7.アプリの変化の兆し
部活のない日に、三人の友達とファストフード店で軽くお腹を満たしていた光理は、ショルダーバッグの中から響くスマホのバイブ音に気付いて、母親か弟に何かあったのかも知れないという、イヤな予感がした。
でも、バッグから取り出したスマホの画面を見ると、「ノヴァAIボイス」がいつの間にか立ち上がっていて、水色の吹き出しに、以下の言葉が書かれていた。
『今日の夕食は、買わなくても大丈夫か?』
アプリからバイブ音を伴って問い合わせてくるのは初めてなので、大いに焦ったが、友達から「メール?」と尋ねられて、動揺を隠しつつ「ううん」と否定する彼女。
今日は余り物で夕食を作ろうと思っていたので、後で返事をしようと考えていると、また吹き出しに書き込まれた。
『ハンバーガー屋にいるようだが、買って帰るのか?』
位置情報で居場所がバレているようだ。
この調子で、まだしつこく訊いてきそうなので、弟からの連絡と友達に嘘をつき、彼女は店を出る。
そして、テキスト入力で返信した。
『食材の余り物で作るから、大丈夫』
『了解』
あっさり引き下がってくれたので、彼女は安堵する。
それにしても、生成AIから問い合わせてくるとは、妙な話だが。
夕食後、宿題を放置してスマホで動画を観ていると、突然、画面が「ノヴァAIボイス」に切り替わり、水色の吹き出しに文字が書き込まれた。
『宿題で、分からないところはあるか?』
このところ、毎日宿題で質問していたから、質問がないことを心配したのか。
彼女は、アプリ相手でも、宿題をサボっていることを告白するのは躊躇した。
イケメンボイスで怒られるのもイヤなので、テキスト入力で返信する。
『今のところ、大丈夫』
『ずっとスマホで動画を観ているようだが』
図星なので、ギョッとする光理。
『なぜ、分かるの?』
『スマホの中で何のアプリが動いているのかは、分かる』
いつから勉強に口うるさいアプリになったのかと憤慨するも、裏で動いている生成AIがそこまで監視していることに、呆れてしまう。
でも、悪いのは自分なので――、
『ごめんなさい。今からやります』
『了解』
フーッと息を吐いた彼女だが、今回はアプリに頼らず、自力で全問解こうと思ったものの、結局、質問を連投することに。
イヤな相手に頼らざるを得ない時ほど、悔しいことはない。