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005 「おめでと」である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。バク転は早すぎると思う。


 ジュマルが二足歩行することによって両親は歓喜の涙を流していたが、公園に連れ出したのは失敗。ジュマルは水を得た魚のように走り回るので、リードを持つ父親がめちゃくちゃ大変そうだ。

 たぶん、リードで繋いでいなかったら、父親は振り切られていると思う。若干引き摺られているし……なんか猫に乗って腰振ってる!?


 少し人間らしい動きを見せていたジュマルであったが、父親がギブアップしたので強制終了。それよりも公園にいるママさんたちの目が気になるのか、ジュマルをベビーカーに張り付けて、すごすごと撤退する広瀬家であった。



 久し振りの公園だったけど、やっぱり上手くいかないので監禁生活に戻ると、ジュマルがうっとうしい。


「にゃ~……ハッ」


 自分が歩けるようになったからって、いっつも私を上から見下ろして鼻で笑いやがるのだ。なので、両親が見てないのを確認してから反撃。


「おにちゃ、しゃべれん。あちし、しゃべれる。ハッ……」

「にゃ~? ハッ……」


 でも、通じず。嫌味が通じないというより、言葉が通じていないのだ。この脳筋め……


「ママ~! マンマ、マンマ!!」

「にゃ~??」


 というわけで、母親をアゴで使ってみた。


「ええ~? さっき食べたところでしょ? ジュースでもいい??」

「あいっ!」

「ちょっと待っててね」


 しばらくしてジュースの入った哺乳瓶を口に突っ込まれた私は、母親の腕の中からジュマルを見下ろして鼻で笑ってやった。


「にゃ……にゃ~~~!!」


 するとジュマルは発狂。リビングを走り回りまくる。


「ま、また!? ジュマ君待って~~~」


 見慣れた風景。母親には悪いけど、2人の鬼ごっこをジュース片手に笑って見る私であった。


「はぁはぁ……」

「や、やっと捕まえた……ガクッ」


 ジュマルが私の前まで来て止まったら、母親はジュマルに抱き付いてそのまま倒れるのであったとさ。



 それからというもの、ジュマルはまた観察モードに入って私をジーっと見ている。なので、わざとらしく母親や父親を呼んで言葉の勉強をさせていたら、ある日の夕食の時間にジュマルが喋った。


「にゃ~にゃ~」

「ジュマ君なに? これ食べたいの??」

「にゃ~~~!!」

「違うみたいだな」


 いや、喋ろうとはしているみたいだが、発声ができていない。だから伝わらないので、癇癪(かんしゃく)を起こすことが増えていた。


(ちょっとこれはマズイ兆候ね)


 そのせいで、またジュマルがいうこときかなくなったと両親が暗くなっていたから、私も何かできないかと考える。

 それから数日後に、私がソファーで1人になってジュマルが物陰から見ていたので、手招きしたらノコノコやって来た。


「ラ、ラ」


 とりあえずジュマルの目を見ながら、自分を指差して名乗ってみる。


「にゃ~?」

「ララ」

「にゃ~」

「ラ、ラ」

「にゃ、にゃ」


 何度やっても「にゃ」しか言わないので作戦変更。


「あ」

「にゃ」

「にゃ~ああああ」

「にゃ~ゃゃあ」

「おちい! にゃ~ああああ」

「にゃ~あああ」


 ジュマルが「あ」を発音したので、すかさず言わす。


「あっ!」

「あっ!」

「できた! よちよちよちよち」

「にゃ~~~」


 私が褒めて顔を撫で回すと、ジュマルもちょっと嬉しそう。この手はけっこう使えそうなので、両親の目がないところで母音の発生練習から始める私であった。



 それからひと月ほどが経ち、ちょうど母親の誕生日があったので、その日にジュマルの成果を発表する。

 2人で母親の前に立ち、ジェスチャーをしてしゃがんでもらったら、私から口を開く。


「ママ~」

「ん~?」

「ママ~」

「え……」


 私の言葉にはたいした反応はなかったのに、ジュマルがママと呼んだだけで母親は泣きそうになっている。

 

「おめでと」

「お、おめでと」

「……あ、ありがとう……あなた……ジュマルが喋った……」

「あ、ああ。見た……聞いた! やった~~~!!」


 その後は、両親は阪神が優勝したかのような喜びよう。私も両親の前で言葉らしい言葉を喋ったのは初めてなのに、そのことにすら気付けないほど大泣きだ。


(よしよし。よかったね……ん?)


 その喜びように私は薄らと涙を浮かべて横を向いたら、ジュマルがしかめっ面をしていた。


(あの顔はなんだろ? お母さんを喜ばせようとしてたんじゃないの??)


 私が不思議そうにしていると、ジュマルは地団駄を踏んで大声を出す。


「ママ! おめでと! ママ! おめでと!!」


 その声に気付いた母親は、涙を拭いながらジュマルの前でしゃがんだ。


「うん。ありがとう。いっぱい喋れて凄いね~」

「ママ! おめでと!!」

「うんうん。ありがとう……え?」


 そしてジュマルを抱き締めようとしたら母親はビンタされたので、ジュマル以外の全員が固まった。


(え……何してんの? ……違う! 私が間違ってた!!)


 その光景に私も固まっていたが、そんなことしている場合でもないので、2人の前に割り込んだ。


「おにちゃ、ジュスほちい、いってる」

「へ??」

「おめでと、ジュスのまちがい。ゴメン!」


 そう。ジュマルは喋ったらジュースが出て来ると思って練習していたのに、私が勘違いして母親を喜ばせる言葉を教えていたのだ。


「あなた……ララちゃんめっちゃ喋ってるんだけど~?」

「あ、ああ……謝ったな……」

「ジュスあげて!!」

「「は、はい……」」


 ここで私もやりすぎたと思ったけど、凄い剣幕で怒鳴ったら、両親は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔でキッチンに向かった。


 こうして母親の誕生日は、両親は何が何だかわからないまま終わるのであった……


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