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声を聴く

俺たちは街道近くの森の中で野営している。

さっき食事が終わったので、いよいよマリアスから預かった箱を開ける挑戦を開始することにした。


『その中に、魔王が造った魔道具が入っておるのか?』


俺が収納ギフトから取り出した金属製の黒い箱を、エンマとカガリも興味深そうに眺めている。この箱は魔力を遮断する魔封箱で、中にはさらに二つの魔封箱が入れ子の形で納められている。


『魔王の魔道具が入っているかもしれないし、別のものかもしれない。それを確かめるためには、この箱を開けてみるしかないんだ』


『さっさと、叩き壊せばよかろう?』


『そういうわけにもいかないんだ。これはマジックバックだから、壊れてしまうと中の物が取り出せなくなる。それに、このままの形でサンタルナの街まで届けるという依頼を受けているからな』


『なかなかに面倒くさいのだわ』


エンマたちは興味を失ったのか、少し離れたところに寝そべった。

一方、ミリアルは俺の横で座ったままだ。


それでは始めるか。


俺は箱の上に手を置いて目を閉じ、意識を集中させる。

すると、少しずつ、いろいろなイメージが頭の中に浮かんできた。

鍛冶屋らしき男がハンマーを振るっている姿。

商人が出来上がった小箱を売っている様子。

金持ちらしき女が宝石を入れているところ。

泥棒がこの箱を盗み出す光景も浮かんできた。


俺がイメージの探索を行うと、動画の早送りのように高速で場面が入れ替わって行くのだ。


やがて、箱を前にしたマリアスが現れる。

白髭を生やした初老の男に何か言っているようだ。

このシーンで間違いないと思い、俺はさらに意識を集中させる。

すると、話し声が断片的に聞こえてきた。


『…たくさんの人が…』

『…女神さまの…』

『…勇者パーティの…』

『…光の野に…』

『…やつらは…』


しばらく粘ってみる。しかし、マリアスたちがこの箱に銀色の小さい箱を納めているイメージは見つけられたのだが、肝心の声は断片的にしか聞こえなかった。


集中力が切れそうになってきたので、いったん休憩することにした。


目を開けてミリアルを見つめる。


「なかなか難しいな。声が途切れ途切れで、何を話しているのか全くわからない。合言葉もわからなかったよ」


「それは仕方ないのです。初めてのことを、いきなりうまくできる人はいないのです。少しずつ前進すれば良いのです。本当にお疲れ様なのです」


ミリアルと『ホーリッツ』という麦芽で作った飲み物を飲みながら一息つく。

これは、心を落ち着かせる効果があると言われている飲み物だ。

ホーリッツを口に含みながら、声を聴くのはなかなか難しいなと考えていると、ミリアルが意外なことを言い出した。


「リュウさん、少し気になったことがあるのです。リュウさんが箱を調べている様子を見ていて、少しおっかなびっくりというか、身が引けているというか、力を100%出し切れていない印象を持ったのです」


「えっ?なぜ分かるんだ?」


実はミリアルが言う通りなのだ。

ある出来事が起きてから、イメージを探索する時に少し及び腰になっているところがあるのだ。


2年ほど前に人探しの依頼をこなしていた時のことだ。

対象者の男の写真を手に持って、いつものようにイメージを探っていると、そのイメージの中に俺自身が引き込まれてしまったのだ。


気が付くと、その男が女性と酒を飲んでいるバーで俺はたたずんでいた。

まるで映画の一シーンのように、男と女性は話し続けていた。

俺にはまったく気づかない様子だ。

それまではそんなことは一度もなかったから、俺はパニクって、そこから何とか抜け出そうといろいろ試みたが駄目だった。体がまったく動かないのだ。

結局、現実世界で俺の体力が尽きた結果、手に持っていた写真を落としてしまったのだろう。それで、戻ってこられたのだと思う。


気が付くと、俺は床の上に転がっていて、傍らに写真が落ちていた。もし、写真から手を離さなかったらイメージの中から戻ってこられなかったかもしれない。

それ以来、イメージを得ようとすると、その中に引き込まれそうになってしまったのだ。


そのため、そうならないように、慎重に力をセーブしながらイメージの探索を行っている。今ではそのやり方にすっかり慣れて、イメージに引き込まれないギリギリのところで探索を行えるようになった。

ミリアルはそれを見抜いたのだろう。


俺がこれまでの経緯を話すと、ミリアルは恐ろしいことを言い出した。


「なるほど、なのです。…それではリュウさん、次は力をセーブせずに探索を行うのです」


「えっ!?だから、言っただろう?そうすると、イメージの中に引き込まれてしまって、戻ってこられなくなるから…」


「大丈夫なのです。私がそばに付いているのです。適当なところで、私がリュウさんの手を箱から引き離すのです。そうすれば、リュウさんは戻ってこられるのです」


「確かにそうかもしれないが…、かなり不安だな…」


「リュウさんなら、できるのです。そのためのギフトなのです」


ミリアルの目が少し怖い。

なんだか、とても断れそうにない雰囲気だ。

もしかしたらミリアルは、男を尻に敷くタイプか?


「休憩が終わったら、さっそく始めるのです!」


まあ、最悪でも死ぬことはないだろうと、俺は覚悟を決めてイメージの中に入り込むことにしたのだった。

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