カプセル大放出
あれからお互いに話し合った……と言うより、俺がガチャポンの中身でナグロさんが分からなさそうな物があれば、その説明。ナグロさんは売れそうな物があれば、俺にその説明をしてくれた。
衣服シリーズと鞄シリーズは試しに一つずつ回してみて、現物化したアイテムの布の質だとか裁縫の具合だとかをナグロさんが確かめて、かなり良い商品になると言う。
調味料シリーズに関しても、砂糖と塩とお酢は言うまでもなく商売になるそうだが、醤油と味噌はナグロさんも見たことも聞いたことも無いと言う事で未知数だとか。まあ、日本特有の調味料だしね、仕方ないか。
冒険家シリーズに関しては、水筒とサバイバルナイフは売れそうだとか。この世界の水筒は革袋なので、未知の軽い金属――多分ステンレス――の水筒は重宝されるとか。サバイバルナイフに関しても、切れ味もデザインも一級品だと言う。俺は飯盒も試しに売ってほしいと推してみたりもした。
「どのアイテムが売れそうかも分かった所で――リョウ」
「あ、はい」
「服のやつと鞄のガチャポンは俺に全部回させてくれねえか?」
「もちろん良いんですけど……売れないで、その、不良在庫みたいになっちゃった場合は……どうしましょう?」
心配だった事を聞いてみると、山賊の親分はガハハと笑いながら俺の背中をばしーん! と叩いた。めっちゃ痛い……!
「不良在庫とか、そんなもんは実際に売る俺が考える事だ。リョウはただ、自分の生み出したアイテムを卸せば良いだけだ。難しく考えんな!」
「は、はい……っ」
背中がひりひりするぅ……! とても商人って力じゃないぞ……!
そうして衣服シリーズと鞄シリーズを、さきほど稼いだ銀貨百枚でそれぞれ中身が無くなるまで回すナグロさん。
出て来た物は、衣服シリーズは長袖のTシャツに長ズボン、パンツに帽子にベルトと靴。更には上着なんかもあった。全部が男物なのは、俺のスキルのガチャポンだからだろう。
次に鞄シリーズは、俺が出したウエストポーチを始め、リュックサックにベルトポーチ、トートバッグとボストンバッグにアタッシュケースなんてものもあった。
どうやら中身は三百円のガチャポンの数の基準ではなく、一種類のアイテムが十個ずつ入っているみたいで、衣服シリーズは七種類なので七十個、鞄シリーズは六種類なので六十個と、そんな感じで一つのアイテムは十個までしか手に入らないみたいだ。
「リョウ、自分に必要そうな物だけは取っておけよ」
「え、でも、それは全部ナグロさんが回したものですし……」
「良いんだよ。さっき稼がせてもらった礼みたいなもんだ。それに、これらを売ればもっと稼ぎになるんだから、俺達もいくつか自分用に取っておいたって余裕でお釣りがくるさ。俺もいくつか使わせてもらうつもりだからな」
「はあ、そういう事なら……」
ナグロさんも自分用に取っておくと言う話なので、それなら安心というか俺もあまり遠慮せずに受け取れる。
そうして俺が選んだのは、パンツ――ボクサーパンツだな、これ――を二枚。Tシャツと長ズボンも二着ずつにベルトが一本と上着も一着、そして靴を一足もらっておいた。
学生服よりは、こっちの服の方があまり目立たないだろうし着替えも含めて二着ずつだ。街で服を買うまでは、この二着を着まわして明日の分を夜洗う感じになるのかな。
鞄シリーズからはリュックサックとベルトポーチをもらった。
多分、俺が街で新しく仕事を探すってなると、何でも屋の冒険者ギルドが一番無難だろうから薬草採集とかがあれば、荷物を多く持てる上に負担少なく背負えるリュックサックだ。
ベルトポーチは小物を入れるのにちょうど良いかなって。ウエストポーチもどちらかと言えば小物を入れるものだが、これは使い分けていきたい所。
カプセルボックスもあるけど、咄嗟に現物化したいものをウエストポーチに入れておくとかね。
「このアタッシュケースとか言うのとボストンバッグってのは良いな! 服も手触りが本当に良い、こりゃ高く売れるぞ!」
ナグロさんも自分の分を確保しつつ、アイテムが高く売れそうでホクホク顔だ。
「それで調味料のガチャポンなんだが……これも全部回したいには回したいんだが、ちょっと相談だ」
「相談ですか?」
「おう。取り敢えず全部回しちまって、砂糖と塩と酢は俺が売ってくる。あ、もちろん後で利益はお前にも渡すぞ? ただ、ショーユとミソってのは良く分からんので、試しに少しずつだけ渡してもらって、他はリョウがカプセルのまま持っておいてくれねえか? 実際に売れるようなら、後で受け取る」
「それは全然、俺としては構いませんけど……ナグロさんはネント森林国って場所に行くんですよね? 連絡とかどうします?」
「あー……俺と一緒に行かないか誘おうとも思ったんだがな、その気は無さそうだな?」
うーん、一緒にか……確かにそれは俺もちょっと考えた。ナグロさんが良いって言うなら、このままテルサって街を通り過ぎて一緒に行動して今後も色々教えてもらう手もあっただろう。
でも、俺としては初めての街だし、こちらの世界の現地の人達がどういう風に暮らしているかとか、前の世界と今の世界での暮らし方の違い方とか、色々と街にいて学んでおいた方が良いと思う事もある。
だから俺はその理由を、文化も違うほど遠くから来たから現地の事を知るためにも街で暮らしたいとだけ伝えた。
「なるほどな。確かにそれも大事だよな」
「ええ、だから何でも屋って言ってた冒険者なら俺にも仕事があるかなと思うので、冒険者ギルドへ行ってみようかと」
そう伝えるとナグロさんは難しい顔をするが、かと言って否定まではしない。
「ふうむ……悪くはないが、冒険者か……いや、確かにな、色々な手間を飛ばして直ぐに働いたり即金で金を得るにゃ相応しい仕事だ。だがな、リョウ。絶対に無茶はするなよ? 討伐依頼なんかは命を張った仕事だってのは忘れないようにしておけ。どんだけ弱い魔物相手でも、油断一つで簡単に死んじまうんだからな」
「は、はい」
脅すように言ってくるナグロさんに、俺も神妙に頷いた。
そうだよな。冒険者って漫画や小説、またはゲームに出て来るような組織で、さあクエストだなんて感覚のまま冒険者になれば、ナグロさんが言ったように油断しきって魔物に殺される事になる。
いくら地球では創作でしか聞かない職業や依頼だったとしても、この世界じゃ本当に命懸けの仕事なんだ。それを忘れないようにしなくちゃ。
「まあ、食っていく分の金が必要なだけなら、討伐依頼なんざ受けずに街中の清掃やらの依頼を受けるだけでも良い。採取系の依頼だって、魔物が居る場所に行く事も多いんだから、そっちも気を付けるんだぞ」
かなり親身になって教えてくれるな、ナグロさん。まさか、冒険者になった知り合いが死んだ事があるとかじゃないだろうな……。
「折角、ガチャポンなんて珍しいスキルで金が稼げるんだ。死んじまうよりも、どうせなら長生きして俺にもっと稼がせてくれよ」
最後に冗談めかして言うと、ナグロさんは悪戯っぽく山賊顔で笑った。