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ガチャポンの副産物が金貨2枚ですってよ、奥さん

 街道と思わしき――もう街道で良いや。だって馬車通ってたもん。その街道を歩いて行くと、途中土が剥き出しの道が広くなっている、広場? みたいな所に辿り着いた。


 馬車が何台か離れ離れに停まっていて、石で組んだ……(かまど)? かな? で小さな鍋を火に掛けている人達とか、荷物を運んだりしている人達とかが居る。


 ていうか! あっちの人! 革鎧を着て帯剣してる!! すんごく異世界!!


 もう夕暮れになってきたし、ここは旅人が休憩するスポットみたいな感じなら、俺も今日はここで一夜を明かそうかな? 他の人も居るから、何かあっても安心出来そうだし……。

 森の中では一人で思考を切り替えて寝たけど、やっぱり怖い事には怖かったわけで、周りに人が居る状況で寝れるっていうのはありがたいかも。


 どこか自分が寝れるスペースは無いかなときょろきょろしていると、さっき道の真ん中を歩いてると危ないぞって注意してくれた馬車の人が居た。


「さっきはどうもー」


「おお、アンタも今日中に無事、野営地に来られたみたいだな」


 すすっと俺が話し掛けに行くと馬車の人も気さくに返事をしてくれる。


 俺は学校ではぼっちだったが、前に話した通り家庭の事情で友達を作らなかっただけなので、社交的じゃないって事もない。

 俺は知らない人にもちゃんと話しかけられるぼっちなのだ。


「ちょっと話を聞きたいんですけど、良いですか?」


「ん、どうした? どうせ後は野営するだけだし、話し相手にぐらいなっても良いが」


 なんか普通に良いおじさんだ。


「えっと、気付いたら森の中にいて、絶賛迷子中なんですよ。だからここが何処なのかとか、この先にどんな街があるのかとか教えて欲しいんですが……」


 そのまんま聞いてみる。


 なんか異世界転移ものとかで自分の出自をやたら隠す主人公って多いけど、俺は別に隠すつもりは全くなかったりする。

 異世界から来ましたーとか、流石にそこまでハッキリと伝えれば確かに頭がおかしいと思われるかも知れないけど、俺が実際にこうやって地球から異世界らしき所に転移してきてるんだから、この世界は不思議な事でありふれてるかも知れないんだから、別にある程度話したって害はないだろう。


 物語の主人公は卑屈(ひくつ)になりすぎね。


 別に異世界から来たってバレたとしても、精々見世物か奴隷になるぐらいだろう。それだって悪い奴に捕まらなけりゃ悪用されないんだから、良い人には種明かししたってどうって事ないでしょうに。


「あん? そりゃお前さん、転移事故にでも巻き込まれたのかもな」


 ほらなー! なんか、俺に似たような事故に遭う人が他にも居そうな世界だったじゃんー!


「その転移事故って言うのは?」


 でも、その事件そのものが分からないので素直に聞いてみる。俺は良い人そうな相手にはガンガン行くぜ。


「おう。魔術師なんかにゃ、遠い距離を一足飛びに移動できる転移の魔術が使える高位の魔術師ってのが居てな。そいつ等が魔術に失敗する事もあって、それに全く無関係の近くに居るわけでもない奴が巻き込まれて転移しちまう事があるのよ」


「へえー……はた迷惑ですね……!」


 マジで迷惑だぞ、それ。


 ていうか魔術あるのね、この世界。この時点で確実に異世界確定。魔法だよ、魔法。魔術と魔法の違いは知らんけど、地球出身の俺からすれば魔術も魔法も言い方の違いとしか思ってないので、魔法って事で良いじゃん。


「本当になあ。兄ちゃんからすりゃ、そのはた迷惑さを実感した所だろうさ。気の毒にな」


 そう言って心配してくれる馬車の人改め良い人なおじ様。


「それで、現在場所については、何処なんでしょう?」


「おう。ここはヴォルモ王国の西方だな。ちっと待ってろ」


 俺を待機させると、停めてあった馬車の方に行ってから大きめの紙を持って戻って来るおじ様。ん? あれって紙じゃなくて、もしかして伝説の羊皮紙ってやつでは……?


 アイテム一つでテンションが上がってきた俺。仕方がない。だってガチャポンのアイテム一つでテンションが上がる男なんだもの。


「地図で説明してやっからな。ほれ、ここがヴォルモ王国で、今俺達が居るのがこの辺だ。東に行くとディデクト帝国、このまま西に突っ切るとネント森林国だな。南北は海に面してるから、ここは大陸の東と西を繋ぐ細道みたいな部分だな」


「ふんふん。ご丁寧にありがとうございます」


「んで、俺がこれから向かおうとしてる街が、テルサってぇ街だ。ネント森林国と隣接してるギレイド辺境領の領都だな。俺はネント森林国に交易に行くところさ」


「商人さんなんです?」


「おうよ。ま、ガタイや顔のせいか、商人よりも山賊に見えるって言われる事もあるがな」


 ガハハと笑いながら言うおじ様は、確かに見た目は厳つい。筋肉モリモリだし、乱雑な肩までの黒髪に豊富な黒(ひげ)

 うん……見た目だけなら黒ひげ盗賊団とか言われても納得しちゃいそう。


 地球じゃこんなもっさり髭を生やした商人なんて、絶対に商売なんてさせてもらえないよなあ。


「あ! じゃあ商人さんなら、一つ見てもらいたい物が!」


「おう? なんぞ珍しい物でも持ってんのかい?」


 話が早い。早速あの麦茶を飲み終わった後のグラスを見せてみよう。


 それが売れるか売れないか、はたまた地球産っぽい物を売って良いものかどうか、そういう事をウダウダ考えるのはハッキリ言って無駄だと思ってる。

 まずは実際に見せてみりゃ良いのよ。俺が悩むよりプロの商人に判断してもらった方が早いんだから。


「これなんですけど、買ってもらえたりしますかね? 突然知らない場所に飛ばされたんで、お金も持ってないんですよ」


 本当はお金は持ってるけど、異世界と確定したので絶対に使えないだろうし、三千円……。


「ん? おー、こりゃ見事に透明なガラスだな……これなら相応しいとこに持ってきゃかなりの金額になるぞ。しがない行商人の俺なんかじゃ出せる金額も限られてるしな……」


 お、手応えある感じだ。


「因みに、おじさんが値段を付けるならどれぐらいになります?」


「あん? ああ……そういや名乗ってなかったな。俺はナグロだ、兄ちゃんは?」


 確かに取引をするのにお互い名前も知らないってのは、なんかアレだな。えーと、ここは、英名みたいに名乗った方が良いのかな? あ、でも、こういう帯剣してるような人がいるファンタジーな世界だと貴族とか居るんだろうし、苗字は避けるか。


「リョウです」


「そうか、リョウ。えーと、値段だな……んー、この場じゃ詳しい鑑定は出来ないが、俺も商人の端くれだ。ある程度の目利きはある。で、俺の目利きだと……ふむ、金貨2枚ってとこか。これだけ透明度が高いなら貴族にも売れるだろうしな」


 あ、やっぱり居たよ、貴族。そんでもって金貨ときたか。ファンタジーお馴染みの通貨じゃないの。


 どれぐらいの価値があるかは分からないので、ここも素直に聞いておく。


 別に通貨の価値も分からないなんて、どれだけ馬鹿な奴だって思われても一時の恥だし。それに、先に金額を提示してくれたから、今更足元を見るって事も出来ないだろう。

 ちなみに、最初から足元を見られてた場合は仕方ないと諦める方針である。


「元居た場所と通貨が違うみたいで、金貨とやらの価値が分からなくて……どれぐらいになるんです?」


「おいおい、そんな遠くから飛ばされて来たのかよ。仕方ねえなあ……」


 そう言うと、俺の前に通貨を並べてくれた。


「金貨もあるからな、あんま大きな声出すなよ?」


 置き引きとかの心配だろうか、そう忠告してくれてから通貨を一枚ずつ指差して教えてくれるナグロさん。


「まあ、見たまんまなんだけどよ。銅貨が一枚でパンが一個買えるぐらいだ。その銅貨が十枚で大銅貨、大銅貨が十枚で銀貨、銀貨十枚で大銀貨一枚、大銀貨十枚で金貨一枚、金貨十枚で大金貨一枚、ここには無いが大金貨が十枚で白金貨一枚だ」


「なるほど」


 頷きながら確認。


 この世界のパンが地球でどれぐらいの価値なのかは実際に色々な条件があって違うだろうけど、パンが一個百円だとすると、銅貨は一枚で百円だ。


 銅貨が百円、大銅貨が千円、銀貨が一万円、大銀貨が十万円、金貨が百万円、大金貨が一千万円、白金貨が一億円。


 よし、覚えた!


 つまり、ナグロさんはあのガラスのコップを二百万円の価値だと言った事になる!


 透明ガラス、どんだけ貴重なの!!


「えーと……今は生活できるだけのお金が緊急で欲しいので、大銀貨一枚でも十分なんですが……」


 値段を下げて言ってみる。


 今はどっちかと言えば即金が欲しいので、売値は最大で売ろうとも思わない。そもそも元手が三百円なので、大銀貨一枚でもぼったくりも良い所だけど……許せ、金が無くば生きてはゆけぬのだ。


「そりゃ流石に値引きすぎだ。リョウは人が良すぎるな、そんなんじゃ街に着いたら直ぐに騙されちまうぞ?」


 やっぱり良い人だなあ、ナグロさん。


「でも、そうだな……リョウは直ぐに金が欲しいよな?」


「ええ、無一文なんで……」


「んー……よっし、じゃあ大銀貨3枚で買い取ってやる。安くなった分は、現物や街まで馬車に乗せてってやって、ついでに色々と質問があれば答えてやるって事で、どうだ?」


「良いです! それで良いです!」


 やった! これで乗ってみたいと思ってた馬車にも乗れるし、自分で歩かずに迷う事もなく街まで連れてってもらえる上に、他にも色々と聞く事が出来る! 最高の取引じゃないか!?


 俺は喜びを前面に出すように笑顔で頭を下げた。


「よろしくお願いします!」


 優しいおじ様ゲットだぜ!

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