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第48話〜 3つ目の名前 〜

「――デカい……」


  僕は今『冒険者ギルド』と呼ばれる建物の前に立っている。




  昨日の深夜の暗い話の数々で、リリアさんやメアの調子が気になったけど寝たら話をした事自体を忘れたかのように明るくなっていた。


  リリアさんは多分、人に話せてスッキリして。しかも救ってくれる様な人が現れたのだからだろう。


  メアは今まで、本当か分からない両親の死の真実に終止符を打つ事が出来てモヤモヤが晴れたのだろう。



  さて、2人の精神は安定しているようなので、僕は今宿代を払うため換金しに冒険者ギルドなる所に来ている。


  場所はそこら辺の人に聞いても『劣等人』だからというそれだけの理由で教えて貰えない。

  なので、リリアさんに聞いてきた。


  最初にも言った。が、もう一度言う。

  今、冒険者ギルドの建物の前に立っているのだが……。


「デカい……。こんなに大きいのか……」


  思わず2度も同じ感想が口から漏れてしまう様な大きさ。


  地球にいた頃にはこんな大きな建物は、見た事な……いやあるか……。


  水族館とか、ショッピングモールとか。うん、結構あった……。


  でも、こんな住宅街? の街並みの中に一際目立つ大きな建物。

  役所もそこそこ大きかったけど、ここはそれ以上だ。


  ドアの上ら辺には、剣と剣が交差したマークがある。

  役所は紙とペンのマークだったな。



  冒険者ギルドって大体野蛮人とか、怖い人が多くて汚いイメージがあって正直な所ビビっていた。


  けれど、実際冒険者ギルドの外見は綺麗で。出てくる人達もそんなに怖くなさそうだった。




  僕は意を決して扉を開け、中に入る。




「今日はどの迷宮行く?」

「パーティーメンバー募集中でーす!」

「おい、勝てよぉー!! お前に賭けてたんだぞッ!」


  中に入ると外からは想像もつかないような喧騒に圧倒された。


  パーティーの仲間との今日の予定を話し合う人達。メンバーを募集している人達。

  何かを賭けて昼からお酒を飲んで遊んでいる人達。


  様々な明るい声や笑い声で満たされていた。




  その中で気になる会話が耳に入ってきた。




「そういえば聞いたか……? 最近やたらと魔物の数が多くなって来てるんだってよ」

「あぁ、それ聞いたよ。迷宮の外でもだってね……」



  どうやら、僕がこの世界に来た使命を果たさないと行けない日は近そうだ。



  それまでにもっと強くならないとな……。


  また朝から走り込んで剣の素振りとかしないとなぁ……と周りを見渡しながら受付カウンターらしきものの所に辿り着いた。



「……ッ?! ……あっ、冒険者ギルド南支部へようこそ。今日はどう言ったご要件でしょうか?」



  受付のお姉さんは、一瞬驚いたものの直ぐに要件を聞いてきた。


  南支部――王都マーティンはどうやら東西南北で区域が分かれていて、中央に本部があるのだろう。


  それだけ、マーティンが広いという事が分かる。

  役所の人は南支部とか言ってたなかったけど、多分言い忘れかな……?

  『劣等人』相手で、ちょっと動揺していたのもあったしね。



  僕はまたもや、女性の受付の人でたじろぎながら

「あ、えぇっと……換金して欲しい物があるんですけど……」

  何とか要件を言うことに成功。


  ふぅ……何とか言えたけど、受付の人の女性率が高過ぎる!! 男の受付の人もいたけど、目付きも体つきも怖くて話せる気がしないッ!!


「し、失礼ですが『ギルドカード』はお持ちですか? ギルドカードをご提示されないと、換金は出来ないのです……」


「えっと……持ってないです」


「では、新しくお作りになられますか……?」

「あ、はい。お願いします」


  ギルドカードってなにィッ?! 僕知らないんだけど……。

  冒険者ギルド以外にも、商業ギルドとか他にもありそうな予感……。


「証明書をご提示されたら、直ぐに作ることが出来ますが……どう致しますか?」


 《空間収納》で亜空間には入れてあるが……。


「出さないと作れないんですか?」


「いえ。その代わり、作るのにお金を頂くことになります」


  証明書と言い、ギルドカードといい。どんだけお金取るんだ……。まぁ地球でもこんな感じだったから、政治とかは結構しっかりしているのかな?


  でも、セル村の管理とかその辺の事がまだ詳しく分からないな。こんな良い感じの政治の国なのにと疑問が浮かぶ。怒りはまだ少しあるが、何故か前よりは少し収まってきていた。



「じゃあ、換金する時にそのカードの料金を引いて貰ってもいいですか?」


「かしこまりました。では、お名前を伺ってもよろしいですか?」


「……リサーです」


  少しの間の後、『川崎健人』でもなく『ノア』でもなく『リサー』と答えた。



  リサーはロシア語で『狐』だからこの名前にした。

  何故ノアと名乗らなかったのか、それは僕が『劣等人』のノアとバレないようにだ。


  だから、今は狐の仮面をして狐の耳付きフードも被っている。

  だから、受付のお姉さんと少しスラスラと話せているのだ。


  ん? 何故僕がポーラさんやメアの名前の意味とか『狐』の他言語を知っていたかって? そりゃ地球で引きこもっていた頃時間がたっぷりあったから、調べてただけだよ。

  ラノベとか読んだらついつい、カッコイイ他国語を調べたくなるじゃない? それの延長線。


「――✕✕さん? …………サーさーん?」


  因みにリリアさんはリリーの変形で、ラテン語の百合を意味する。

  百合の花言葉は、『純粋』『無垢』『威厳』だね。


  純粋と無垢は当てはまるかな……? 威厳は……うん無さそう。寧ろ護ってあげたくなる。



「――リサーさん!」


「はいっ?!」


  受付の人の声に思わずビクリと肩を跳ねさせる。


「な、なんですか?」

「もう、なんですかじゃないですよ! ちゃんと話を聞いてください!」


  受付のお姉さんは、少し怒気を含んだ声で言う。


「す、すみません……」


  やばい、やっちゃった……。ついつい自分の世界に入り込んでしまった。

  陰キャ人見知りコミュ障のダメなところだね。

  頭では色々考えているけど、言葉として言わないみたいな。


「はい、この水晶に手を乗せてください」


「はい……」


  今度はちゃんと言う通りに役所でやった事と同じ事をする。


  水晶は淡い光を発し、しばらくして消えた。


「ッ?! えっ?!」


  水晶に表示された物を見ると受付の人は目を見開き、僕と水晶とを交互に見る。




  ……………………デジャヴだ。



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