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007 動物園である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。お母さんにママ友ができてよかったよかった。


「大変なお知らせがあります……」


 なのに、母親はめっちゃテンションが低い。父親の前で深刻な顔をしている。何故か私も同席してる……


「ママ友に聞いたんだけど、幼稚園の申請って秋にするんだって~~~」

「あっ! すっかり忘れてた!!」


 広瀬家、うっかりミス。だいたいの子供は満3歳から幼稚園に通うのだから、この3月も終わりの時期に話し合うことではない。


「こんなの母親失格だよ~」

「それを言ったら、僕も父親失格だ……」


 なので、2人とも落ち込み出した。でも、そもそもな話がある。


「おにちゃ、あぶにゃい」

「「あ……」」


 こんな猛獣、幼稚園に解き放って大丈夫?ってこと。家の中でも外でも暴れまくっているのだから、両親に幼稚園なんて考える余裕もなかったのだろう。

 さらにいうと、幼稚園の先生が苦労する絵しか浮かばない。ジュマルが子供を舐めたり引っ掻いたり追い回しまくったり、座っていることすらできないはずだ。


 私の発言から両親はそのことに気付いて、ちょっと明るくなった。


「まだ幼稚園は早いわね」

「ああ。保育園もやめておこう」

「「絶対にやらかすし……」」


 というわけで、ジュマルの進学は先送り。忘れてて結果オーライと、胸を撫で下ろす両親であったとさ。



 それからジュマルもソファーで丸まって寝入り、リビングにはコーヒーの香りとまったりした空気が流れていたけど、父親の発言から空気が変わる。


「でも、学校とかのことは考えていかないとな~」

「確かにそうよね。幼稚園で出遅れてしまっても、私立の小学校って行けるのかしら?」

「お受験させるのか? 公立でよくないか?」

「公立で進んだとしても、高校受験や大学受験があるのよ? まだ小学校のほうが可能性があるかもしれないじゃない」

「ジュマルだってその頃には普通になってるって。勉強よりは友達作りさせたほうがいいよ」


 そう。親とは子供の将来が心配なモノ。ただ、母親はリアリストで父親は夢想家だから、平行線が続いている。

 それでもジュマルのために、インターナショナルスクールだとか家庭教師の話にまで及んで言い争いに発展したら、2人して私を見た。


「「ララちゃんはどう思う??」」


 私が感心してウンウン頷きながら聞いていたから参考にしたいみたい。でも、私はしがない赤ちゃん。んなもん知るかと言ってやりたかったが、広瀬家崩壊を阻止するためには何か言わなくては!


「ど、どうぶつえん……」

「「へ??」」


 ゴメン。なんも思い付かなかった。ジュマルにはそこがお似合いだと思ったから口に出てしまった。


「動物園か……」

「アリかもね……」


 こうしてジュマルの進路は決まったのであった……



「さあ、着いたぞ~」


 と、次の日曜日には、スタイリッシュな車に揺られて本当に動物園にやって来た。


「ララちゃん。キリンさんおっきいね~?」

「あいっ」


 理由は別にジュマルを売りに来たわけではない。家族で遊ぶためだ。そもそも広瀬家では、ジュマルが暴れまくるから家族で何かをするという発想が抜けていたので、私の発言から思い出作りをしようとなったのだ。

 そのジュマルはというと、抱っこヒモで父親の前面に張り付けられている。ベビーカーでは見えないとの配慮だろうけど、逃がさないためだ。


「ほら? ゾウさんおっきいだろ??」

「フシャーーーッ!!」


 あと、背面だと人体の構造上引っ掻かれない措置みたい。動物にも襲い掛かれないようにしているみたいだけど、ジュマルのあの顔は怖いのでは?

 ひとまず家族で動物園をウロウロ歩き、檻の前では私は2歳児っぽい演技。ジュマルは小型の動物には食って掛かろうとするが、大型の動物に対しては逃げるような素振りをしている。


「ライオンさん。かっこいいね~?」

「ふにゃ~……」


 特にライオンの前では、ジュマルは元気なし。猫化最大級の動物を前にして、絶対に勝てないと猫の本能が言っているのかもしれない。ヘビの檻の前では「にゃ~にゃ~」騒いでいたのも、猫の本能なのだろう。

 そんな感じでジュマルが静かな時は家族で記念撮影なんかをしていたから、かわいい動物の写真は少ない。でも、両親が笑顔だったから、私の失言はいい方向に行ったと思うのであった。



 動物園を堪能し、駐車場で車に乗り込む時に事件が起こる……


「フシャーーーッ!!」

「あっ!?」

「ジュマ君!!」


 ジュマルを車に乗せようと抱っこヒモを緩めたところで、ジュマルが暴れたから落っことしたのだ。

 ジュマルは様々な動物を見たから、ストレスが溜まっていたのかもしれない。半回転して着地したら、四つ足で逃走してしまった。


「待て~~~!!」

「そっちはダメ~~~!!」


 ジュマルは一目散に出口に向かい、両親が追いかけるが距離が縮まらない。私も青い顔でベビーカーに乗って見ていたら、本道だと思われる道から車が走って来た。

 速度、角度的に車とジュマルがちょうどぶつかる位置。車からは障害物があるから四つ足で走るジュマルなんて見えない。周りにいる通行人もジュマルに気付いて大声を張りあげていた。


「ぶつかる!!」

「イヤ~~~!!」


 父親と母親が悲鳴をあげるなか、私も大声を張りあげる。


「おにちゃ! 待て~~~!!」


 その刹那、ジュマルは急停止。車は鼻先数センチ手前を通り過ぎた。


「ジュマル!!」

「ジュマ君!!」


 九死に一生を得たと両親が駆け寄ったが、ジュマルは逃げるような体勢を取ったので私も焦る。


「おにちゃ! 待て!!」


 すると動きが止まり、ジュマルは私を見た。


「お座り!!」

「あいっ!!」


 そして何故か命令通りお座りしたところを両親に捕獲されたのであった……


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