息子のために
-パウンド輸送艦・1階エントランス内-
「さあ、どんな攻撃をしてくるんだ?中から大きい爆発音は何度か聞こえてきてたが、爆発させるのが得意なのか?」
ベイクは青髪の男に呑気な声で問いかける。
「爆発は得意だが…ここでそれをすりゃ上から物降ってきたりして危ないからな。今回は使わずに戦うことにするよ。」
青髪の男はニヤッと微笑み返事を返す。
「そうかい、そうかい。ならこっちが有利になるって訳だ。さぁ、いくぜ。」
そう答えると、ベイクの右腕が突然ウィーン!と音を立て、たった数秒でガトリングの形状に変化した。
そして、変化した右腕を青髪の男の方に向け、そのままドドドドドッ!っと銃弾を連続して撃ち放った。
青髪の男はベイクの右腕がガトリングに変わったことに驚きながらも、その銃弾に対して全身を一瞬で硬化させ全てを防ぐ。
「…まさか腕を変形させれるなんてねぇ。サイボーグが部隊の隊長だなんてまるでSF映画みたいじゃねぇか。」
「そうだろう?この銃カッコイイだろ?高かったんだぜぇこれ。この銃はな、マドレイヌ博士っていう凄い博士がいるんだが、その博士に…」
「おおっと、その話はもういい。悪いがあんたとそんな話をしに来てる訳じゃないんだ。こっちからどんどんいかせてもらうぜ。」
青髪の男はベイクに向かって飛びかかり、硬化させた右腕を勢いよくぶつける。
ベイクはその拳をガトリングを盾にして受け止めるが、その衝撃で少し押されてしまう。
「おっと…身体を固くできるってのは攻撃にも防御にも便利だなぁ。いい力だ。」
「そんなこと言ってる暇はないぜ…!」
男は硬化させた身体で拳や蹴りをベイクに幾度となくぶつける。
ベイクはガトリングを盾に使いながら全ての攻撃を防ごうとするが、防ぐうちに何度か身体に拳や蹴りが入り、少しよろめく。
「痛む…痛むぜ。これが普通の体だったならもっと痛かったんだろうな。よし、お前の能力はわかった。」
そう言うと、ベイクはガトリングの何かのボタンに触れた。
触れるとガトリングは動き出し、ガガガガガッ!と弾を装填するような音がベイクの右腕から鳴り響いた。
その右腕を青髪の男に向け、しきりに銃弾を発射する。
が、もちろん全身が硬化している青髪の男には効かない。
「なんだ、何か変わったかと思ったらただの銃弾じゃねぇか。」
「見た目はそうかもしれねぇな。」
銃弾を撃ち終わると、ベイクは左手を青髪の男に向ける。
そして、何を起こしたのか、青髪の男はベイクの左手に吸い寄せられる。
「うっ…!!一体何のトリックだ…?」
「驚いたか。頑張ってその青い頭で考えろ…!」
吸い寄せて首を掴み持ち上げていた男を、ベイクは勢いよくドォン!と床に叩きつけた。
叩きつけられた男は苦しみの声を上げる。
「もうお前は俺から離れることも出来なければ、近づくことも出来ない。」
そう言うと、叩きつけたその男を目の前のエントランス入口の扉の方まで投げ飛ばした。
勢いよく扉に背中を打つ青髪の男。
そのまま倒れるが、ノエルとの戦闘時のダメージもあるせいか、中々立ち上がれない。
「なんなんだ、あんたは一体…」
「これが俺の能力、マテリアルだ。あの銃弾をまともに受けたときのお前は、すでに負けてたって訳よ。」
-ベイクのマテリアル、それは磁石のマテリアル。
磁石に付くものを自由に引き寄せることができ、そして引き離すことが出来る。
銃弾にはマテリアルの力を纏わせることができ、その銃弾を当てたものを自由に扱うことができる-
青髪の男は何とか立ち上がろうとする。しかし、身体に痛みが走り上手く身体を起こすことができない。
そこへベイクがゆっくり近づく。そして、倒れている青髪の男に向かって銃口を向ける。
「もう動かない方がいい。それ以上無理すると身体がダメになるぜ。」
「いや、まだだ…まだ終わってはいない…戦い方を変えればお前なんて…」
苦しみながら答える男の後ろの方からまた一人、ゆっくりと近づいてくる。
それはさっきの爆発で見えなくなっていたノエルの姿だった。
服はボロボロに破けている。
「液体になっても気体になっても無駄だ。ベイクには何も抵抗はできないだろう。大人しくここで捕まるんだな。」
「あんたいたのか…てっきり海にでも落ちたのかと思ってた…」
「悪いな。お前をわざと中に入れるために姿を消していた。中だと爆破を使うことができないと読んでな。…ベイク、よくやった。」
ノエルの言葉にベイクが反応する。
「さすがノエルだ!何かあるとは思ってたぜ。お前が簡単にやられるとは思ってなかったからな。よし、到着時間には間に合いそうだ。」
その後、『時のマテリアル』を乗せていたパウンド輸送艦は無事アーモンディの港まで到着し、『時のマテリアル』は本部の地下室に厳重にして保管された。
青髪の男は逮捕された後留置所へ送られ、ノエルの監視下に置かれることとなる。
このことは輸送艦が襲われた事件として大きく記事に取り上げられ、大衆を驚かせた。
だがこれはこれから起こる大きな出来事の始まりでしかないことをまだ誰も分かってはいなかった…
-ここからマテリアルを持つ者の運命の歯車が大きく動き出す-