第64話〜 家族 〜
宿に帰るとメアは本を読んでいて、リリアさんは隣で教えていた。
勉強していたのだ。偉い……。
お金を沢山獲られた事。そして、今日は初仕事だったので食事は豪華にするぞと二人に伝えたところ予想通りの反応を示した。
因みに冒険者になったということは伏せている。心配されて止められる可能性があるので、仕事を見つけたとだけ言っている。
買ってきた食材を出すと驚いた顔をしたが、リリアさんは腕まくりし気合充分に料理をし始めた。
久しぶりのしっかりした料理なのか、随分と楽しそうに作っていた。
「「「いただきまーす!」」」
3人の元気で明るい声が暗い路地裏の狭い宿屋に響く。
「ん……?」
そこで僕はリリアさんにある違和感を覚えた。
「どうしたのノアー?」
食事に手を付けない僕を不思議に思ったメアが聞いてくる。
「あぁ、いや……リリアさんも『いただきます』って言葉知ってるんだね」
「え?皆食べる前に言いますよ……?」
え?メアは知らなかったよ……?
「それって常識……?」
「はい」
「だよね……」
リリアさんはキョトンとした顔をしたがご飯を食べるとすぐに幸せそうな顔をした。
僕は少し驚いたがセル村は情報が入ってこないしそんなこともあるかと特に気にすることなく食事を始めた。
肉、魚、サラダ、スープなど異世界に来てからこんな豪華な食事を摂るのは初めてだ。
メアやリリアさんもほっぺが落ちそうな顔をして次々と食べていく。
リリアさんのこんなに嬉しそうな表情を見るのは初めてだ。
……可愛い。勿論メアも。
皆で楽しく談笑しながら食事をすると沢山あったご飯をあっという間に食べ終わってしまった。
3人で片付けをして、一段落ついたところで学園の話を出して見る。
「そう言えばさ、一緒に働いてる人が学園に通った方がいいって言ってきたんだ。お金に余裕も出来たし、通うのもありかなって考えてるんだけど……」
「どう思う?」と二人に投げかける。
「私はノアさんがそうしたいのなら、そうすると良いと思いますよ」
「ノアが行くならわたしもついてくー!」
「そうだよね……ありがと。もう少し考えてみるよ」
僕はそう言って寝室に向かいベッドに飛び込んだ。
二人はああ言っているけど、どうしたものか……。
行くにしても受験とか試験あるだろうし筆記試験とか無理そう。
それにどれくらいお金がかかるか等もまだ知らない。
もう少し、学園の事について調べてから決めても遅くはないな。
学園の事については取り敢えず、ケニーさんやルナさんに聞いてみる事にした。
初仕事で緊張したというのもあったのか、ベッドに横になったらドット疲れが出てきた。
そのまま睡魔に襲われ、僕は眠りについた。
翌日、冒険者ギルドでケニーさんやルナさんに学園の事について聞くとかなりの情報を得られた。
それから僕は毎日依頼を達成するためダンジョンへ行って攻略しては、報酬を受け取るというなんとも順風満帆な日々を送っていた。
因みに月ごとに達成しないと違約金を払わないといけなくなる任務は既に終えている。
今日も仕事を終え、宿に帰ると中から大きな声が響いてきた。
「おい、早く今月分の借金払えよ!」
「その……すみません。これしかなくて……」
僕は何事だと思い急いで中に入ると強面の男2人組がいた。
1人はメアを拘束していて、もう1人はリリアさんに詰め寄っていた。
「ど、どうかしたんですか……?」
こんな漫画でしか見たことのないような状況には僕は恐怖と混乱が混ざった感情で話しかける。
あまりの怖さに足は震えるし、声も震えていた。
「あぁ?お前には関係ない」
男に睨まれ圧をかけられた僕は怖気づいて動けなくなった。
「おい、早くしろよ。これじゃ足りねぇんだよ」
リリアさんが差し出していたのはお金だった。
状況から判断するに、以前リリアさんが話していたおばあちゃんの入院費やらの借金取りだろう。
「すみません。ほんとにこれしななくて……」
「お前の身体で払ってもらっても構わないんだがな?」
リリアさんは俯いて震えている。
「それとも、こっちの女でもいいんだが」
メアのことを言われた途端、リリアさんは勢いよく顔をあげる。
「だ、だめですっ!……っ、その子は関係ありません……」
「じゃあ払えよ。前言ったよな?次払えなかったらもう待たないって」
「っ…………」
メアは涙目で僕に助けを求める表情を向けてきた。
僕は怖気づいて今まで黙って見ている事しか出来なかったが、メアにそんな表情をされたら助けざるを得ないじゃないか……。リリアさんにもお世話になっているし、助けるとも約束した。
そうだ、なにしてる僕。この世界では頑張って生きるって決めただろう。
自分に強く言い聞かせ、ポケットから白金貨を取り出し男に呼びかける。
「こ、これで足りるか?」
流石に10万でこの場は見逃してくれるだろう。
「あ、あぁ。今日の分は足りてるな……」
「じゃあ帰ってくれますか?」
「今日はその男がいて助かったな。次も頼んだぜ」
白金貨を受け取った男たちはリリアさんを向いてそう言うと僕の横を通るとき、僕を思いっきり睨んで出ていった。
………………。
「はぁぁぁぁぁ……」
怖かった……。
僕は一気に膝から崩れ落ちる。
「2人とも、大丈夫……?」
「こ、怖かったよぉー!」
メアは泣きながら僕の胸に飛び込んできた。優しく頭を撫でて落ち着かせる。
「リリアさんは大丈夫?」
「……グスッ…………はい……」
今までもああ言うことが何度もあったと想像すると心が痛い。その度にこんな辛い思いをして一人で過ごしていたリリアさんは凄い。尊敬に値する人だ。
「すみません……お金……いつか必ず返します……」
「い、いや。返さなくて大丈夫だよ」
「いえ!必ず返します……。ノアさん達にこれ以上迷惑かけられないです……。それにあんな大金、ノアさんも生活があるのに私なんかの為にありがとうございます」
涙を袖で拭いながら優しい表情を向けてきた。
無理をして作った笑顔。自分は大丈夫と言う顔。心配しないでという顔。
――あぁ、この人は本当に強くて優しい子だな。
だからこそ、良い人が不幸な世の中は嫌いなんだ。
「あのくらいのお金、何ともないよ。また稼げばいいんだからさ」
何も心配ないと、リリアさんに言ったが信じていない目を向けられる。
「その証拠に……ほら」
僕は【空間収納】スキルを発動して、今ある白金貨を全部出してリリアさんに見せる。
「……っ!?」
リリアさんは信じられないと言うばかりに僕と白金貨を何回も交互に見ていた。
口をパクパクと、声にならないぐらい驚いている。
「だから心配しないで。リリアさんはもう家族の様なものだからさ」
「…………ありがとうございます」
リリアさんはもう何度目になるか分からない感謝の言葉を述べ続けた。
感謝されるたびに僕の心は締め付けられた。




