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思ったより暖かい冒険者ギルド

「うーん……」


 俺はナグロさんに照り焼きと味噌汁を作ってあげて、醤油と味噌を渡した後に宿に取った自分の部屋に一人になってからガチャポンの筐体を目の前に出して悩んでいた。


「……やっぱり、回しとくべきか?」


 悩んでいるのは、まだ中身のある軽食シリーズと冒険家シリーズのうち、軽食シリーズだ。


 この世界の味付けは基本的に薄味だってナグロさんから聞いて、恐らく地球産でありあっちの世界の濃い味付けである軽食シリーズ、これを回しておくべきかどうかを悩んでいる。

 濃い味付けの食事が中々ないのであればこれは貴重な料理って事になるんだろうし、一食一万円の割高なものであっても回してカプセルボックスに保存しておいた方が良いんじゃないだろうか?


 中身はホットドッグ、サンドイッチ、ハンバーガー、フライドチキン、フライドポテト、チキンナゲット。見事にジャンクフードだなあ……どれも好きだけど。


 一種類十個の中身だとすると、六種類のうちサンドイッチとフライドポテトは一個ずつ出したから、中身は残り五十八個のはず。


 そして今の俺の所持金は大銀貨三枚と銀貨四十九枚に銅貨が一枚……大銀貨を一枚両替してしまえば全部は回せるんだよね。どうしようか。


 ……うん。良し。どうせなら目標があった方が良いし、明日から冒険者ギルドに行って残りの銀貨は両替じゃなくて自分で稼いでみよう。

 今四十九枚の銀貨があるから、あと銀貨九枚! 最初の目標にしては中々良いんじゃないだろうか?


 九万円って言うと、日本だったら十日以上働かないと無理だけど……冒険者稼業がどれだけ稼げるかの基準も学べそうだし。


 ただ、ガチャポンのラインナップがいつ変わっちゃうか分からないから、下手すれば回す前に違うラインナップになる可能性もあるけど……その方が早くしなきゃって意識でサボらずに仕事出来そうだもんな。


「そうと決まったら今日は寝よう!」


 ナグロさんにも商品は受け取ったから、また出発する時にでも挨拶するから俺は俺で自由に過ごせば良いって言ってもらったし、明日は朝から冒険者ギルドに行って、思ってたよりも優しかった先輩冒険者達に色々とどんな依頼を受けたら良いのかとかどんな準備をすれば良いのかとか聞いてみることにしよう。


 そうして翌日。


 朝ごはん付きの宿なので、朝ごはんを食べてから冒険者ギルドに向かう。


「よう、兄ちゃん。早速、今日から依頼受けんのか?」


 そんな風に昨日の登録の時に居た冒険者の人達が何人も気軽に声を掛けてくれる。


「よう。ちょっと遅かったな、リョウ」


 そう言いながら声を掛けて、こちらに歩み寄ってきたのはカッシュさんだ。右手に、恐らく掲示板から剥がしたと思われる紙を何枚か持っていた。


「普通に起きたつもりだったんですが……遅いですかね?」


「まあ、手に職つけてない冒険者なら依頼はいつでも受けられるんだが、割の良い依頼ばっかりは早い者勝ちだからなあ」


 そう言って掲示板の方を見やるカッシュさんに釣られてそっちを見ると、掲示板の前では登録した時よりも多くの冒険者が居るけど、別に急いでいる様子は見えない。


「あまり早い者勝ちな感じに見えませんけど……」


「そりゃあ、もう取られちまった後だからな。ま、結局は冒険者も日の出と共に動き出した方が良いってこった」


 なるほど。


 確かに夜でも明かりが使い放題な地球とは違って、ロウソクとか油とか有限なもので明かりを確保するんだから、日が出ているうちに仕事して日が沈むと共に仕事を終えるって世界なんだろうな、多分。

 冒険者はギルドに来ればいつでも依頼は受けられるけど、カッシュさんが言う割の良い依頼って言うのは早起きした冒険者が先に取ってっちゃうから、結局は冒険者も早起きした方が良いって事か。


「勉強になります」


「おう、良いね。そういう学ぼうとする姿勢は大事だぞ。ベテランだって、どうせ教えるなら素直な奴に教えたいもんだ。最近の新人ってのは、やたら生意気なのが多いからなあ……」


 冒険者って地球の物語での印象が強いから、力こそ全てみたいなイメージが強かったけど、なるほど言われてみれば確かにその通りだと思った。

 冒険者だろうが何だろうが、人と人なんだからどうせなら素直な奴と付き合いたいよな。


「ま、リョウは初めての依頼だしな。まだ残ってる依頼でも大丈夫だろ。ランクに合った依頼ならまだ残ってるはずだ」


「ランクが低い依頼を片っ端からやっちゃうような人は居ないんですか?」


「俺らもこれで食ってるわけだからな。ランクが上がれば、下のランクの奴の食い扶持を取って困らせる奴もそんなに居ないさ」


「そんなにって事は、居るには居るんですね……」


「あー、まあな……下のランクの依頼は下の奴に残しといてやるってのは、あくまでも暗黙の了解みてえなもんだしな……」


 そう言って苦い顔をするカッシュさんは、なるべく新人も稼げる方が良いと思ってくれてるんだろう。やっぱり面倒見が良い人だな。


「それより、初めての依頼だろ? なんだったら俺のパーティーと一緒に行ってみるか?」


「でも……」


 言い淀んでカッシュさんが持ってる依頼表に視線をやると、カッシュさんもそれに気付いて笑った。


「はは、気にするな。これは俺たちの依頼ってよりは、新人のお前が取りっぱぐれないように念のために取っておいた低ランク依頼ばっかだよ」


 訂正(ていせい)しよう。


 カッシュさん――これは面倒見、良すぎ。

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