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お兄ちゃんの前世は猫である。その秘密を知っている私は転生者である。  作者: ma-no
小学校である

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063 担任殴打事件の結末である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。あの黒猫キーホルダーは、やっぱり盗聴器だったね!


 ジュマルの担任殴打事件は、井口先生が悪足掻きで告訴していたけど、不起訴。そもそもジュマルは10歳にも満たない子供なんだから起訴されるわけがないのに、母親が意地悪していらない知識を植え付けていたみたいだ。

 いちおう家庭裁判所行きぐらいは覚悟をしていたらしいけど、井口先生の悪事は表沙汰になっていたし先に手を出したのは井口先生なのだから、注意だけで終わったらしい。


 それでも諦めの悪い井口先生は、民事訴訟を起こそうと母親の元に弁護士を送って来たが「示談に応じない」と突っぱねたら、二度と来なくなったんだとか。たぶん、勝てる見込みがなかったんだろうね。

 ちなみに盗聴器は、もしもジュマルに我慢ができない場合が来たら押すようにと、ダメ元で母親が何度もお願いしていたそうだ。だったら私にも言っておいてよね~。


 糸本(じん)君への児童虐待は、被害は未然に防げているとの判断で、母親の頑張り虚しく書類送検で終結。慰謝料もうん十万円しか取れなかったらしい。でも、笑っていたから筋書き通りなのだろう。

 この結果、世間に全てが露わになったから、井口先生は実質死刑。教育委員会も動かざるを得なくなり、教員免許を剥奪して、学校では働けないし塾も問題のある人間は雇えない。数年は確実に教育現場に復帰は不可能だからだ。


 私の通う小学校はというと、母親が言う通りに素早い対応をして再発防止案まで提示したので、特にお(とが)めなし。逆にテレビでは素晴らしい対応だと褒められていた。

 母親は、いくらか貰っていたらしいけど……


 ちなみにこんなに上手くいったのは証拠の有無。盗聴は証拠としてたいした効力はなかったのだが、裏アカが何故か消されずいまだに残っているから、連日マスコミが取り上げて裁判所に圧力が掛かったと私は見ている。

 なので父親を疑って聞いてみたら、母親に「世の中には知らないほうがいいこともあるのよ」と、止められた。つまり、何かやったんだね。


 どうしても知りたい私は、母親の目を盗んで父親に甘えてみたら、簡単に教えてくれた。

 どうやら父親のゲームはハッカーにも人気があるらしく、その筋の友達が多いらしい。その友達に、井口先生の裏アカのメールアドレスとパスワードを拘置所に収監されるまで変えてもらい、警察が見るタイミングで元に戻したんだとか……


「ということは、政治家の事件の時も手伝ってもらっていたんだね……」

「ララ。シーだよ~? ママは正義の弁護士だからね~? バレた場合は、パパが勝手にやったことにするんだからね~??」

「言えるわけないでしょ!」


 父親が捕まる未来しかないのでは、墓まで持って行くしかない。母親の言う通り、知らないほうがいいことは実在したよ!



 担任殴打事件と児童虐待事件は無事、解決となったが、母親が動いたことによって世間は「美しすぎる弁護士大活躍」とまた騒ぎになっていたけど、母親はメディアの露出に興味がないみたい。

 そのおかげでしばらくすると学校周辺にいたマスコミも去り、平穏な日常生活が帰って来た。そのタイミングで、仁君ママが息子と一緒にうちに訪ねて来た。


「この度は、本当にありがとうございました」

「いいんですよ。うちが引き起こした問題でもあるんですからね」

「いえ。ジュマル君にはいつも助けられていると息子から聞いています。ララちゃんも頑張ってくれたとも……本当にありがとうございました」


 糸本さんは母親には感謝が終わっていたが、私たちにはまだだったから、どうしても私たちに会いたかったみたいだ。


「お兄ちゃんも私もたいしたことはしていません。クラスのみんなが、思いやりの心があっただけです」

「そんなご謙遜なさらず、に……え? ララちゃんは7歳って聞いていたんですけど……」

「あはは。うちのララちゃん、妙に大人びているもんで」


 感謝の言葉を受け取るためにやったことでもないので手柄をクラスメートに持って行きたかったが、失敗。でも、私の大人対応に驚いて糸本さんの感謝は止まった。

 その隙に、私はジュマルと仁君を連れてリビングに避難。仁君からも感謝の言葉をもらったからジュマルに押し付けていたけど、上手く行かない。


 どうも仁君は、2年生までは吃音(きつおん)のせいでからかわれることが多かったそうだ。それを私がジュマルに怒ってからは、からかわれているとジュマルが現れて「こういう喋り方や。なんか文句あるんか?」と助けられたとのこと。

 そのおかげで3年生になってからは、皆も仁君と喋る時には「ゆっくりでいいから」と気遣うようになり、喋ることに苦痛を感じることもなくなって友達も増えたそうだ。


 そんな話を聞かされたら、私も泣いちゃいそう。ダイニングでもちょうどその話をしていたのか、母親が泣き崩れていた。


「それはいいことだけど、この生活にあまり慣れすぎたらダメよ。世の中には井口みたいなヤツは、山のようにいるの。そんなヤツの言葉に負けない強い心を持って生きてね」

「うう、うん。ジュマジュマル君や、らララささんみたいに、つつ強くななナル」

「お兄ちゃんは強いけど、私はか弱い乙女よ?」

「そそ、そんなここコトナイい。かカッコよヨカッタたた。ア、アネゴってよよ呼んでいい?」

「ダメ! それ、ドサンピンが勝手に呼んでるだけなの~」


 ちょっと涙を止めようと真面目な話をしていたのに、仁君がアネゴとか言うので完全に涙は引っ込んだ。確かに大人と対等に口喧嘩していたからかっこよく見えたのだろうけど、私は年下。あのドサンピンめ~~~!


 とりあえずアネゴとか呼ばれたくないので仁君を説得していたら、聞き覚えのある声が聞こえて来た。


『私がどんな手を使ってでもあんたを地獄に叩き落としてやるわ! もう教師でいられると思わないことね!!』


 父親が盗聴器から無駄な音を削ぎ落として編集した私の決めゼリフだ。


「ママ! また聞いてるの!?」

「だってかわいいんだも~ん。糸本さんもそう思いますよね?」

「かわいいというより、不思議? 7歳ですよね??」

「仁く~ん。この時のララちゃんのこと教えてくれる~??」

「こここ、こんななことししてた」

「やめて~~~」


 仁君が私の地獄に落ちろポーズをマネするので、母親は「やってやって」とうるさくなり、糸本さんは「どんな教育してるんだろう」と悩むのであったとさ。


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