動き出したミステリアスな男
青髪の男は船内に向かって歩みを止めない。
船内からは特殊部隊の戦闘員達が続々と船内への入口へと繋がる扉の前を塞ぐように立ち並び、男に向かって銃口を向ける。
「とにかく通すな!ヤツの能力は分からないが、何としてでも死守しろ!」
戦闘員をまとめる1人の男が戦闘員全員に言い放つ。
「そこまで守りたくなる気持ちはわかる…でもそのマテリアルは俺に渡している方がいい。」
青髪の男はそう言い放つと、全身が元の身体の形を保ったまま液状に変化した。
「退屈だから戦い方を変えて戦ってやる。」
「ヤツの言葉に構うな!撃て!」
扉の前で守る全戦闘員が男に向かって撃ち始める。
男は焦る表情ひとつ見せず、目の前の入口の扉に向かってただひたすら歩き続ける。
彼に当たる弾丸はバシャッと音を立て身体を貫通していく。
貫通した弾丸はあちこちにこぼれ落ちる。
男は少し笑みを浮かべながら、液状になっている手を戦闘員に向け軽く握りしめ、デコピンを打つかのように強く指を弾いた。
弾くと同時に飛散する水しぶきは勢いよく戦闘員に向かって飛んでいき、まるで弾丸を放ったかの如く戦闘員の身体を撃ち抜いていく。
多くの戦闘員は傷付き、謎の男の測れない強さに怯みながらも、銃を使い、剣を使い、必死に抵抗する。
しかし、謎の男の前では無力と化していた。
「全く相手にならん。俺を止めるならもうちょっと強い武器を用意しておけ。これじゃ何かが侵略してきても人類は勝てない。」
青髪の男が入口の目の前まで来た瞬間、今までにない素早い斬撃が男の身体を縦になぞる様に襲う。
男は咄嗟に反応し、後ろに退いてその斬撃を躱す。
「ここから先は立ち入り禁止だ。遠くから来てもらったのに悪いが、ここで捕まってもらう。色々と聞かないとな、お前には。」
「ぐっ…!この剣筋…もしかして隊長さんか…?」
今までと違う剣筋に驚く青髪の男。その目の前に現れたのは二番隊隊長のノエルだった。
ノエルの剣術は組織全体において誰よりも洗練され、刀を交えた者は誰も彼に剣先さえも当てれぬまま負けてしまうという。
「隊長さんなら手加減はいらないな…全力で通させてもらう。」
青髪の男は身体を液状から元の身体の状態に戻し、ノエルに勢いよく殴りかかる。
ノエルは瞬時にそれを避け、後ろに回り、背中に向かって剣を振るう。
向かってきた剣を男は振り返り腕で止めるが、止めてもなお連続する斬撃が男を襲い続ける。
男は襲ってくる斬撃の強さに耐えれなくなり、船の後方まで吹き飛ばされてしまう。
「うっ…やるなあ…流石隊長さんってところか…」
男は立ち上がり、すぐに体勢を立て直す。
「あれだけ切っても切り傷さえもつかない…ヤツの身体はどうなっている。マテリアルか?」
斬撃が通らないことを不思議に思うノエルは、マテリアルを身体に秘めていることを疑う。
そして疑い出したと同時に、彼の剣にビリビリと電気が走り出した。
「少し実験を始めるとしようか。」
そう言うと、ノエルは剣を構え、遠く離れている青髪の男に向かって凄まじく大きい斬撃を放ち撃つ。
男はその斬撃を大きく飛び上がって避ける。が、ノエルは避けた先にも斬撃を放つ。
避けきれないと判断した男は、身体を液状に変化させ、斬撃に対応する。
斬撃を喰らうと同時に身体はバシャンッと一瞬水のように弾けるが、すぐに元の身体の形に戻る。
「液体に物理攻撃は無力。こっちでなら気楽に戦えそうだな。」
男が余裕の表情を浮かべた途端、身体に電流が走る。
「ぐ…ぐわぁぁぁぁぁ!!」
男はその場に落ちて倒れ、電流で身体が痺れて動くことができない。
「悪いな泥棒…俺もお前と同じく能力が使えるんだ。電撃はお前の体にも通用するみたいだな。」
ノエルは剣を持ちながら、動けない青髪の男の元へ近づいていく。
-ノエルの持つマテリアルは雷のマテリアル。雷を自由自在に扱うことができ、身体や剣に纏わせたり、雷と一体化して高速で移動することができる-
ノエルは剣先を動けずにいる男に向け、疑問に思っていることを問い出す。
「お前のマテリアルは不思議だな。何のマテリアルだ?それと『時のマテリアル』を狙う理由はなんだ?」
「ハハッ…分からないだろうな。それは戦いながら考えてくれ。それでも分からないかもしれないがな。…『時のマテリアル』を狙う理由か。それは世界を守るためだ。」
「世界を守るだと?何を言っている。良いように言って自分の野望や欲望の為に使うんだろ。世界を守るのは俺たちだけで十分だ。」
「あんたらが守れないからやろうとしてるんだろ…俺じゃないとできない、何も言わず『時のマテリアル』を渡した方がいい。」
「何を根拠にそう思う。俺たちは世界を守る為に命を懸ける。その覚悟で今この船にも乗っている。『時のマテリアル』は死んでも守りきる。」
「普通に話し合いしても渡してくれないのは分かってる…だから力づくで取りに来たんだよぉ!!」
青髪の男は突然痺れが残っているにも関わらず、身体を液状から気体の状態に変化させる。
そして、そのまま宙にふわっと舞い上がり、ノエルに向かって手のひらを向ける。
「なに!?身体が気体に変わった!?」
男はそのままノエルのいる場所をドォン!!と大きく爆発させる。爆音が鳴り響き、爆風で船が大きく揺れ動く。
「さあ、第2ラウンドスタートだ。」
男は楽しみの表情を見せ、ニッコリと微笑む。