんなあ、しゃーないわあ 」
ぶつくさと不満そうに悪態をつく安室は狭間の頭に膝を置く。
3人で帰るというHR後の恒例も苗木が副生徒会長になったことで、もはや恒例では無くなってしまうのか、と各々感じたのであった。
そんな2人を横目に苗木は教室を後にした。
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