第21話 写真の少女 (庵字)
アルバムの表紙に手をかけると、正陽はクラス別紹介のページを目指して厚手の紙を次々に捲っていった。三年A組……B組……C組……次だ……。指の震えを抑えつつ、正陽はついに「三年D組」のページを開いた。校舎を背景に校庭で撮影された集合写真とともに、生徒個別の顔写真が氏名と一緒に掲載されている。居並ぶ少年少女たちの写真群に視線を走らせた正陽は、
「――あった!」
思わず声を上げた。目当ての顔を見つけたためだ。ページに穴が空いてしまうのではないかというほど、写真に視線を注ぐ正陽は息を呑んだ。……似ている、いや、似ているなどというものではない。“瓜二つ”とは、こういうことを言うのではないか? ――東夜鈴……いや、彼女の姉。
「どうしたの? 南見君」
その視線にただならぬものを感じ取ったのだろうか、西荻麗が、正陽の顔を覗き込むようにして訊いた。
「――あ、い、いや……」と正陽は、ゆっくりと深呼吸をして息を整えてから、「この人――いや、この先輩って、東夜さんのお姉さんだよね?」
そっと人差し指を、東夜鈴と瓜二つの顔写真の上に添えた。指の震えもすでに治まっている。
「あっ」と西荻は驚いた顔を見せ、「本当だ」と吉岡はまじまじと写真を見つめ、「そっくりだな」と涼介は感心したように言った。
そうだ、名前……。正陽は、写真の下に添えられた生徒の氏名に目を落とし、
「東夜……華鈴? そうか、涼介の言っていた『華ちゃん』ていうのはニックネームだったんだな」
「そうだったのか」
涼介はあごに手を当てると、改めて“東夜華鈴”の写真を見やる。
「本当に似てるな……というよりも」と吉岡も上体を屈ませ、アルバムを覗き込むようにして、「似てるって言うか、瓜二つじゃん」
先ほど正陽が思ったことと同じような感想を漏らす。
「そうだね、絵に描いたような美人姉妹」
と西荻も頷いた。
「それにしても」と正陽は、「お姉さんの名前が『華鈴』で、妹が『鈴』なんて、ちょっと変じゃないか? 妹も『鈴』の上に何か足して名前の形式を揃えるってのなら分かるけど……」
首を傾げる正陽。
その顔を、さも自分も疑問に思っている、というふうな顔をして見つめながら……、
(まずい……)
その人物は心の中で呟いた。
(どうして南見正陽が突然、六年前の卒業アルバムに興味を持ち始めたのか? ……思えば、あのときから歯車がおかしな方向に回り始めてしまった。『帰宅命令』を無視して南見正陽が校内に残っていたこと、さらには、東夜鈴と遭遇してしまったこと。……いや、それだけならまだ、取り返しもついた。最悪だったのは、東夜鈴が南見正陽に対して好意を抱いてしまったことだ……)
その人物は、他の三人――特に南見正陽――には決して気取られないよう、細心の注意を払いつつ、ごくりと唾を飲み込む。
正陽は、“東夜華鈴”について、自分も含めた――他の三人から何か知っていることを訊きだしたがっているようだったが、他のものが卒業アルバムについて他愛のない話題を振ったため、自分も上手くそれに乗り、とりあえず“東夜華鈴”についてから話題を逸らすことができた。内心で安堵のため息をつきながら、
(何を、どこまで知って――いや、疑っているのだ? 南見正陽……!)
表向きは、級友たちとのおしゃべりを楽しむふうを装いつつ、その人物は考える。そして、
(ピラールに手を打たせておく必要があるな……)
“影の校長”である、その人物は、ピラール神父に連絡を取るため、急用を思い出したことにしてこの場を辞そうと、腰を浮かしかけた――そのとき、
「――涼介! 涼介!」
階下から呼ぶ声が聞こえた。涼介の母親だ。そのボリューム、声色が、普通ではない尋常ならざる事態を告げようとしていることを知らせた。四人は会話を止め、部屋の出入り口を一斉に見やる。階段を駆け上がってくる足音が止まると、部屋のドアがノックもなしに開け放たれて、
「涼介! 今、学校から電話があって……」と涼介の母親が青い顔を見せ、「お前の学校に、ピラールさんていう神父さんがいるだろ――」
その名前を耳にして、“影の校長”の心臓が、どきりと鳴る。涼介の母親は、さらに声を震わせながら、
「その、ピラールさんが……亡くなったって! 交通事故で……」
えっ! と四人は同時に声を発した。
「話によると……横断歩道を歩いている途中、突然転んでしまって、そこに……猛スピードの車が……」
(――突然転んだ、だと?)その額を汗が伝う。(まさか……)乾いた唇を噛み、(ナツ……)“影の校長”は恐怖に震えだした。




