第54話〜 僕の情緒はあの日から 〜
「おい、お前リサーって言ったか? 可愛らしい名前だな。そんなお前にここは似合わないぞー」
いつの間にか喧嘩をやめていたケニーさんは僕を煽るような事を言ってくる。
頑張って考えて自分でまぁまぁ気に入ってた名前なのに、そんな事言われて少しムッとした。
けれど僕もそんなにガキではない。ここに似合わないかはこれからの僕次第だし。
そんな事を自分に言い聞かせ、ケニーさんの事は無視して再び歩き出そうとする。
「おい、逃げんのか?」
挑発してくるけど、あまりにも噛ませ犬感が半端なくて呆れた。
「おいガキ、無視するとはいい度胸じゃねぇか。若くしてレベルが高いからそんなに傲慢なのか? レベルの差なんて魔導具でいくらでも埋めれるんだぜ?」
「それにいくらレベルが高くても自分の身体を使いこなせねぇと雑魚同然。お前はどうだ? まだ15歳、経験浅いだろ。迷宮に潜ったら即死だな」
さっきから黙って聞いていたけど、うん。そうかもしれんね。正論やね。というか、ケニーさん僕の身を案じてくれているところもあるし優しいやんけ!ツンデレかよ!!!!
「ご忠告感謝します。自分の身は自分で守ります。ですので、心配無用です」
なるべく相手が不快に思わないように慣れない丁寧語を喋ったが、どうやら逆効果だったみたい。
「チッ……」
ちょっとー、キスせんといてぇ。
うん、ちょっとウザかったしうるさいから逆効果って分かってながら煽ってみたんだけどね!
テヘペロ!
ケニーさんは頭に血管を浮き出させるくらいに怖い表情をしていて、拳をワナワナと震わせていた。
…………酔ってる人ってこんなに怒りやすいものなの? それとも元々気性が荒い人なのか?
それにしてもヤバいヤバい。ちょっと煽っただけでこれだよ……。はぁ……いい大人がなにやってんだか。
本当に呆れた。ここはそういう人ばっかりなのか?
「おいガキ。表に出ろ」
さっきより落ち着いた低い声。それでいて、身体に響いてくる声音で話しかけられた。
あー、これはめっちゃ怒ってるじゃん……。まぁ、元々表に出ようとしてたんだから良いんだけど。
ギルドの建物の中は、また静まり返っていた。時折小声で話しているのが聞こえる程度。
ケニーさんが怒って皆がこんなに静かになると言う事は、ケニーさんのギルドでの影響力とかが凄いと言うこと……?
え? なに、ケニーさんて結構強い人なのか。噛ませ犬感が凄くて弱い人だと勘違いしてた?!
いやだって、アニメとかでは噛ませ犬キャラは大体弱いって決まってるじゃん?! だから、ここでもそうなのかなって思っちゃうのも仕方ないと思うんだよね!
僕は覚悟を決め、出口に向かって歩く。
扉を少し開け、ケニーさんがゆっくりと歩き出した所で、扉から出る。
扉を閉めて……ダッシュ。
「ッ! 急げ、やばい!」
まともにやり合うとか嫌だよ。目立ちたくないもん。うん、それに絶対勝てるような気がしない。体格差とかもやばいしさ。
実を言うと僕の脳内選択肢には、最初から「逃げる」の3文字しか浮かんでなかったのだ。
ここはアニメとかそういう創作の世界じゃない。その事は勿論わかってる。そう簡単にあんな巨漢の男相手に勝てるわけが無い。現実を見ろ。この世界で生きていくためにはそんな甘い考えを捨てろ。
改めてさっきまでの楽観した考えを捨て慎重に生活しよう。
「おい、ガキどこ行きやがった!!」
後ろからケニーさんの怒鳴り声が聞こえてきたが、もう僕は人混みの中。見つかるわけが無い。
走るのを止めて振り返りケニーさんの顔を見る。
怒りの形相。凄い怒ってる。
まぁ、暫くしたら落ち着くでしょ。大体そうだから。この手の問題は時間が解決するはず。
取り敢えず、今日は物凄く疲れたから『霧の宿屋』に戻る事にした。
何となく皆気付いてたかもしれないが、最近僕の情緒がおかしい……。自分自身、情緒が不安定になり始めたのは気が付いていた。
――そう、あの日……。セル村が『魔物の大暴走』によって壊滅したあの日から…………。
一話しか更新出来なくてすみません。最近違う事の方ばかりに集中してしまって……。頑張って週一更新はします。出来ればもっと更新出来るようにも善処します!