肉食と草食
「この街道はかなり古そうだけど、どれくらい昔に造られたものなのかな?」
「言い伝えによると、今から400年ほど前に造られたそうなのです」
「けっこう昔のことなんだな」
「250年ほど前に滅亡したドーサ帝国が帝国内にくまなく街道を整備したと言われているのです。ずいぶん昔に造られたのに、今でも問題なく使えるなんて、すごいことなのです」
「たしかに、そうだな」
俺とミリアルは石畳の街道を徒歩でサンタルナに向かっている。
エンマとカガリを連れて街道を歩くことはできないので、彼らには街道から少し離れたところを歩いてもらい、近づいて来る魔獣を追い払う役目をしてもらっている。
少し離れていても<テレパス>で話すことができるので、特に不自由はない。
時々休憩を取りながら歩き続けると、幅10メートルくらいの小川にかかる橋に行き着いた。
ちょうど昼頃なので食事をかねて岸辺で休憩を取ることにする。
周囲を見渡せば、そこかしこでセラスという木がピンク色の小さな花をたくさん咲かせていて良い眺めだ。
セラスの花は日本の桜に似ていて、この世界でも『春はセラス』と言われるほどの人気の花だ。
また、夏になると、セラスは甘酸っぱい実をたくさんつけて、魔獣や人を喜ばせてくれる。特に旅人にとっては、旅の途中の最高のスイーツだ。
昼ごはんのために収納ギフトから牛肉の串焼きを取り出した。ミリアルのリクエストにこたえてボドルガの屋台で仕入れたものだ。まだホカホカと湯気を上げている。
俺たちは1本ずつ手に取ると、大口を開けてかぶりついた。
「美味しいのです!スパイスのきいたソースが何とも言えないのです!」
「肉もやわらかくて、肉汁がいっぱいあふれ出てくるな。口の中でとろけそうだ」
さすがミリアルおすすめの一品だけある。
『豚足亭』の料理も美味かったが、この串焼き肉もとても美味い。
『エンマたちも食べてみないか?』
離れたところにいるエンマに<テレパス>ですすめてみるが、『いらん』とあっさり断られた。
『ワシら魔獣が食べるのは木の実や果物、木の葉や草などだわ。肉は一切食わんのだわ』
『そうなのか!?それは、初めて知ったな』
『私も知らなかったのです!』
魔獣は人を襲って人肉を食らうというのが教会の教えだ。
そこで『人の肉は食べないのか』とエンマに聞いてみたが、『食うわけがなかろう!』と憤慨された。
教会の教えが間違っているようで、ミリアルはそれを知って呆然としている。
おまけにエンマは『肉を食うと自然が破壊されるのだわ』と、訳の分からないことを言っている。この世界にもエコ活動があるのだろうか?
エンマによると、俺たちから少し離れたところで、木の実と果物を昼食に食べたらしい。本当に草食な奴らだった。
食事が終わったので移動を再開することにする。
「マリアスから預かった箱を開けられたら、魔王の魔道具の情報を探ることができるんだけどな」
歩きながらミリアルにそう語りかけた。
「確かに、それはそうなのです。でも、あの箱には強固な魔法の鍵がかかっているのです。魔法の鍵を開けるためには『合言葉』が必要なのです」
「そうなのか…。『合言葉』を何とかして調べることはできないかな?」
「そのような魔法は存在しないのです。…でも、唯一できるとしたら、リュウさんの謎のギフトなのです。時間を飛び越えて『合言葉』が唱えられる場面まで行くことができれば、わかるかもしれないのです」
「その時の声を聴けばいいんだな。…これまでも、探す対象のイメージを得ようとしたときに、イメージと一緒に音や声が聞こえることがあったんだ。うまく声を聞くことができたら、『合言葉』がわかるということか」
「その通りなのです。リュウさんなら、きっとできるのです」
「頑張るよ」
実は、なかなか不安なところもあるのだが、とりあえず頑張ってみようと思う。
それから4時間ほど移動を続けたら夕暮れ近くになったので、エンマとカガリがいる森の中に移動して野営することにした。
エンマたちと合流すると、夕食の準備を始める。
収納ギフトから小さなテーブルと椅子を2つ取り出し、並べる。
今夜の夕食は『ステーキ・アンド・オニオン・パイ』にした。
これは、細切れにした牛肉とタマネギを炒めてからシチューにしたものを、パイ生地で包んで焼き上げた料理だ。
サクサクのパイを一口かじると、中からドロッとしたアツアツのビーフシチューが飛び出してくる。
「このシチューは素朴な味だけど、牛肉の深い旨みがあって、とても美味いな」
「お店の人によると、固いすね肉をフライパンでしっかり焼いた後、長い時間をかけて煮込むということなのです。そうすると、肉がトロトロになって、旨みもいっぱい出るらしいのです」
「手間暇がかかっているんだな」
「手間がかかった分、こんなに美味しくなるのだと思うのです」
パイを美味しく食べながら横を見ると、エンマたちも食事をしていた。
エンマは木の実と果物、カガリは果物と花のようなものを食べている。草食と一口に言っても、それぞれの好みがあるようだ。
こうして美味しく夕食をいただいた後は、いよいよマリアスから預かった箱を開ける挑戦を開始するのだった。




