記憶の旅
母が神妙な面持ちで手紙を渡してきた。
桜が淡く描いてある綺麗な便箋。
そこには、「さくらへ」と綺麗な文字で書かれていた。
「どうしたの?お母さん。なんの手紙?」
少し間をおいてからゆっくりと、母が口を開いた。
「さくらの本当のご両親はなくなっていることは、言ったわよね。実はまだ、あなたに言っていないことがあるの。」
母からその話がでるとは驚いた。
去年の誕生日、私達には血の繋がりがないって言われてショックだった。けど、血の繋がりがなくてもこんなに大事に育ててくれて、私の本当の両親には生んでくれてありがとうって前向きに思えてた。
あんまり母や父も話したくなさそうだったから、それ以降会話にその話がでることもなかったし。
「言ってないことって何?」
「……実はあなたにはお姉さんがいるの。」
「え、」
涙がこぼれてきた。姉がいるなんて初めて聞いたはずなのに、なぜこんなにも胸が苦しくなるんだろう。血が繋がっていないことを聞いた時よりずっと。
昔のことは小学1年生ごろまでしか覚えていない。思い出そうとしても、思い出せなくて。思い出したくないみたいに。
「ごめん、ちょっと出掛けてくる」
突然湧いた辛い悲しみから逃げるように家を飛び出した。
冷たい夜風が私の頬をなでる。
(思い出さなきゃいけないことがある気がする…)
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「さくらーーー!幼稚園行くよー」
いつものように小さな家に響き渡る声。
「ゔぇぇーーーん、いやだぁぁぁ」
「なんでかなぁ、幼稚園楽しいと思うよ?」
困ったような顔をして姉は首を傾げた。
優しい声とささくれがある痛々しい手でなでながら私を落ち着かせる。
「お姉ちゃんと一緒にいるの!!」
駄々をこねて地団駄を踏む私。
「私も学校行かなきゃだめなんだけどなぁ」
そんな会話が毎朝のようにあった。
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姉の存在を思い出すと、なかなか思い出せなかった記憶が鮮明に蘇ってきた。
記憶にある優しい姉の姿。姉はどこへ行ってしまったんだろう。なぜ、私は忘れていたんだろう。