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ガチャポンは万人に平等でありカプセルは人を選ぶ

「ナグロさん。この中に欲しい物があれば、回してみます?」


 そう提案してみると、ナグロさんは不思議そうに首を傾げた。


「でも、こりゃお前のスキルで出してんだろ? 他人の俺にゃ触れないんじゃ――いや、触れるな……」


 筐体に触れて更に不思議そうにするナグロさん。


 その様子からすると、どうやらスキルとは基本的に本人に影響するものでこういう物体が出るスキルであっても他人には触れられないものらしい。

 俺はスキルって言うより、ガチャポンそのものとして見ているのでそこら辺は気にせず、ナグロさんも一度ぐらいガチャポンやってみる? なんて軽い感覚で聞いたので、スキルは他の人は基本触れられないとか、そっちの方が驚きだった。


「銀貨一枚を対価にすりゃ、俺もこの中のどれかが手に入るのか?」


「えーと、スキルに関しては分からないので、完全に検証に付き合ってもらう形にはなっちゃいますが……多分」


 そう言うと、いそいそと革袋を取り出してその中から銀貨を出すナグロさん。心無しかわくわくしてる感じだ。


「どうすりゃ良い?」


「これですね、ここに銀貨を入れて……そうです。このレバーの出っ張ってる所を持って右回りに一回転させて下さい」


 俺の説明に従ってナグロさんがガチャポンを回す。お金を入れたのは、やっぱりグラスが手に入るドリンクシリーズであった。

 ガチャ、ガチャ、と音を鳴らしながら回るレバー。そうして、ぽこんと落ちたカプセルが転がり出てくる。


「へえ、こんな感じで手に入るんだな……中身はこのレバーを回すまで分からないんだな」


 そう言いながらナグロさんはしげしげとカプセルを見ていた。下半分が赤色、上半分が透明なカプセルの基本的なカラーリングだ。

 下の部分には色んな色があるけど、俺は赤色が基本だと思っている。


「それで、これを地面に(ほう)れば良いのか?」


 なんだかそわそわしている感じのナグロさんに思わず笑いが零れてしまう。やってみたいんだろうなあ、気持ち凄い分かるな。

 逆の立場だったら、絶対に俺もわくわくしちゃうもん。


 ただ、俺はそんなナグロさんに残念なお知らせをしなければならないかも知れない。


「えっとですね、それに関してはどうにも俺の称号の効果で、その小さいアイテムが本物に出来るみたいで……ナグロさんが本物に出来るかどうか分からないんです」


「なんだ、そうなのか? スキルも珍しいが、称号も随分珍しい効果のを持ってんだな」


 ああああ、ちょっとしゅんとしてるナグロさん、普通に返事してるけど明らかにがっかりしてるよ……!


「……やるだけやってみます? ほら、称号の持ち主の俺が近くに居れば、同じ効果が発生するとかあるかも知れませんし……」


「そ、そうだな。リョウも検証って言ってたからな、そういう所も確かめてみないとな」


 おお、嬉しそうだ……いや、分かる。

 試すだけなら勝手にやっても良いんだけど、相手に不発かもって言われると本当に勝手に試して良いのかって思っちゃうんだよな。

 お互いそんなつもりない筈なのに、なんかそういう空気になっちゃうというか。


 それに、称号の『カプセルマスター』は俺も気になっている。説明文は、カプセルに入った道具を顕現出来るようになる、だけだ。

 俺しか出来ないとは書いてなかったんだよね。だから、他の人がやっても現物化出来るのかどうか、この機会に見れるのはありがたいかも。


「ほいっ」


 強面(こわもて)のおじさんがカプセルをそっと掛け声つきで放り投げる姿はなんだか微笑ましい。


 だが、結果は(むな)しかった。


 コッ、コロコロ……と転がるだけのカプセル。


「……駄目みたいだな」


「ですね……」


 お互いになんとも言えない空気を(まと)ってしまった後で、ナグロさんが気を取り直すように言う。


「まあ、俺としちゃ残念だが、これはこれで誰かに悪用される可能性が減ったんじゃないか?」


 それもそうか。


 他人に回す事が出来て、それが誰でも現物化する事が出来てしまうと、誰かに回させたカプセルが渡りに渡って悪人にまで流れ着いて、その悪人がカプセルの中身を現物化したらと思うと、物によっては危ないかも知れない。

 今のラインナップで危なそうなのはサバイバルナイフぐらいだけど、ラインナップは定期的に変わるらしいし、そのうち本当に危ない物が出て来る可能性もあるよね。


 ミニチュアのままならただの玩具だから危なくもないし、現物化出来るのは自分だけというのは助かったのかも。


「あのガラスが欲しいんだが、これを本物にしてもらっても良いか?」


「いいですよ」


 ナグロさんからカプセルを受け取ってぽいすと地面に放り投げると、ドリンクが現物化する。ドリンクシリーズのレパートリーは説明書で全部見たから、あれはアイスコーヒーだな。

 同じ黒色でコーラもあったけど、見たところ炭酸の泡がないからアイスコーヒーのはずだ。


「こりゃ飲んだ事もない味だな」


 早速ストローでちゅーちゅーやってるナグロさん。一度ミルクティーを飲んでいるからか、警戒心はないらしい。


「ナグロさん。それでですね、まだ検証したい事がありまして……」


「おう、なんだ?」


 ストローを親指と人差し指で挟んで持ったまま聞いてくるナグロさんは、なんだか女子力高いポーズな気がした。


「俺はこっちの食べ物のガチャポンも回して、二つほどカプセルに入った食べ物を持ってるんですが……二日ほど経ってるんですよね」


「……なるほど。つまり保存食じゃないから、まだ食べられるかどうかの確認か。胃薬はあったかな……」


「ああ、違いますよっ。食べるのは勿論、俺本人です! ただ、俺が腹痛とかで倒れたら街まで運んでほしいな、と……お願い出来ますか?」


 というか俺って会ったばかりの人に賞味期限切れの食べ物を食べさせるような奴だと思われてるの? それはそれで悲しいよ。

 でも受け入れてくれるとか、ナグロさんはナグロさんで優しすぎると思う。付き合いが良いってレベルじゃないのでは?


「そりゃ街までは一緒に行く予定だったんだから、腹痛になったからって置いて行ったりしねえよ」


「ありがとうございます。じゃあ取り出しますね」


 ウエストポーチからサンドイッチとフライドポテトのカプセルを取り出す。


 食料を確保しておく為なら一個だけ試すべきなんだろうけど、二日以上置いちゃったから怖いし一気に食べちゃおうって魂胆だ。

 昨日だってナグロさんにご飯を分けてもらったから、今日はこれで済ませられたらって考えもある。


 ぽぽい、とカプセルを投げてサクッと現物化。


 ご丁寧にお皿に乘ってるサンドイッチとフライドポテトを、皿ごと受け取ると宙に浮く力は消えて手に重みを感じる。


「おい、本当に二日も置いたのか? 湯気が出てるんだが」


「ですね。ホカホカです……」


 サンドイッチは温かいわけじゃないが、フライドポテトはまだ作りたてのように湯気が立っていた。


「じゃあ、目の前ですみませんけど、食べさせてもらいますね」


「おっと、じゃあ俺も自分の飯を用意するさ」


 そう言ってガチャポンから離れて、弱まっていた簡易竈に再度燃料を投下して火を強めるナグロさん。


 俺はそれを見ながら、サンドイッチとフライドポテトでご飯にするのだった。


 うん、普通に美味しい。変色しているわけでもないし、変な味がする事もない。

 あとは暫くしてお腹に異変がないかだな。これでお腹を壊さないようであれば、カプセルに入っている間の食べ物は時間が止まっている事になる。


 そうなると、カプセルボックスってスキルに時間停止機能が付いている事が疑問なんだが……そのうち必要な場面でも出て来るのかね?

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