冒険者ギルド登録
やってきました冒険者ギルド。
あ、ナグロさんは冒険者ギルド前で俺を降ろして「後でな!」とだけ言って直ぐに去って行った。後で合流するのが分かっているので軽いものでした。
これが冒険者ギルドかー……横長な建物で、二階建て。正面真ん中にウエスタンドアってやつだ。スイングドアなんだけど、真ん中だけなので下と上から中が覗けちゃうやつ。
実際に外からちょっと覗いてみた感じ、奥行きは結構ありそうなので正面から見るより中は広そうだ。
ここから覗ける部分だと冒険者と思われる人達が見えるぐらいなので、意を決してウエスタンドアを押しのけて中に入る。
そうすると、何人もの人達が一斉にこっちを見る。うわあ、地球だと店に入ってきた人をじろじろ見るのは失礼な感じがしてやる人はあんまり居ないのに、こっちの世界じゃお構いなしに遠慮なく視線をぶつけてくるよ……。
冒険者の人達は俺と変わらないような年齢の人もいるし、体格もムキムキな人ばかりじゃないみたいだけど、それでも武器を持ってたり傷だらけの鎧を着ていたりで威圧感が凄い。
もちろん、そういう人ばかりじゃないと言うだけで、ムキムキな人もちゃんと居るし……怖いなあ、もう。
中を見回してみると、入って正面の奥に紙がいくつもポスターみたいに貼られているから、あれが依頼表のあるクエストボード的なやつかな?
右側に視線をやると、一番無遠慮な視線を向けて来る人達がテーブル席に座ってお酒……お酒だよね? 絶対、それ。多分、右側は冒険者達が待ち合わせをしたり軽食を取ったりする酒場的なものかな?
左側に視線を向けると、俺の求めていたカウンターがあった。何人もの受付嬢さんが仕切られたカウンターに何人も居て、そこに冒険者の人達が並んでる。
視線から逃れるようにそそくさと受付に向かって、一番人が少ない所に並んだ。登録を早く済ませたいって言うよりは、少しでも早くギルドの受付嬢さんに保護されたいって気持ちが強い。
冒険者さんの中に獣人と思われる人やエルフと思われる耳の長い人とか居たんだけど、今は俺が視線を向けられる側なのでそっちに視線を向けるのが怖くてちゃんと見れない。
もし見ちゃって目が遭ったら、なにガン飛ばしてんだって怒られるかも知れないし。
「お待たせ致しました」
ようやく自分の番になった……並んでいる間も視線に晒されたままで居心地は悪かったけど、でも絡まれるような事はなくて助かった。
「あの、冒険者登録をしたいんですけど……」
「新規の方ですね。登録するに当たって、冒険者ギルドの利用方法等はお聞きになりますか?」
「あ、じゃあお願いします」
地球の異世界物の物語と同じようなシステムだとは思うんだけど、だからって説明を飛ばして規約違反とかしちゃったら目も当てられないし、こういうのはちゃんと聞いておいた方が良い。
「畏まりました。冒険者として登録致しますと、依頼が受けられるようになります。あちらの壁の一面が掲示板となっており依頼各種が掲示してありますので、自らが受けたいと思う依頼書を剥がしてカウンターまでお持ち下さい」
「はい」
「ギルドには冒険者、依頼、共にランクがございます。ランクはFからAまであり、特別な功績を残された者には特例としてSのランクが与えられる事もあります。これはよく勘違いされがちなのですが、ランクはその冒険者の強さを表すものではなく、あくまでもギルドから見たその方が依頼を達成できるかどうかの技術の指標になりますので、ご留意下さい」
なるほど。普通に強さの指標だと思ってたけど、確かに言われてみればギルド側からすれば実際に戦っている所を見るわけでもないんだから、依頼の達成率とか依頼主からの評価で冒険者のランクを決めてるんだよな。
うん、ギルドランクは技術力。把握したし納得した。
「今お伝えした通り依頼達成できるかどうかの指標がランクですので、自らのランクよりも上の依頼は基本的に受注不可になります」
「下のランクの依頼は受けても良いんですか?」
「はい、可能です。ですが、ランクが低いものは当然難易度も低く、難易度が低ければ報酬も低くなってしまいがちですので、皆さん基本的に自らのランクの依頼をお受けになりますね」
「あと、自分よりランクが高い依頼は基本的に受けられないって事は、例外があるんですよね?」
「はい。一つ上のランクの依頼であれば、我々ギルド側と応相談という事になります。相談を受けた受付の者が、その冒険者の方の実力であれば可能であると判断すれば上のランクのものも受けられる場合があるという事ですね」
「分かりました。ありがとうございます」
「基本的な説明は以上になります。細かい規約などもございますので、登録をするのであればこちらの冊子をお渡ししております」
そう言って受付嬢さんは手帳ほどのサイズの冊子を見せてくれる。
「文字が読めない方であれば、ギルドでの講習も無料で受け付けておりますので、そちらを推奨しております。どちらも強制するものではございませんが、知らずに規約に違反してしまったとしてもこちらは関与致しませんので、ご注意下さい」
「は、はい」
ちゃんと読んでおこう。言語理解があってよかった。
「何かご質問などはありませんか?」
「えーと、大丈夫です。後で分からない事があった時に聞いたりとかは、しても良いんでしょうか?」
「はい、構いませんよ。それでは登録に進んでもよろしいでしょうか?」
「はい、よろしくお願いします」
「では、こちらの用紙にお名前、泊まっている宿、得意な武器等をお書き下さい」
言われた通りの場所に記入していく。
名前、年齢、種族……泊まってる宿は、まだ泊まってないけど後で行くんだし跳ね馬亭って書いておけば良いか。得意な武器って言われたけど、これは戦闘面で得意な事なら何でも良いのかな? まあ、戦闘なんてした事ないんだけど……。
ていうか日本語を書くみたいにスラスラ書けるよ、凄い。
「あの、得意なことは空欄でも大丈夫ですか……?」
不安げに聞いた俺に受付嬢さんはにこっと笑い返してくれた。
「大丈夫ですよ。討伐を受けるような冒険者さんは、自らの手口を隠したい方もいらっしゃいますからね」
それは一子相伝の技だから人には見せられないとか言う武人なんじゃなかろうか。冒険者でも、そういう人いるの? あ、魔物の狩り方を真似されると儲けが少なるなるから、とかかな。
「じゃあ、これで」
「はい、失礼致します……リョウ様ですね。ではギルドカードを発行してきますので、少々お待ち下さい」
「はい」
ふう、なんとか登録も終わりそうだ。
あとはカードを貰ったらすぐに跳ね馬亭の場所を聞いてギルドを出よう。未だに周りから視線が向いているみたいで、とても落ち着けない。
ああ、早くナグロさんに会いたいな……この世界に一人しか居ない知り合いなので、ナグロさんが本当に恋しく思えてしまった。