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二話 冒険者と王女

「えっ!? この辺で最強……? いや、睨んだだけで逃げていったんだが……」


 正確には睨んではおらず、ただ必死に見つめていただけなのだが、都合がいい方に捉えておく。


「貴方は、もしかして著名な冒険者の方ですか? もしよろしければ、お名前を教えてください」


 日向は戸惑ってしまった。特に著名な冒険者でもなければ、名前が知れ渡っているわけでもない。


 つい先ほどこの世界に来た、出来立てホヤホヤの転移者なのだから。


「あー、名前? 名前は、城山日向。特に有名な冒険者ではないかな?」


「シロヤマ・ヒナタ……さん? 確かに、聞いたことはないですね……」


 女性は名前を聞いて一瞬戸惑うも、助けてくれたことに変わりはないと考えを改めるのだった。


「まぁ、そんなの関係ないですよ!! 貴方は私を救ってくれた『英雄』なのですから!!」


 日向は偶然が重なって、運良く退けたのだが、彼女にはそれは必然であったかの様に見えていた。


 それだけではなく、何故か位置付けが英雄になっている。


 日向は街娘を一人救った程度で英雄になれるとは思っていない。

 彼女の中でだけの英雄だと、この時は思っているのだった。


「さぁ、英雄様! 王都に帰りましょう? 馬車などはお持ちですか? 徒歩なら、私の馬車でお送りしますよ!!」


 日向は腕を強く引かれ、女性のなすがままにされていた。


 未だ女性の名前を知らないので、名前を呼ぼうにも何と伝えればいいか判断がつかない。


「あの、その前に……名前を聞いても?」


 情けない表情になりながらも、一度尋ねる。

 しかし、女性はひどく驚いた表情をしていた。


「あの、私を知らないのですか? 本当に?」


 何か含みのある言い方だが、知らないものは知らない。

 強く応えることはせず、やんわりと告げた。


「え、えぇ……それほど詳しくは?」


 女性はあり得ないものを見た様な表情をするが、こちらだってありえない表情をしたい。


 街娘の一人を知っていろという方が無理があると思っているからだ。


「あの、ですね? 私はミストガルト王国の第一王女、アリシア・ファン・ガルストなのですよ?」


 一瞬にして空気が変わった。

 目の前の女性は、一国の王女であり、日向は気安くも抱きしめていたのだから。


「す、すみません!! 気安く抱きしめてしまって……あ……もしかして打首ですか……? だから王都に……」


 自分の軽率な行動を後から後悔し、嫌な妄想が現実味を帯びてゆく。


 アリシアは、特にそう言った意味合いで王都に連れて行こうとしたわけではないが、目の前で頭を抱えて震えている日向に、少し罪悪感を覚える。


「いえ、王女である私を救ってくださった方を、何故打首に!? そんなに怯えないでください! 貴方は私の英雄様なのですから」


 深い意味はないと伝えるアリシアだが、要らぬ期待を日向に背負わせてしまう。


 今まで英雄などとは無縁だった日向は、その言葉を聞くたびに背筋を伸ばしてしまう。


「さぁ、ここで手をこまねいていても何も始まりません! 私の馬車で王都に帰りましょう?」


「あ、あぁ……」


 優しくアリシアに手を引かれて、その場を移動する日向。


 深く考えることを放棄し、今は流れに流されているだけだった。



 日向とアリシアは数分ほど歩き、馬車に乗り込んで王都へと向かった。


 一時間と経たないうちに、アリシアの言う王都へと到着するのだった。


「さぁ、着きましたよ? 王都、ミストガーデンに!!」


「お、おう……意外と早かったな」


 気分が上がっている王女と気分が下がっている冒険者。

 この二人の図はどこか歪で、しかしとても面白い状況だった。


「さぁ、あとは王城ですね? 行きましょう、ヒナタ様!!」


「ぉ、おう……なるべく短めにな?」


 二人の関係はこれからどうなるのか、それは誰にもわからないことだ。


 しかし、彼女は願っていた。

 より良い関係を育み、いずれ世界へと到達することを……

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