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ファンタジー世界でも身分証は大事

「なんだい、身分証がないのか」


 辿り着いたテルサの街の外壁の門で、門番に止められて身分証の提示を指示されたんだけど、俺は持ってないんだよね……。


「はい、転移事故に巻き込まれたみたいで、着の身着のままだったので何も持ってなかったんです。こちらの商人のナグロさんに拾って頂いて何とかなりましたが……」


 ナグロさんに転移事故に巻き込まれたと門番には言えば良いと言われたので、そのまま言われた通りに伝える。ついでにナグロさんの手柄もアピールしておいた。


「そういう事であれば、役所で住民登録をするかまたはギルドカードでも良いぞ。大抵の奴は冒険者ギルドでカードを作ってもらうみたいだが、まあ君の場合は商人ギルドでも良いのかな?」


 ナグロさんを見やってから商人ギルドで登録するのもありだと言う門番。確かにナグロさんは商人だし、商人ギルドとか言う商人がいっぱい居そうなギルドの登録もスムーズにやれそうだ。


「そりゃ街に入ってから好きに選ばせてやるさ」


「そうか。じゃあ身分証がある者は大銅貨三枚、身分証がない者は銀貨一枚が入市税になる」


 うえー、身分証ないと一万円も取られるのかよ……でも仕方ないので銀貨一枚を取り出して払っておく。

 というか、入市税とかあったんだ。これ、ナグロさんに拾われないまま一人で街に辿り着いても、街の中に入れなかったんじゃ……。


「うむ、確かに。あとは、こっちの用紙に名前と職業を……ああ、転移事故に巻き込まれたなら職もないか、名前だけで良いぞ」


「すみません」


 いや、謝る必要はないんだろうけど、こういうやり取りの時ってなんだか恐縮しちゃうんだよな。


 それと名前だが……うん、やっぱり名前だけにしとこう。苗字は名乗らないってスタンスは続けよう。大体、あの親の苗字に未練なんて無いし。


「リョウね。身分証が無い状態での滞在は三日目までだから、身分証を作ったら持ってくるように。検問の兵に見せても良いが、あそこの外壁にくっついてる建物が見えるだろ? あそこが衛兵の詰め所だから、そっちに持ってってくれると手間が少ない」


「分かりました」


「ちなみに身分証を持ってきてくれたら、長期の滞在許可も出るし大銅貨五枚は保証金だから後で返せるからな。二枚は手間賃だ」


「はい、ありがとうございます」


「うむ。では通って良し! 次の者ー!」


 言われて門を通り抜けるナグロさんの馬車。


 中世みたいな文明度だと思える世界だけど、結構しっかりしてるなあ。保証金とか手間賃とか、そういう制度もあるんだ。

 ていうか滞在許可三日っていうのは、どうなんだろう。今日中に作って来いって言われないのはかなり優しいのかな?


「身分証がない人が三日も滞在して良いんですかね?」


 疑問だったのでそのまま聞いてみると、ナグロさんは苦笑した。


「あー、そりゃお前、身分証がないと泊まれない宿とかも結構あるし、仕事をするならそれこそ身分証がなきゃ雇ってもらえねえ所も多いからな。だから、孤児や旅人なんかは大抵は登録すれば身分証がもらえる冒険者のギルドカードを持ってたりするもんだ」


「ナグロさんは、やっぱり商人のギルドカードですか?」


「おうよ」


 そう言って、手綱を片手に持ち替えて、もう片方の手で懐から銀色のカードを取り出して見せてくれる。


「へえ、これが商人ギルドのカード」


 書かれている文字も、言語理解のスキルのお陰で(なん)なく読めた。書かれている内容は、ナグロさんの名前と商売形態が()ってる。ちゃんと行商って書いてあるな。

 あとランクって項目があって、そこにはBって書かれてる。かなり高ランクなのでは?


「やっぱり冒険者ギルドにもランクってあるんですかね?」


「ああ、もちろん」


 今まで聞いた冒険者ギルドの話を統括すると、地球の物語に出てきた冒険者ギルドとそんなに違いはないのかな。

 地球じゃお話の中の職業なのに、こっちの本当の異世界でシステムが同じって言うのは不思議なものだなあ。もしかしたら、あれの物語は実は異世界から地球に転移した人が書いてるんだったりして。

 世界の狭間に俺が落ちたんだから、こっちの世界から地球側に落ちる人も居てもおかしくないぞ。


「じゃあ冒険者ギルドで降ろしてやるからな。俺は商人ギルドに寄って、今日の宿を取ってから数日後にはネント森林国に向かう。宿は商人ギルドの近くにある跳ね馬亭って所にするから、リョウも冒険者ギルドの登録が終わったら、道を聞いて同じ所に泊まってくれ。商売に関しての話も、もう少ししておきたいからな」


「分かりました」


 商売の話とは言っても、ガチャポンから出た調味料の醤油と味噌の事が良く分からないので試しに俺が料理を作ってみると申し出たのだ。

 そうしたらナグロさんが宿で厨房を借りられる場所を知っていると言うので、そこで後で落ち合う手筈である。


 味噌はお味噌汁で良いとして、醤油は……うーん、醤油単体なら魚とかなんだけど、海とは逆側の街に来ちゃったみたいだから、醤油と砂糖、あとは料理酒なんかがあれば買っておいて照り焼きかな? お味噌汁の具に出来そうなものと一緒に、ギルド登録が終わった後で買ってから宿に向かおう。


 さあ、いざ冒険者ギルド。


 本当に冒険するかどうかは分からないけど、異世界物の物語を読んだ事がある十代の男の子ならワクワクしちゃうだろ。


 楽しみだ。

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