443. ミイナと教授の新しい家
443. ミイナと教授の新しい家
次元転送機の光が収束し、リョウは静かなミレバ西地区の外れに立っていた。
ここは――フェアリータウン建設が始まる“1年半と42日前”の世界。
まだ何もない砂地が広がり、遠くにミレバ西駅の屋根が見えるだけだ。
「……戻ってきたな」
砂を踏みしめながら呟くと、背後でミイナとミリエル教授が目を細めた。
二人にとっては、未来のミレバを見た直後の“過去”である。
「ここが……フェアリータウンになる場所なのね」
ミイナは胸に手を当て、懐かしむように、しかし未来を思い描くように微笑んだ。
「ええ。ここから全部が始まるんです」
リョウは頷き、二人に向き直る。
「町が完成するまで、住む場所が必要だろう?
この近くに、仮じゃなくて“ちゃんとした家”を建てようと思う」
ミリエル教授が目を丸くした。
「えっ、仮住まいじゃなくて……本当に家を?」
「もちろん。ミレバ市民になるんだし、ちゃんとした家が必要だろう?」
ミイナはぱっと顔を輝かせた。
「それなら……私、お願いがあるの。
妖精が暮らせる家、私も一緒に作りたいの。
だって、妖精の町を作るのは私が一番詳しいでしょう?」
リョウは笑った。
「そう言うと思ったよ。じゃあ、ミイナの意見を全部取り入れよう」
教授も手を挙げる。
「私も手伝わせて。研究者として、こういう建築プロセスは興味深いわ」
「了解。じゃあ、ジュンに頼もう」
ミレバ市市庁舎の会議室に行くと、ジュンはすでに待っていた。
半生体アンドロイドのミミルも横に立ち、タブレットを抱えている。
「リョウさん、お帰りなさい。
ミイナさんと教授の家、建てるんですね?」
「そう。場所はフェアリータウン予定地の近く。
ミイナと教授の要望を聞いて、AIで設計してほしい」
ジュンはにやりと笑った。
「任せてください。建築版フードジェネレーターですぐの作業です。」
ミリエル教授が首を傾げる。
「建築版……フードジェネレーター?」
ミミルが説明した。
「食べ物を生成するフードジェネレーターの“建築物版”です。
家のパーツ、配管、電気設備、家具まで自動生成できます」
教授は目を輝かせた。
「なんて文明なの……!」
ミイナは手を挙げた。
「じゃあ、私の家はね――
木の中に住む妖精の家みたいに、自然と一体化した感じがいいの。
池もほしいし、木の根っこを使った階段とか……」
ジュンは高速でメモを取り、AIに入力する。
教授も続けた。
「私は書斎を大きく。
本を収納する部屋も欲しいわ。
料理は……フードジェネレーターでいいわね。
研究に時間を使いたいから」
ジュンは頷き、AIに命令を送る。
「設計開始。構造計算、耐震、耐風、魔素干渉チェック……
――完了しました」
「早っ!」
リョウも思わず声を上げた。
半日どころか、数十秒で図面が完成していた。
ミミルが図面をホログラムで表示する。
ミイナの家は木造で、周囲の木々と溶け込むようなデザイン。
教授の家は書斎が中心で、研究者のための機能が詰まっている。
「では、建設を開始します」
ジュンが指示を出すと、AI操縦の重機が動き出した。
ミレバ西地区の砂地に、巨大な重機が次々と集まってくる。
ショベルカー、ブルドーザー、土壌改良機――すべてAI操縦だ。
「すごい……全部、自動で動いてるの?」
教授が息を呑む。
「ええ。24時間休みなく働きます」
リョウが答える。
重機は砂地を掘り返し、黒い土壌を敷き詰め、
水を撒き、肥料を混ぜ、あっという間に“森の土”を作り上げていく。
ミイナは胸に手を当て、目を潤ませた。
「……妖精の大陸を思い出すわ。
あの時代の森も、こんなふうに豊かだった……」
リョウはそっとミイナの肩に手を置いた。
「ここに、もう一度作ろう。妖精たちの森を」
ミイナは強く頷いた。
● 1日目
土壌改良と基礎工事が終わり、家のパーツが次々と生成される。
木材は人工ではなく、魔素を含んだ“生きた木材”を使用。
ミイナの家は、木の香りが漂い始めた。
● 2日目
壁、屋根、配管、電気設備が一気に組み上がる。
教授の書斎は巨大な本棚が壁一面に並び、
ミイナの家には小さな池が掘られ、水が湧き出していた。
● 3日目
家具の設置、植生の整備、池の仕上げ。
庭には小さな花が咲き、鳥の声が響き始める。
そして――
「完成しました」
ジュンの声とともに、二つの家が姿を現した。
まずはじめに、ミイナは家の前に立ち、息を呑んだ。
「……森の家だわ」
木々に囲まれた木造の家。
玄関前には小さな池があり、水面に光が揺れている。
家の壁は木の幹のように丸みを帯び、
窓は葉の形をしていた。
中に入ると、木の香りがふわりと広がる。
「すごい……本当に妖精の家みたい」
寝室は小さく、家具も妖精サイズ。
風呂も小さく、まるで木の実の中に湯が張られているようだ。
リョウと教授はかがんで見学する。
「これは……人間には狭いな」
リョウが苦笑する。
ミイナは笑顔で振り返った。
「いいの。これは私の家だから。
妖精の暮らしは、こういうサイズなのよ」
次に教授の家へ向かう。
外観はシンプルな木造だが、中に入ると――
「うわぁ……これは……!」
巨大な書斎が広がっていた。
壁一面の本棚、中央には大きな机。
隣には“書籍専用の収納部屋”まである。
「すごい……私の前の研究室より広いわ!」
キッチンにはフードジェネレーターが設置されている。
「料理は……しないんですか?」
リョウが尋ねると、
教授は胸を張った。
「料理の時間があったら、研究したいのよ!」
ミイナが笑う。
「教授らしいわね」
夕方、二人の家の前でリョウは言った。
「これで、二人ともミレバ市民だ。
明日、市役所で住民登録をしよう」
ミイナは胸に手を当て、深く頷いた。
「ありがとう、リョウ。
ここから……妖精族の未来を作るわ」
教授も微笑む。
「私も、この世界の歴史を研究しながら、
妖精族の町づくりに協力するわ」
夕陽が二つの家を照らし、
木々の影が揺れ、池の水面が金色に染まる。
リョウは静かに思った。
――ここからまた、新しい物語が始まる。




