13.介護用アンドロイドの正体
翌日、アプリの方から『介護用アンドロイドの30日間無料体験があるから、お母さんの介護にどうか?』と提案があった。
無料期間を過ぎたら、1回に付き5000円らしいが、世間の相場から言えば、破格の安値だ。
母親と相談したい光理だが、自分が介護をやめたがっていると思われるのも怖いので、しばらく躊躇していると、和室から呼び鈴が鳴った。
涼しげな音なのだが、いつもドキッとする。
「お母さん、何?」
「お前、部活に勉強に忙しいだろうから、介護ロボットのサービスがあるだろう? それを使ってはどうだい?」
ロボットと言っているが、アンドロイドのことだ。
「でも、お金が――」
「お金くらい、あるよ。また株が上がったからね」
嬉しそうに微笑む母親を見て安堵した光理は、1回に付き5000円の介護サービスがあって、30日間無料体験が出来る話を伝える。
「それは安いわね。試しにお願いしてみようかしら?」
母親は、自分がお願いすると言って、介護サービス会社へ電話をかけた。
その翌日、作業員に連れられた、30代イケメン風のアンドロイドがやって来た。
背丈は180センチ越え。爽やかショートの髪型に、灰色のジャケット、白のTシャツ、黒のテーパードパンツは、とてもお洒落。
介護をする人というより、ファッション雑誌のモデルでもやっていそうな感じだ。
しかも、人と遜色ない滑らかな動きは、驚き。
陶器のようなツルツルした肌でなければ、人間かと思ってしまう。
玄関先で光理がイケメン登場にドキドキしていると、作業員が「最新の生成AIが搭載されているんですよ」と自慢げに言う。
生成AI――。
イケメンにのぼせていた光理は、アプリが占った今日の運勢は「絶好調」だったにも関わらず、イヤな予感がした。
すると、アンドロイドが、光理の目の前まで迫ってきて、微笑んだ。
いくら初対面でも、近すぎる。
女子校では起こりえないシチュエーションに彼女が狼狽えていると、
「やあ、光理。側に来たよ」
――その声は、あのアプリから聞こえてくるイケメンボイスだった。