22.弑逆
続いて、リュドミラとアレクセイは、別の部屋へと赴いた。
その部屋には、国王ゲオルギイと宰相アルティーロ子爵が囚われていた。彼らは、インクレア侯爵の手の者に捕らえられていたのである。
ちなみに、近衛騎士団長ゴノス子爵は、王城を守って討ち死にしている。
リュドミラは、両手を後ろ手に縛られ床に跪くゲオルギイとアルティーロ子爵の前に立ち、ゲオルギイを見下ろした。
ゲオルギイは、リュドミラを見上げ、必死に命乞いをし始める。
「許してくれ、リュドミラ、そなたを地下牢に入れたのは私ではなく…」
「黙れ、下郎。貴様と言葉を交わすつもりはない」
リュドミラはそう言い放つ。
「いや、儂は、ッ! ゴフッ!」
なおも何かを言おうとしたゲオルギイの鳩尾を、前に進み出たアレクセイが思い切り蹴り上げる。
「黙れと言っただろう」
リュドミラはそう告げ、その意志に関わらず喋れない状態になっているゲオルギイに、一方的に自分の考えを語り始めた。
「貴様をどうやって責め、どうやって殺すか、私も考えた。だが、直ぐに止めた。厭わしかったからだ。
貴様について何かを考える事は、殺し方ですらも厭わしい。もう私は、忌まわしき貴様の為に時間を使いたくない。だから、直ぐに殺す。
どの道、貴様は服毒自殺をする事に決まっているし、な」
王都を占領した貴族たちの話し合いの結果、ゲオルギイは処刑ではなく自害という体で殺す事が決まっていた。インクレア侯爵とオルゴロード辺境伯が、王殺しの名を負いたくないと考えたからだ。
リュドミラは、その“自害”の見届人としてこの場にやって来ていたのだった。
リュドミラは言葉を続ける。
「だが、ただの毒では面白くないから、我が師に特別製のものを作ってもらった。まずは、効果を試してみよう」
リュドミラの言葉を受け、アレクセイがアルティーロ子爵に歩み寄り、手にしていた荷物袋から小さな硝子瓶を取り出し、その蓋をあける。
「ひ、ひぃ、ゆ、許してくれ」
アルティーロ子爵はそう訴えたが、アレクセイはアルティーロ子爵の顔を無理やり上に向け、硝子瓶の中に入っていた粘着性が高い透明な液体を、その口に注ぎ込んだ。
効果はすぐに表れた。
「ぐわあぁぁぁ!!」
アルティーロ子爵が絶叫する。
そして、床に倒れ、全身を激しく動かし、のたうち回る。
その目が見る間に充血し、血の涙が流れ出す。
更に、身体が肥大した。後ろ手に縛られている手などは、パンパンに膨れ上がり、縄を圧迫する。
血管が浮き出て、全身から血が滲み始める。
「ガアァァァ!」
そう叫ぶと、アルティーロ子爵は、今後はあり得ないほどの角度で海老反りになる。その胸に大きく血が滲んだ。
「ゴフッ、ゴフッ、ゴフッ」
次に激しく咳き込み始め、吐血をあたりにまき散らす。
アルティーロ子爵の苦しみは、まだまだ終わりそうになかった。
「ひいぃぃ!」
悪夢のような苦しみを続けるアルティーロ子爵を見て、ゲオルギイは思わず悲鳴を上げた。
すると、ゲオルギイの近くに戻って来ていたアレクセイが、またゲオルギイの左脇腹を蹴り上げた。悲鳴を上げた事を、喋ったと見なしたらしい。
「ぐぅ、うっ!」
ゲオルギイはくぐもった声を上げる。肋骨が2本折れていた。
アレクセイの表情は仮面でも被っているかのように全く動かない。だが、その瞳には業火の如き憎悪が宿っていた。
アレクセイは、また硝子瓶を取り出す。もちろん、ゲオルギイにも同じ毒を服用させるためだ。
ゲオルギイは首を左右に振って、必死に拒絶の意志を示したが、それが効果を上げるはずがない。まもなく毒を口腔に流し込まれた。
そして、絶叫は二重奏となった。
リュドミラは、怨敵が悶え死ぬのを黙って見ていた。




