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通のお店

 冒険者ギルドでまさかの優しい冒険者さん達に囲まれてからの帰り。


「おう、調味料ならこの店だ。あと、こっちの通りを真っ直ぐ行けば、お前の泊まるって言う跳ね馬亭があるが、その途中に野菜を売ってる店もあるからな」


 カッシュさんが付いて来てた。


 そんな歳で冒険者登録なんて、なんか事情があるんだろ? なんて聞かれたもので、素直に転移事故に巻き込まれたと答えたところ、街の案内もしてやるよと言われて一緒に居る次第だ。


 さて、料理酒はあるみたいだから……みりんもあれば良いんだけど、あれは流石に地球ぐらいの文明じゃないと無いかな?

 何か使えそうな調味料は買っても良いんだけど、カプセルに入ったままのアイテムはスキルのカプセルボックスに入れておけるけど、普通のアイテムは入れられないからな……なんでアイテムボックスじゃないんだ、マジで。


 そういうわけで時間停止とか無理なので賞味期限が気になるから、素直に料理酒だけ買って行こうっと。


「リョウは明日にはもう依頼を受けるつもりなのか?」


 料理酒を買い終わるのを見計(みはか)らってカッシュさんが聞いてきた。


「えっと、どうでしょう……知り合いの商人さんにここまで連れて来てもらって、その商人さんがネント森林国に出発するまでは、その商人さんと行動することもあるかも知れないので、まだ分からないんですよね」


「とは言え、転移事故に巻き込まれて無一文の状態だったって話だろ? 金は大丈夫か?」


「それは、その知り合いの商人さんが持ち物を買ってくれたので……暫くはなんとかなります」


「そうか、それなら良いんだが。依頼を受ける時になったら、ギルドで俺を見掛けたら声かけてくれよ。何かしら助けになれるかも知れん」


「はい、ありがとうございます」


「もちろん、俺以外にも今日居た奴等なら力になってくれるからな」


 なんか、俺が思ってた冒険者像と全然違うなあ……荒くれ者の集まりで力こそ全て、舐められないように新人はこぞって脅す、みたいな感じとはかけ離れてる。

 なんだか普通に優しいんだけど。


 いや、ありがたいんだけどね。


 そうこうして歩いていると、店先に野菜を並べている建物を見つけた。


 そっちに行こうとしたんだけど、カッシュさんに首根っこを捕まえられて止められてしまう。


「ぐえっ。何するんですか、カッシュさん」


「ああ、悪い悪い。そっちじゃない、こっちだこっち」


 カッシュさんに言われるまま歩いて行くと、一つの屋台。


「よう、おっちゃん」


「……おう」


 屋台の横に置かれた木箱に座って、ナイフで野菜をささがきに削って水を張った桶に浸していた屋台主のおじさんがカッシュさんをちらっと見て、興味なさそうに視線を戻しながらぶっきらぼうな挨拶をした。


「店主の愛想(あいそ)は悪いが、ここの野菜は美味いんだぜ?」


「……ほっとけ」


 そう言ってカッシュさんが手招きするので屋台の方を覗いてみると、串焼き屋であれば肉を焼いたりするような場所が水の入った容器になっており、そこに色んな野菜が水に()けられて冷やされている。


「今日の料理に使う野菜ってな、どれが良いんだ?」


「うーん、そうですね……」


 見た目はちょっと違うけど、これは地球の野菜と似た感じで良いのかな? 例えばトマトっぽいやつは、形は同じだけど色が紫色だ。


 えっと、みそ汁に使いたいから大根とかが良いかな? この黒色のやつが形だけは大根なんだけど、色が真逆なんだよなあ……。


「これは何です?」


「ディッコンだな」


 うん、名前も大根っぽいぞ。


 じゃあ、この長ネギに見えるけど赤色のやつは……?


「それはネニンギだ」


 多分ネギっぽい名前だと個人的に思うので、このディッコンとネニンギを買って行こう。


「じゃあ、これとこれ下さい」


「じゃあ、おっちゃん、俺もこのキューディーを二つくれ。この場で食うんで、塩もな」


 キューディーってのはキュウリだな。細長くてデコボコしてて……白い。驚きの白さだ。


「…………」


 のっそりと立ち上がった店主のおじさんが、ディッコンとネニンギを水から揚げて軽く振るって水を切ると紙袋に入れてくれる。軽くしか水を切ってないから紙が水を吸って普通に冷たい……。


「……銅貨三枚でいい」


「あ、は、はい」


 ぶっきらぼうに言われると怒ってるのかと思っちゃって、ちょっと萎縮してしまう。


 さっき料理酒を買った所で銀貨からお釣りをもらえたので、そこから銅貨を三枚支払う。すると次に店主のおじさんはカッシュさんの方を見る。


「……塩も合わせて、銅貨5枚もらうぞ」


「あいよ。ほれ、リョウ。食べてみな、ここのは本当に美味いからよ」


 支払ってから自分の手でキューディーを二つ取り出すと、カッシュさんは一つを俺の方に渡してくれた。美味いから、と言いながら店主さんが出してきた小皿に盛られた塩にキューディーを付けてぱきりと食べた。


 俺も真似をして食べてみる。


 白いキュウリとかちょっと恐る恐るだったけど……おお、美味しい! 新鮮だし、噛み応えがある!


 地球じゃ塩だけで野菜とか食べた事なかったけど、美味しい野菜って塩だけで引き立つんだなあ。


「な?」


 キューディーを持ったままウィンクをしてきたカッシュさんは(さま)になってて、こういう隠れた名店みたいな場所も知ってたり、面倒見が良かったりで、冒険者ってカッコイイなあ、なんて俺は思うのだった。

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