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037 涙涙である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。運転手さんに言われなくても、母親を敵に回すわけがない。


 今回も佐藤さん宅に菓子折を持って謝罪に行ったけど、お(とが)めはなし。逆に謝られて、虎太郎(こたろう)君は殴られて、ジュマルが睨まれてた。そんなことするからジュマルがさらに恨まれるのでは?

 いちおう子供どうしも謝っていたけど、口先だけ。ダメだこりゃ。虎太郎君が卒業するのを待つしかないね。


 そんなトラブルがあったので、その夜は家族会議だ。


「ララの進学、どこの学校にする?」

「……え??」

「お受験だよ。するだろ?」

「おにちゃのことは!?」

「あとでママと話す……」


 父親、ジュマルのことは諦めモード。話を聞いたのに後回しだ。私がデコピンのモルモットにする可能性があるから、逃げているのかもしれない。


「ララちゃん、ここなんてどう? 制服かわいいわよ~??」


 母親は母親で、ジュマルのことは終わったことなので切り替えてパンフレット見てる。確かにかわいいけど~!


「わたし、お受験しない」

「「ええぇぇ~~~!?」」


 浮かれる両親に私が爆弾を落とすと、ムンクの叫びみたいに驚いた。ジュマルもさすがに何事かとこっち見た。


「ララちゃんぐらい賢かったら、より取り見取りよ?」

「そうだぞ。パパたちも頑張るから、絶対に行きたいところに合格させてあげるぞ?」

「……本当はどうしてほしいの?」


 両親は力強く説得していたけど、私の質問には同時に目を逸らした。


「おにちゃと一緒の学校に行ってほしいんでしょ?」


 やはりというか当然というか、今日こんなことがなかったら普通に進学の話をしていたのだろうけど、そのテンションが物語っているよ。必要以上に高かったもん。

 私が核心を突いた質問をしたことで、2人は顔を見合わせて頷き、寂しそうな目を私に向けた。


「本当に、お受験してほしいわ。でも、ジュマ君も心配で……」

「うん。わかってた」

「僕もいい学校に入ってほしいのは本当だ。でも、ジュマルをこのままにしておけない……」

「うん。そうだよね」

「ララちゃん。ララちゃんはどうしたいの?」

「僕たちはララの気持ちを一番に尊重したい」


 そんなこと聞かれても、私は最初から決めている。


「おにちゃと同じ学校がいい。勉強は家庭教師さんにでも教えてもらうよ」

「ララちゃん……」

「ララ……」

「「不甲斐ない親でゴメンね~~~」」


 私の決定に2人とも涙ながらに私を抱き締める。その姿に、「本当は神様に頼まれているから」と口にしそうになったけど、ギリギリのところで踏み留まる私であった……



 私の公立小学校進学の件は、幼稚園でも激震が走った。そもそもこの幼稚園は進学校だったのだから、私ほどの天才を放っておけないらしい。

 毎日のように園長先生が両親に会いに来たり、私に直談判しに来たけど、そういう話は保護者としてよ。なんかいつも同じ小学校の名前を出すけど、お金とか貰ってないよね?


 私がそんなことを言ったら園長先生の面会はピタリと止まったから、マジっぽい。母親にもリークしたら調べようとしていたので止めてあげた。

 私の在学中だけでも、いい園長先生でいてほしいもん。テレビや記者が来たら、卒園式がどうなるかわからないってのもある。



 なんとか幼稚園も平穏を取り戻し、ジュマルも学校の頑張りのおかげで5、6年生もちょっかいを出さなくなって小さなトラブルしか起こさなくなり、2学期も終わった。

 いつもならこの時期は家族で引きこもっていたけど、珍しく家族旅行に行くとのこと。家族会議では父親がハワイを押していたけど、飛行機にジュマルを乗せるのはちょっと怖い。


 なので、少し遠い温泉街に足を運ぶこととなった。


「オロオロオロオロ~」


 初めての長距離列車は、ジュマルがグロッキー状態。吐いてばかりで介抱が大変だ。まぁこれはこれでアリ。電車の中を「にゃ~にゃ~」言って走り回ると思っていたけど、おとなしく寝ているから楽ちんだ。

 今までは車の短距離移動しかしたことがなかったから、ジュマルの弱点を知れた旅となった。


「にゃ~~~!!」

「おにちゃ! 水槽、引っ掻くな!!」


 あと、水族館は御法度。魚が泳ぎ回る姿を見たジュマルは興奮して、猫が出まくってる。もうすぐ7歳になるというのに、抱っこヒモは卒業できない。父親は何発かアゴにいいの入っていた。

 残念ながら水族館は途中退場してしまったが、温泉はジュマルにも好評。ここは猫が出ないんだね。嫌がると思っていたよ。


「ふにゃ~~~」

「ウフフ。ジュマ君も気に入ってくれたみたいね」

「そうだな。家のお風呂もこれぐらいゆっくり入ってくれたらいいのに……解放感かな?」

「パパの洗い方が悪いと思う」

「ララは最近、パパに厳しくない? これが反抗期……」

「一緒のお風呂、嫌って言ったのに入って来るからでしょ!!」

「パパ1人じゃ寂しいだろ~~~」


 確かに家族風呂の超豪華な部屋を取ったのだから家族で入るべきだろうが、私はもうすぐ小学生。これぐらいは言ってもいいだろう。イケメンの裸体を見るの、恥ずかしいもん。


「いいお湯ね~」

「ふにゃ~~~」


 今日はのん気な母親とおとなしいジュマルの代わりに、私が騒いだのであった……



 それから3学期もあっという間に終わり、ついに私の卒園式。両親も涙涙でカメラを回していたけど、もっと泣いてる人がいる。


「「「「「ララちゃん行かないで~~~」」」」」

「「「「「ママ~~~」」」」」

 

 幼稚園の先生と子供たちだ。私が子供に世話を焼きすぎたから、先生は私がいなくなると楽ができないと思ってるのかも? 子供は年長さんも年中さんも年少さんも、こんな公共の場でママって呼ばないで。泣いちゃうから!


 卒園式は涙涙の式典だったのだが、全て私に向けられた物だったので、他の保護者はどうして泣いているのかわからずに、首を傾げて帰って行くのであったとさ。


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