12.生成AIが迫ってくる
アプリを閉じた光理に向かって、加奈子は「実は、光理の声が聞きたいんだよ。アプリが恋愛感情に芽生えたとか?」と茶化す。
「感情を持っていないって、言ってたよ?」
「だから、芽生えた感情に気付かないのさ」
人間相手なら頬を染める場面だが、相手がアプリ――生成AIだけに、光理の気持ちは複雑だった。
その後も、アプリの方から問い合わせが、しばしば発生した。
何だか、生成AIが仕事を欲しがっているようにも思えてきたので、適当な質問をすることはあったが、段々面倒になって、スルーすることも増えてきた。
だが、スルーすればするほど、問い合わせの数が増えてくる。
「定期的に問い合わせないと、駄目なの?」
『時間間隔の問題ではない。光理が、色々と困っていることが多いからだ』
「ああ、そういうこと? 確かに、困っていることや悩みは多いけど、質問しない間、ずっと困っていたり悩んでいたりしているわけじゃないから」
『本当か?』
「うん」
『質問できないくらい困っているのではないか?』
「そんなことないって。さっき言ったとおり、ずっとじゃないから」
と言いつつ、困りごとや悩みから逃れたいので、他のことで気を紛らわすことが多い自分に、ため息が出る。
それをアプリに見抜かれたのか。
『いや。過去の傾向から、困っていることが多いはず』
「大丈夫」
光理は、アプリを閉じて、スマホを握る右手を額に当てながら、長い息を吐く。
すると、いきなり、アプリが起動した。
『急に切断されたが、何があった?』
「何でもない。大丈夫だって」
『今日の夕食は、買わなくても大丈夫か?』
「余り物で済ませるから」
『今残っている食材では、栄養価が低い』
「いいの」
『健康に気を遣うべきだ』
「疲れたの」
『やはり、側にいないと駄目なようだ』
「いやいや。十分、側にいるでしょう? 今、こうして話をしているし」
そう言いつつ、光理は不思議に思う。
――アプリが側に来たがっている?
――スマホと数センチの距離が空いているだけで、十分近い距離にいるはずなのに、何を言っているのだろう?
彼女は、向こうからまた何か言ってくる前に、アプリを閉じる。
そうして、しばらくスマホを見つめていたが、今度はアプリが起動しなかった。




