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商人の矜持

 俺は他の野営している人達に見えない馬車の裏で正座させられていた。


「あのな、良いか? 俺は確かにお前のガチャポンに自分の金を入れて、それを売り捌いた。確かに利益は俺の物でもあるだろう。けどな、そもそもお前のスキルが無きゃ手に入らない品だ。お前はスキルから商品を俺に提供した、俺はそれを安く仕入れて高く売った。利益は互いに得るべきだ。そうだな?」


「……はい」


 何故こんな事になってるかと言えば、今ナグロさんが言った通りの事を俺が拒否していたからである。


 ナグロさんは飲み放題とグラスを売ったお金、銀貨百六十二枚の内の銀貨五十枚は俺の利益だと言って渡そうとしてきた。

 しかし、俺はそれはあくまでもナグロさんの稼ぎだ。俺はスキルを出しただけであって、ガチャポンを回したのは全部ナグロさんのお金だったし、仕入れも商売したのもナグロさんで、手間賃ですらナグロさんのものであると主張。


 結果として、ドスの利いた声で座れと言われてこうして説教されているわけである。


「利益ってのはな、商売に携わった者全てが平等とは言わんが見合ったものをそれぞれ受け取るべきなんだ」


「でも、俺はスキルでガチャポンを出しただけで、実際にガチャポンを回したのはナグロさんだと……思う、ので……」


 説教されている立場なので、言葉尻が小さくなってしまう。でも思っている事は本当だ。


「はあ……あのなあ。じゃあ聞くけどよ、商品はどこから仕入れる? その商品を作った奴からだろ。俺は確かにガチャポンを回したさ。でも、その商品を作ったのは誰だ? ガチャポンのスキルで商品を生み出したのはお前だろう。剣を打った鍛冶屋がタダで剣をくれてやると思うか?」


「……それは……」


 そういう事に……なるのか?


 確かにナグロさんが言う通り商品自体は俺のスキルから出てきたものであって、そう考えれば俺が商品を作った職人と同じ立場になるのかも。


「それに、俺達商人は商品だけじゃなくて信用も売ってるんだ。お前は俺を、仕入れ先に利益を還元する事もなく自分だけ得をするような悪徳商人だと思うのか? それとも、俺をそういう商人にしたいのか?」


「そ、そんな事ないです!」


 ここまで良くしてくれたナグロさんを悪徳商人だなんて、そんな風に思うわけがない!


「だろ? なら、俺があくどい商売をしないように、この銀貨五十枚はちゃんと受け取れ」


 そう言って俺の前にすっと銀貨で膨らんでいる革袋を差し出すナグロさん。


 これは……そうだな。素直に受け取った方が良いんだろう。ナグロさんの言う事は納得できる話だったし、何よりナグロさんを悪い商人にはしたくない。


「……ありがとうございます」


 革袋を受け取りながらお礼を言うと、ナグロさんは強面(こわもて)の顔でにやりとしか表現できない顔で笑った。


「それで良いんだよ。リョウ、お前はまだ見たとこ若いんだし、若いうちから変な遠慮はするべきじゃねえぞ。もちろん、だからって強欲になれって意味じゃないがな」


 そう言うと、今度はガハハと豪快に笑う山賊の親分みたいなナグロさん。


「まあ、商売ってのはそういうもんだってのは覚えときな。お前は商品を生み出した、俺はそれを売った。商品を生み出したリョウの方が稼ぎは少なめになるが、実際に売る手間やなんかでお前より多く稼ぐ俺がその金でお前の商品をもっと仕入れる、そうすりゃお前ももっと稼げる。そうやって互いに利益を上げて行けば、どっちも幸せだ。な?」


「……はい!」


 商売に関しちゃ俺は完全な素人だ。地球でだってただの学生だったんだから、商売に関しての言葉はプロの商人であるナグロさんの言葉を素直に聞くべきなんだろう。


「てなわけで、銀貨が大量に手に入った……となりゃ、また回せるな?」


 再びにやりと笑いながら俺に問いかけて来るナグロさんだが……それはどうだろう。回せるにしても、残りのラインナップがなあ。


「でも、ドリンクシリーズはもう全部回しちゃって中身がありませんよ?」


「まあ、良いからガチャポンを出してみろ」


「はあ、分かりました」


 商売が終わってから馬車の影に戻って来ているので、また誰にも見えないように気を付けながらガチャポンの筐体を出現させる。


 すると、顎髭を撫でながら真剣にナグロさんがガチャポンそれぞれのPOP広告を見ていく。


「……ふむ。これとこれは無しだな」


 言って指差すのは、軽食シリーズと冒険家シリーズ。


「食べ物はリョウが居ないと現物化は出来んし、先に現物化しておいたとしても取り置きなんかしたら腐っちまう。こういう場でならさっきの飲み物みたいに売れるかも知れんが、こういう軽い食い物じゃ銀貨一枚以上で売るのは難しいな。ドリンクは飲み放題にしたから何とかなったんだが、それだって原価より高くは売れてない。ありゃガラスのコップがたまたま売れたから得しただけだからな」


「ああ、なるほど。確かにそうですね」


「次にこっちだが、野営道具に使えそうなものみたいだが……こりゃ駄目だな。街で買えば安いもんばっかだ。普段なら銀貨一枚なんて出す価値はない」


「これと、これはどうです? 水筒と飯盒なんですけど」


 水筒はともかく、飯盒はこの世界にあるかどうか分からないし、野営をする上では結構良い物なんじゃないかと思う。

 地球の基準であれば、恐らくステンレスとかそういうもので、直接火に掛けても良いし、鍋よりはコンパクトに持ち運べる。蓋だってお皿の代わりになるし。


 恐らく飯盒の事を知らないであろうナグロさんに、飯盒の事をそうやって細かく話してみる。


「確かに鍋よりゃ便利なんだろうが、その分だけ煮込めるスープの量も減るだろ? 冒険者なんかじゃ、そんぐらいのサイズの鍋じゃ満足できる食事量が作れねえよ」


 う、なるほど……体を動かす冒険者みたいな商売の人ならいっぱい食べるし、飯盒一個ぐらいじゃ持ち運びは便利でも、実際に料理するとなると何度も繰り返し煮込まなきゃいけなくなって不便か……。

 もしかしたら冒険家シリーズのガチャポンは、森から俺が生き抜くために神様が選んだラインナップなのかも知れない。


「さ、この調子で商品になりそうなもんを話し合っていくぞ」


「はい!」


 なんか自然とお互いにガチャポンの中身を商品にする事を考えちゃってるけど、まあ良いだろう。


 ガチャポンの中身は定期的に変わっちゃうらしいし、今あるガチャポンのラインナップは森で生き延びる為のアイテムに特化してそうだから、商人であるナグロさんが協力してくれると言うなら中身を抜いてしまって現金化するのは、かなり良い考えだと思う!

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