364. 地球に残してきた妻と息子へ
364. 地球に残してきた妻と息子へ
エバート「本当に色々な民族がいて、地球とは違うのだな。」
トーステンとリョウは、エバート夫妻とゲオルグがこの世界に来た翌日、
急速に発展するミレバの都市を車で巡り、案内していた。
エバート「あの耳の長い種族、体の構造はどうなっておるのか?」
リョウ「エルフ?ですか?」
エバート「?あの毛むくじゃらの者もエルフなのか?」
トーステンは、エバートの指さす方向を見た。
トーステン「ああ、あれはフェネック族だ。」
エバート「フェ、フェネック?狐か?」
トーステン「全身から毛が生えて、耳が長いだけで、我々と同じ言葉を話し、
食べ物も我々と同じものを食べる。」
マリア「この世界では、同じように色々な民族が暮らしているのですね。」
トーステン「そうだ。差別という言葉は一切ない。」
ゲオルグ「隊長殿!この世界では戦争や社会主義、資本主義と言ったものはあるのでしょうか?」
トーステン「社会主義は、この世界ではないな。
しかし、資本主義は徐々に浸透している段階といって良いだろう。
会社制度が根付き始め、自分で事業を起こし、業績を拡大する、
そういった社会になりつつある。」
トーステン達は建設中のミレバターミナル駅を通りかかった。
ゲオルグ「で、では、隊長殿。市民が旅行をする時、当局の許可証はいるのでしょうか?」
トーステン「自由だ。許可証は必要ない。ホテルに泊まるときも、バウチャーは必要ない。」
ゲオルグは、建設ラッシュのミレバの町を見て、外の様子を眺めている。
エバート「わ、私は病院を開こうと思います。もちろん、ブラックドラゴンの研究もさせていただきます。
病院を開くことも自由なのですよね。」
トーステン「そうだ。」
マリア「あ、あの、あの建物にある、大きなテレビ、カラーなのですが。
しかも、あんな大きい物を表示できるなんて。これも魔法なのですか?」
リョウ「あ、あれは巨大な液晶パネルで…、そうか、1960年代はまだないですね。」
マリア「1960年代?私たちの時代ですか?」
リョウ「ああ、そうだ。あれは、2020年代のものだ。」
マリア「2020年代!私が来た時代の60年近く後の物ですね。」
リョウはマリア達がミレバにやってきた後、
次元転送機で、時代や場所を自由に行き来できる乗り物で連れてきたことを、説明してある。
ゲオルグ「隊長!わ、我が国はその後どうなったかご存じなのですか?」
トーステン「ゲオルグの来た時代から30年ほど経過して、ソ連が無くなり、東ドイツも西側と統一された。」
ゲオルグ「隊長…妻と息子、はどうなったのでしょうか?」
トーステン「…。」
ゲオルグ「私は、地球に残してきた妻と息子のその後が知りたい。
私がいなくなって、西側に行った者として誤解され、妻や息子が収容所に収監されていないか…。
ただそれだけが知りたい。」
トーステンは無言になってしまった。
無言がしばらく続いた中、リョウが重い口を開く。
ゲオルグさん、こちらの世界と地球、どちらが良いですか?
ゲオルグ「私はもちろん地球に戻りたいが。」
リョウ「質問を変えましょう。もし、奥様と息子をこちらに連れてくることができれば、連れてきますか?
それとも、地球に戻りますか?」
ゲオルグは、突然の量の質問に、考え込んでしまった。
それからエバート夫妻は、ミレバについて、町を一通り回りながら案内したが、
ゲオルグは無口のままだった。
一通り、町の案内が終わり、先にエバート夫妻のこの世界で割り当てられた、住居まで送り、
その後、ゲオルグを家の前まで送る。
ゲオルグは車を降りると、リョウに声をかけてきた。
ゲオルグ「リョウ殿、妻と息子をこちらの世界に連れてくるかどうか、の答えですが、
…お願いします。
こちらの世界で暮らしたいと思います。
これから将来のある息子には自由に暮らしてもらいたい、が私の思いです。
プロパガンダを気にせず、自由に学び、そして、就職先も自由に決められる、
旅行も自由にでき、いろいろなことを体験することができる。
その様な世界で暮らしてもらいたい、それが親、いや、父としての思いです。」
トーステン「私からもお願いします。」
このゲオルグのお願いをリョウは受けることにした。




