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第42話〜 『霧の宿屋』の女の子 〜

  僕と同様に、メアも言葉を失っていたらしい。


  僕らの視界に映った人物は、声からは全く想像がつかないメアと同じくらいの幼い女の子だった。


  メアよりは少し身長が高いのだろうが、猫背でメアとあまり変わらないように見える。そして、身体は痩せ細っている。

  ヨレヨレの服装やこの悪い立地に住んでいる事から、貧相な暮らしをしているのが容易に想像できた。


「冷やかしなら……、用がないなら帰ってくれますか……?」


  女の子は、目を鋭くさせて睨んできた。


  その気迫に動揺してたじろぐ僕。いやまぁ、人見知り&コミュ障だから人の前ではいつもあたふたするんだけども……。


  僕が言葉を発せないでいるとそれを見兼ねてメアが代わりに喋ってくれた。


「ここ宿屋ー?」


  メアは相手の女の子の気分に合わせたのか、いつもより声量を落として。でも声のトーンはいつも通りに話しかけた。


  うぇ、メアって人との接し方上手いな……凄いなぁー。


  憂鬱な気分の時に、元気で大きな声が聞こえて来たら誰でも嫌な気持ちになるからね。

  その配慮を忘れないメアは流石だ。敬語を使ってないが、それは置いておこう。


「そうですけど……?」


  女の子は相変わらず、淡々とだるそうに答える。


「じゃあ泊めて下さいー!」


「………………は?」


  女の子はメアが言っている事が理解できないようだった。


「何言って……――」

「――お邪魔しまーす」


  メアは、女の子の言葉を遮り。なりふり構わずズカズカと宿屋に入っていく。


「す、すみません。お邪魔します……」


  少し躊躇う気持ちもあるが、メアについて行くように僕も入る。


「あ……え? はい…………」


  あ、お金渡さないと。


「あ、あの……これ、今お金が無いから代わりにこの宝石で……」


  そう言って僕はポケット内で《空間収納》を発動してあたかもポケットから出したかのようにする。


「あ、わ、わかりました……」


  宝石を差し出しても何故か呆然としている女の子。

  埒が明かないので、手を取って無理やり宝石を握らせた。


「…………ハッ! …………えっ?! えぇぇええッ!!」


  我に返った女の子は、手の宝石を見るなり見た目にそぐわず大きな声をあげた。


  僕とメアはそれに体をビクッと震えさせて、顔を見合わせる。

  そして、同時に首を傾げる。


「こ、こんなの困りますッ! 私の手には負えません!」


「え、えっと……ダメなの?」


「……は、はい。その……こんな貧乏人が急にそんな高価な物を換金しに行ったら明らかにおかしいじゃないですか。盗みでもしたのかと疑われてお終いですよ……」


  女の子は自分の今の状況をよく理解しているようで、切ない表情をしていた。

  その事を自らの口から話させてしまったのは酷な事だったなと今更後悔した。


「あー、ノア? 明日換金に行ってお金渡せる?」

「え? うん。出来ると思うけど……」


  何も問題が起きなければだけど。


「ならさ。その宝石をお金渡すまで代わりに持ってて。そして、明日わたしはここに残る。そしたら、逃げずにちゃんとノアが換金してきたお金を払うって保証になるでしょ?」


  あぁ、なるほど? つまり銀行とかお金貸す所とか、そんな感じの仕組みかな。わかんないけど。

  もっと社会の事勉強しとくんだったな……。







  宝石をとりあえず今日泊めてくれる担保にして。そして、ちゃんと払うっていう保証人がここに残るメア。


「よ、よくわかんないけど……ちゃんと払うなら……」


「よし、決まりねー!」


  メアの考えの意味がよく分かっていないような気がするが、泊めてくれることを承諾してくれたので良しとしよう。


「あ、あの……。でも本当にここに泊まるんですか……?」


「うん、勿論。ね? メア」

「泊まるよー!」


  役所で宿屋の場所を教えてくれたのは、証明書を作ってくれたお姉さんとはまた違う男の人だった。


  多分その人は嫌がらせでこの宿屋を教えてきたんだろう。僕が『劣等人』というだけで。


  最初は嫌だったけど、こんな不憫な子が働いているなんて知ったら泊まる以外の選択肢なんてない。

  外はもう真っ暗でほかの宿を探す気力も時間もないしね。


「あ……ありがとうございます。『霧の宿屋』へようこそ! 見ての通り何もなくて汚いですけど……」


  女の子は接客モードになったのか、頭を下げてお礼を言ってきた。


「大丈夫。気にしてないよ」


  宿屋を一目見た時は、マジかぁと思ってしまったけどそれは内緒。



  最初はホント、声からしてどれだけ怖い人が出てくるんだと思っていたけど蓋を開けてみたらなんてことの無い可愛らしい女の子ではないか。






  どの世界でも苦労している人達はいるんだな……と遣る瀬無い気持ちになった。



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