謝罪と復活のガチャポン
野営地に到着して、自分達の陣地? の準備を終えて、ナグロさんがてきぱきと設置してくれた簡易竈で火を起こしている。
「ナグロさん、ご飯にする前に俺のスキルを見てくれませんか?」
「ん? ……ああ」
そう言った俺に対して、ナグロさんは一度後ろを振り向いてから俺に向き直ってから頷いてくれた。
俺のスキルを見せると言う話だったので、野営地に着いてから俺達は野営地の隅っこの森に面した所に陣取っていて、他の人から目隠しになる位置に馬車を停めている。
馬車と森の間に俺達が居る形で横からは見えるけど、他の人に見られたくない人が野営地でこういう風に位置取る事は珍しくない事らしいので怪しまれたりはしないし、横からわざわざ覗こうとするのもマナー違反という事でやる人もいない。
「えっとですね、俺のガチャポンってスキルは……こういう物を手に入れられるスキルなんですけど」
ウエストポーチから出したカプセルをナグロさんに見せる。
「ボールか?」
「ああ、これは中身が入ってましてね。ほら、こうやって……」
カプセルをきゅっと絞るようにして二つに開いて、中に入っていたミルクティーのミニチュアをナグロさんに持たせる。
「なんだ、こりゃ?」
矯めつ眇めつしながら小さなミルクティーを眺めるナグロさん。ひっくり返したりしているが、中身のミルクティーが零れる事はない。
現物化しない限りは液体の状態ではないって事なのかな?
「それを、このカプセルの中に戻してもらえます?」
「おう」
素直に半分になったカプセルの底にミルクティーのミニチュアを入れてくれたのでそれを確かめて蓋をすると、座っている俺達の真ん中あたりにカプセルをぽいっと投げ捨てる。
すると、ぽわんと煙が出てそれが晴れると宙に現物化したミルクティーが浮いていた。
「な、なんだこりゃ……!?」
「どうぞ、それを手に取ってみて下さい」
恐る恐るとミルクティーを手に取ったナグロさんが、現物を手にした時点で更に驚いたような顔をする。
「飲み物なんですけど……怪しいですよね。あれだったら俺が先に毒見役をしますけど」
「い、いや、驚いただけだ。リョウが毒を盛るような奴だとは思ってねえよ」
言うが早いか、ストローを口に咥えてミルクティーを飲むナグロさん。ストローの使い方は分かるんだな……ああ、いや、ストローなんて昔からあるような発明だし、この世界にもあるか。
「……どうです?」
「こりゃ美味いな! しかも冷えてやがる」
そう、何故かカプセルから現物化した飲み物は冷えているのだ。森から出た時の麦茶は美味かった。
「ていうか、このコップって……」
「そうです。ナグロさんにお売りしたコップです……」
「あー……なんだか色々と不思議なスキルだが、なんだってそんな申し訳なさそうなんだ? スキルで出た物とは言え、自分で使わなくなった物を売るなら別に悪い事でもないだろ。見たところ、勝手に消えちまうってわけでもなさそうだしな」
「えーとですね……それを説明するには、このカプセルを手に入れる為のスキルを発動しないといけないんですけど……どうやって出せば良いのか」
俺の言葉を聞いて顎に手を当てると少し考えるように黙ってから、改めて口を開くナグロさん。
「こういう物が手に入るって事は、サポート系……それも希少なスキルだよな。いや、ともかくスキルの発動のさせ方だな。基本的にスキルってのは本人の意思で発動するもんだから、使おうと意識してスキル名を思い浮かべれば良い。それで駄目なら、ステータス画面の文字を触ると発動するスキルを持った奴も居るって聞いた事があるな」
「なるほど。やってみます」
意識して……ガチャポン、森に存在してた時みたいに出てきてー。
「…………」
出ないのでステータス画面を開いて文字を押してみる。なんの感触もないんで、押した気がしないんだけど……え、押せてるの、これ? なんなら半透明なウィンドウだから指がウィンドウを突き抜けるんだけど。
だが、ちゃんと押せてたらしく、俺の目の前に二段三列合計六個の筐体が現われた。
「うお、なんだこりゃ! っと、やべ……」
驚きのあまりに大声を上げたナグロさんが慌てて自分の口を押えて、きょろきょろと辺りを見渡してから誰も居ない事を確認すると安心したように息を吐いて俺に謝ってくる。
「悪い……」
「いえ、自分も先に何が起こるか言っておくべきでした……」
俺達の間に現れたので、ナグロさんの方まで回り込んでから二人で筐体を見た。
「これが俺のスキルで、このレバーのところにお金を入れるとここに描かれている内容のアイテムのどれかが手に入るんです」
写真とかPOP広告と言っても伝わらないと思ったので、ここに載ってるのは精巧な絵だという事にしておく。
「へえ……さっきの飲み物や俺が買ったガラスは、これか」
目が爛々としているように見えるのは、ナグロさんの商人根性に火が付いたからだろうか? あのグラスの事を考えれば、お金になるのは確実なスキルだろうからな……だって価値が高くなった銀貨一枚で回したとしても、あのグラスは売る所に売れば金貨で売れるって話なんだから。
「それより、スキルなのに金が必要なのか?」
「ええ、一回に銀貨一枚が対価として必要なようで……割高ですよね」
「馬鹿言うなって。あのガラスは十分に高級品と呼べるものだぞ。それが銀貨一枚なら破格だろうさ」
思わず割高だと言ってしまった俺を窘めるように言うナグロさん。
確かに今のは失言だったかも。その銀貨一枚よりも安い三百円で買ったグラスを俺は大銀貨三枚で売ってしまったんだから。
そもそも、それを謝る為にスキルを発動させたんだった。三百円の事は流石に違う世界の通貨だから言っても分からないだろうから伝えないけど。
「えっと、それでですね。俺は銀貨一枚の価値の物を、ナグロさんに大銀貨三枚で売ってしまって、それを謝らせてもらいたいと思いまして……悪気があったわけではなかったんですが、本当にすみませんでした」
そう言って頭を下げ、少ししても返事がないので恐る恐る頭を上げたら、ナグロさんは何故だか優しい感じで苦笑していた。
「リョウ、お前は考えすぎで甘い奴だな。普通、こんな便利なスキルがあったら誰かに教えたりはしないだろうし、そういった利益は独占するのもまた普通の事だ。それに、お前は自分が安く仕入れた物を俺に高く売った。やってる事は行商人の俺と何も変わらんだろ」
「そう言って頂けるとありがたいです……ただ、優しくして下さる方に黙ったままなのは、なんだかもやもやしたので」
ナグロさんは、俺の言葉に声を上げて笑いながら気にしすぎだと肩をばんばんと叩いてくれた。それは痛かったけど悪い気はしない類のものだったので、俺も随分と気が楽になった。