テ、テンプレ……?
さあ、視線が痛いから早いとこ帰ろう。
そう思ってカウンターからそそくさと離れたのだが……。
「よお、兄ちゃん。ここは初めてか?」
笑みを浮かべた傷だらけの革鎧を着た戦士風の人が笑みを浮かべて話し掛けてきた。しかも、俺の逃げ道を塞ぐようにカウンター側に居る俺の周りを何人もの冒険者達が囲んでステージみたいに俺と戦士さんのフィールドみたいなのが出来てる。
こ、これはテンプレってやつか……? 物語でよくある、登録したばかりの新人いびりという冒険者ギルドのお約束。
どうしよう。俺は別にチートがあるわけじゃなくて、ただガチャポンのアイテムを現物化出来るだけの男だ。いや、それもチートではあるんだろうけど、戦いなんて出来ないし喧嘩になってもどうしようもないぞ。ボコボコにされて身ぐるみ剥がされて裏路地に転がされる未来が見える……っ。
「は、はい……」
かと言って返事をしなくちゃ生意気だってなるかも知れないから、ちゃんと返事しておかないと。
「その歳で冒険者登録たあ、少し遅いんじゃねえか?」
にやりと笑って言ってくる戦士風の人に委縮してしまう。
声を掛けてきた戦士風の人も二十代ぐらいに見えるし、冒険者になる人ってもっと若い頃から登録するのが普通なんだろうか……でも転移してきたばっかりだから、それはどうしようもないんだけど。
ちょっと理不尽には感じるけど、むっとして言い返したって絶対に良い事なさそうだから堪える。
「え、えっと、仕事が無いので、冒険者になるのが一番良いかと思いまして……っ」
なんで俺はこんな説明を強面の冒険者にしてるんだろうか。
「ほお……?」
「ひっ」
がっと肩を組むように腕を回されて思わず悲鳴が漏れてしまった。なになになに? どうされるの? 何されるの?
「おい、お前等聞いたか! この兄ちゃん、仕事がないから今から新しく冒険者になるんだってよ!」
大声で戦士風の人が言うと、周りの冒険者の人達が笑みを浮かべる。そ、それは獲物を見つけた笑みですか……? 新人狩りってやつですか……?
助けてくれないかと思って後ろのカウンターの受付嬢さんを見てみたが、受付嬢さんはにっこりと優しく笑って下さった。自分でなんとかしろって事なんでしょうか!? 冒険者同士の揉め事にはギルドは介入しないとか、そういう事ですか!?
「お前等、優しくしてやれよ! 新人は宝だからな!」
「「「おう!」」」
「――へ?」
想像した展開からかけ離れた言葉が飛び出して呆気に取られる。
「兄ちゃん、なんか聞きたい事があったら誰にでも良いからちゃんと聞くようにな。自分だけでやれる、なんて勘違いしちまった奴から早死にしていくんだからよ」
「は、はい……?」
「初めてやるような依頼は絶対に下調べをしてからだ。ベテラン連中なら大抵の事には答えてやれるからな。あ、もちろん、稼ぎ方を教えろ、とかそういうのは無しだぞ?」
あ、あれえ……?
なんだかすごく良い人じゃない……?
「あ、それと、なるべくなら早めにちゃんとしたパーティーを組めよ。ソロでもやれない事はないだろうが、やっぱり複数人でやった方が依頼達成度も安定するし、その方が長生きできるからな。最初の内は簡単に組む相手なんて見つからないだろうが、そこら辺も相談に乗ってやるからよ。なあ? お前等!」
「「「おおよ!」」」
「なんだったら俺んとこのパーティーに入るか?」
「おい、馬鹿。お前んとこは大雑把な奴が多いから可哀想だろ。それより、俺のところに来ないか?」
「あんたの所だって雑用面倒くさがる人が多いじゃないのよ。それより私達の所に来なさいよ。女性が多いパーティーだから、雑用だって面倒くさがって押し付ける子は少ないわよ」
「え、えーっと……」
なんか俺の想像してたテンプレと違う!
最初から注意事項みたいな感じで忠告してくれた上に、色んな人が群がってきてパーティーに誘われてるんだけど……これ絶対にテンプレじゃない!
「ええい、散れ散れ! 寄ってたかって勧誘なんざしたら新人がビビっちまうだろうが!」
しっしっと犬を追い払うみたいに俺の肩に腕を回してた戦士風のお兄さんが、勧誘してきてた人達を近付けないようにしてくれる。
「パーティーメンバーは新人の兄ちゃん本人に決めさせんだよ! 強引な勧誘は禁止だからな!」
「ちぇー」
「なんだよ、カッシュ。そう言って、お前のとこのパーティーに入れるつもりなんじゃねえだろうな?」
「なんだと? そりゃちとズルいんじゃないか?」
「違うっつーの! この兄ちゃんは初めて冒険者になったんだから、ちゃんと自分の目で他の冒険者を見てから決めさせるべきだろ。それにパーティーに入ってもランク差もあるんだから、俺らのパーティーに入ったって下積みみたいになるんだから、同レベルの奴を見つけたらどうせそっちと新しいパーティー組んで抜けちまうだろ」
あああ、勝手に話が進んでいくぅ……!
なんかカッシュさんって呼ばれた俺の肩に腕を置いてるお兄さんは、俺が下積みで他のパーティーに入った後で同じようなレベルの人達と後でパーティーを組みなおすだろうって言ってるんだけど……俺、パーティーを組むか入るか、まだ決めてないんだけど。
ていうか思い切り一人でやるつもりでした。
いや、でもカッシュさんに言われた通り、実際に冒険者なんて仕事が成り立つ魔物なんて居る世界だと命懸けになるんだから、ちゃんと誰かに聞いて下調べしたり、色々と学ぶ為に下積みとしてパーティーに入るっていうのは、この世界じゃ当たり前の事なのかも知れない。
うーん、新人いびりとかあるのかと思ったけど……なんだか普通に優しいぞ、冒険者さん達。